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11 深淵を覗く

 人質は取った。が、人質のドクター・ロウは肝心なことを話さない。密室に閉じ込められたドクター・ロウを見てサーリーはため息をついた。


「君から得られる情報は無しか。臓器を抜いていたとはいえ、君は利用されているに過ぎないだろう?」


 と、サーリーは言った。


「それはどうだろうな。そもそも私の吐いた情報が真実と思うならそれこそ馬鹿げた話だ」


「かもしれないな。調べるべきことを調べたらまた来る」


 サーリーはそう言って牢というには豪華すぎる部屋を出た。ロウは監禁されているというよりはもてなされているようにも見える。

 ドクター・ロウ。臓器売買勢力レイヴンライトの闇医者。キルスティやオリヴィア伝えい仕入れた彼の情報を彼自身に確認したところではぐらかされるだけ。ロウはサーリーのことを警戒しているのだろう。サーリーがその目で見て分かったことは、ロウに戦えるほどの力も度胸もないことくらいだ。


 ――こうなれば俺だけで探りを入れる他はないってことか。こんな魔境でやりたくはなかったが。ランスがいないなら仕方がない。


 マルクト支部の1階に戻ってきたサーリー。1階の休憩室では珍しくキルスティがくつろいでいた。


「ドクター・ロウと話してきたんだろ。どうだった?」


 キルスティは尋ねた。


「大した情報は……いや、彼が魔境マルクト区で生きていけているのが不思議だというくらいはわかった。恐らく、臓器売買勢力以上の後ろ盾でもあるんだろうな。全く、闇医者が君のようなきれいな女性だったらよかったのに」


「そううまくいくはずがないだろ。で、まだ何かやろうとしていることがあるだろ」


 キルスティは言った。


「止めるなよ、キルスティ。調査に出る。ドクター・ロウから得られた情報がほとんどないからな」


 サーリーには止めることもできない凄みがあった。キルスティは戦ってでも止めるつもりだったが、それも諦める。




 ついにサーリーが自ら動く。最も人が少ない未明に「少し探し物をしに行く」とだけ告げてマルクト支部を出る。

 比較的安全なマルクト支部近くには所謂屑拾いたちが出歩いている。彼らはサーリーには無関心な様子。それでいい、とでもいうかのようにサーリーは通り過ぎる。今の目標は屑拾いではない。今の目標は――


 場所は麻薬密売勢力の勢力圏に移る。やはり雰囲気は大きく変わる。サーリーは護身用に持っている銃に触れる。


 ――なんだ、このひりつくような感覚は。それなのに、なぜ襲ってこない?


 違和感はこのときからあった。今にも誰かが襲ってきそうな状況でもサーリーは先に進む。そして件の5階建ての建物が見えてきた。サーリーは日が昇らないうちに建物に忍び込むのだった。


 件の建物の中。まだ誰にも見つかっていない。建物の中、人が通らないところを通り、目的の場所へ。途中、何人かサーリーの見覚えのある人を見た。イデア使いのクルスとアントニオ、2人のほかには見覚えのないイデア使い何人か。そのような者を見るたびにサーリーは自身の能力を使う。

 サーリーのイデアはモニターかパネルのような見た目をしている。見聞きする時間に比例して対象の情報が付け足されていく。


 ――今の人はグラシエラ・パロミノ。能力は恐怖を操る能力。こうやって見られるレベルが7なあたり、かなり強いな。だが、果たしてこの勢力の一員か?


 サーリーは通り過ぎるグラシエラを注視しつつ先に進む。次に見たのは3人の男女が2階の部屋で話をしているところだった。紫髪で三つ編みが特徴的な女、ウェーブがかった肩くらいまでの黒髪の体格のいい男、眼鏡をかけた女がいる。サーリーはすぐさまイデアを展開する。彼らの名前はそれぞれ麗華、クラウディオ、ロムというようだ。サーリーはその名前に心当たりがあった。


 ――あとの2人はともかく、麗華は知っている。問題はあいつらがどこまでつながっているかだが。とにかく、3人の能力は把握した。話の内容からやろうとしていることも把握した。あとはずらかるだけか……


「で、犯人の目星はついているね?」


 そう言ったのは麗華。


「問題ないわ。ロウを追えばいい。ロウを連れ去った連中はオリヴィアたち。私はオリヴィアを連れ戻せる。あんた達は報復できる」


 ろ、ロムは言った。


「あちらさんはこれで阻止できるとでも思っただろうが無駄だ。俺たちが上をいくんだよ」


 今度はクラディオが言った。


「おい、リンジー。やれ。ネズミが……」

「その必要はないね」


 麗華が制止する。彼女の姿を見たサーリーは悪寒がした。


 ――いつから気づかれていた? 3人の会話を聞いていたときからか? グラシエラ達を見たときからか? もっと前からか?


 心臓が早鐘を打つ。本能的に、はめられていると感じたサーリー。何が本当のことかもわからなくなりながら撤退する。




「いつからすべてうまくいったと思っていた? 我々が全容を知られることなどない。お前が見ていたものはすべてお前の望んでいたものにすぎないわ。我々はつねに暗躍している。我々の情報を掴むことはできない」


 麗華たちのいた建物の3階。1人のスナイパーが狙撃銃を机の上に置いた。

 スナイパーはフードを脱いで深呼吸する。彼女はってものから逃げ帰るサーリーの様子を見て不敵に笑う。


「昴がサボるから私がやる羽目になったけれど……手は出させない。殺されるのはモーゼスで最後だ」



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