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15 魔境に立ち入った者

 オリヴィアがイデアを展開してから始まるまでは短かった。影の展開範囲をロビー全体に広げ、四方八方からクラウディオを狙う。


「そうくるなら俺も応えるまでだ!」


 影に抵抗するかのようにオリヴィアの周りに展開される紅色のナイフ。これはイデアさえ焼き消す、触れてはいけない代物。イデア使いの天敵。

 展開されたままのナイフが動き出す。どれもオリヴィアのイデアではなくオリヴィア自身を狙ったものだ。


「見えてる。確かに能力は初見殺しだけど……!」


 ナイフを引きつけて跳びあがる。下を見れば、展開していた影が消え、さらには石床までも融けている。


 ――当たらなくてよかった。けど、当てられない攻撃があるのなら……いや……


 すぐに答えにたどり着いた。攻撃させなければいい。それくらいの激しい攻撃をオリヴィアがし続ければいい。オリヴィアは天井や壁にまで展開範囲を広げ。


「もう何もさせない、せいぜいあなたなりに足掻けばいい」


 オリヴィアは攻撃に移る。部屋呪の影から刃が伸びる。クラウディオは紅色の刃を展開。ナイフは影を切り裂いたが――影は畳みかけるように襲い来る。


「ちっ……物量押しか!」


 クラウディオはさらにナイフを展開する。それだけではない。クラウディオの右手には赤い剣が。晃真はこの攻撃については何も言っていなかった。

 クラウディオはオリヴィアとの距離を詰める。


 ―舵手こいつ、近距離でもやれるの!?


 オリヴィは目を見開いた、紅い剣を片手に襲い掛かる。防御するために展開した影はいともたやすく切り裂かれた。やはり、避けるしかない。オリヴィアは身を翻し、剣を躱す。避けられた、と思ったその時。オリヴィアの左腕に熱と痛みが走る。先に攻撃を当てたのはクラウディオだった。


「……痛みで目が覚めた。この空間なら、あなたを殺せる」


 失われたからだの一部はイデアで代替できる。オリヴィアの場合は戦いを続けられる。

 剣の届かないギリギリのところに飛びのき、影の刃を放つ。さらに足元、頭上、背後、横のあらゆる方向から。


 ――殺す。ここで、必ず。殺すのはわたしだ。


 ついい影がクラウディオをとらえた。そうなってからは早かった。二府を上回る速さで影の刃が体を貫いていく。クラウディオは血を流して倒れた。案外あっけない最期だった。


「能力からしてクラウディオだろうけど……なんか拍子抜けしたかも。こんなにあっさり死んでしまうなんて」


 オリヴィアはつぶやいた。立ちはだかってきたわりに、簡単に斃せてしまった。オリヴィアはここに妙なものを感じた。それは違和感というよりは――


 ――見掛け倒しなの? クラウディオって。


 場所は建物の裏手に移る。晃真が建物内に入ったとき、すでに建物内で戦いが始まっていることに気づく。上で、正面の方で。イデア使いが能力を使った気配がひしひしと伝わってくるのだ。


 ――オリヴィアか、キルスティか、ジェットか、誰にしろ戦わなくてはランスを取り戻せない。それに……


 晃真の脳裏にある男の顔が浮かぶ。クラウディオ・プッチーニ。あわよくば彼と再戦し、あの面を今度こそ焼き潰したいとさえ考えていた。だが、晃真の前に現れたのは。


「おい、こいつ1人だってよ。馬鹿だな」


「全くです。ここは魔境だというのに」


 麻薬密売組織の2人組、アントニオとクルスだった。2人はニヤニヤと笑いながら言った。


「殴り込みのつもりですか? 無駄なことを」


 クルスはそう言ってイデアを展開し、アントニオもそれに続く。クルスは悪魔のような翼を、アントニオはいくつもの星型の輝く塊を出した。それがこの2人の能力。


「受けて立つ!」


 晃真が拳を構えたときにはすでにアントニオが動いていた。展開したイデアを振りかざしたと思えば、彼が狙っていたのは直接攻撃。


 ――油断した!? こいつの能力は……


 拳はなんとか防ぐが問題はその後。輝く塊はその近く――いや、それらの間にあるものを消した。ちょうど晃真の上着の一部が失われた。


「驚きましたか。そうでしょうね」


 その声とともに後ろに回り込んだのはクルス。鍔のない刀を抜いて晃真に斬り込んだ。


「逃げ場なんてねえよ! 俺はおぶじぇくとを消せるんだからよ!」


 避けた先にはアントニオ。晃真は彩度ステップでさらに回避。間に合わなければ消されていた。


 ――片方だけならまだいい。問題はこいつらが2人だということ。はっきり言って厳しい。


 2人の攻撃の合間、晃真は辺りの条件を確認した。ここは廊下、ちょうどT字の道。晃真が来た方ではなく、あの2人が来た方であれば距離は取れるだろう。2人の弱点は距離。挟まれなければいい。が、2人が行く手を塞ぐ。


 ――強行突破だ。星の方は、恐らく頭はよくない。


 晃真はここでイデアを展開する。マグマのように光る熱の塊をちらつかせ、別の塊を放つ。アントニオは塊そのものを消し、クルスは避ける。避けてから無駄のない動きで斬り込む。晃真は左の拳で受け止めるが――刃が拳に食い込む。アントニオが動く前に刀を振り払った。


「案外力任せではないですか」


 クルスはそう言うだけで追撃はしない、追撃したのはアントニオだ。晃真の距離を詰め、星型のイデアを再展開する。


「だから俺とは相性がいいな」


 星が光る。このタイミングだ、晃真は星型のイデアに熱の塊をぶつけた。だが――それで相殺するには至らない。


「そんなんじゃクルスは倒せても俺には勝てねーよ」



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