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10 人質たち

 ――はっきりと痛みを感じる。どうやら生きているらしい。


 晃真は薄目を開けた。見慣れない風景が視界に飛び込んでくる。小屋のようだが手術をするような設備もある。あの銀髪は――


「キルスティ…………!? なんでここにいる!?」


 晃真は言った。


「気付いたか。ジダンのやつはもう起きてる。ま、あんたの傷は深かった。私が助けたとはいえ、よく生きてられたって感じだ」


 と、キルスティは言った。


「そうか……俺が生きていられるのはキルスティのおかげか……」


 晃真は言った。


「はは、感謝しな。違和感に気付いたエミーリアとオリヴィアにもな。それからここを明け渡してくれた闇医者の野郎にも」


「闇医者……?」


 晃真は尋ねた。

 するとキルスティは「そうだった」と言うようにこれまでの経緯を説明した。晃真とジダンはいつ死んでもおかしくなかったこと。この小屋はドクター・ロウという男の所有物だということ。ドクター・ロウは臓器売買勢力なんかとつながった闇医者だということ。そして――


「ドクター・ロウはヒルダからモツを抜くことになっていたがオリヴィアの思いつきで2つの勢力とやり合うことになった。そのへんが今までに起きたことだ」


 キルスティはそう締めくくる。


「俺たちだけでやる予定だったんだがな……」


 晃真は言った。


「勢力2つだよ。1つならまだしも」


 と、オリヴィア。


「……そうだな」


「これから私たちはドクター・ロウを連れてマルクト支部に戻る。細かい作戦については後で話すから。さすがにここだと盗聴の心配があるのでね?」


 今度はエミーリアが言った。


「帰ろう、マルクト支部へ」




 一行はマルクト支部に帰りついた。

 まずパスカルが出迎える。2日はいなかったということでパスカルもさぞ心配していたことだろう。

 ロビーでは残っていたメンバーが待っていた。


「ほらね、ジダンは帰ってくると言っただろう?」


 一行の様子を見るなり千春は言った。すると、その声が耳に入ったのかキルスティが千春の前に出る。


「よく言うよ。私がいなければ晃真もジダンも死んでいたというのに」


 と、キルスティ。


「そんなことは聞いていない。ところでそいつは誰かな? マルクト支部以外の人間を安易に入れないでくれるかい?」


 すでに千春の興味もとい警戒心はドクター・ロウに移っていた。この中で最も信用できない人間だと判断していたから。


「人質だ。臓器売買勢力と、ランスを連れ去った連中に対してのね。こいつがモツを抜いてるって言うんで連れてきてみた。話を聞く限り、お抱えと言っても仕方ないらしいね?」


 このときのキルスティはとても悪い顔をしていた。人質のドクター・ロウは何とも言えない表情で眼をそらす。


「いいことを考えたな。俺もどちらかを犠牲にするしかないと思っていたくらいだ」


 これまでずっと黙っていたサーリーが言った。


「はは……私に人質としての価値があることを祈っているといい……」


 恐怖心をあらわにしてドクター・ロウは言った。マルクト区で臓器売買に関わっていながら小心者なのだろう。


「黙りな。この状況を見ればあんたに不利なのはよくわかるだろう?」


 エミーリアは言う。

 とはいえ、彼女たちにとってもロウを殺すことは得策ではなかった。




「これはどういうつもりだ? クスリ臭いぞ」


 ここはマルクト区、麻薬売買勢力テンパレンスの本拠地。椅子に縛り付けられた状態でランスは言った。


「快楽を植え付けるだけね。知てるだろ、クスリに溺れる快楽は」


 ランスの目の前で麗華は言った。その手にはまだ何も握ってはいないが声は本気だ。


「あいにくそんな体ではなくなったんでね。俺の体はとある医者の手で改造済みだ」


「ふうん……その医者の名を言わせたところでお前は言うはずがないね。それは私にもわかる。お前は口がかたいね」


 麗華は言った。


「そうだろう。こんなナリでもマルクト支部を率いている。立場上、守らなくてはならないことが多いんでね」


 と、ランス。

 平静を装う。今、彼が考えていることを知られてはならない。


 ――俺がいない間にサーリーは上手くやれているだろうか。いや、いずれ俺は自力で戻る。だから彼らを差し出すようなことだけはやめてくれよ。


「まさか、自力脱出しようなんて思てないね?」


「はは、まさか。だが俺に手を出したことであいつらが黙っているとでも思わないことだ。引き渡しには同意するだろうが、俺が死ぬとなれば黙っていないはずだ。それに、俺もあいつを信頼している」


 こうやって余裕を見せるが、考えを読まれていたことには変わりない。麗華はランスが予想していた以上に手強い相手だった。おそらく、自身の無事を知らせようにも気づかれるだろう。

 麗華は油断する様子を見せない。少しでもランスに不信感を抱けば――いや、少しでもランスが危険だと判断すればイデアを展開しようとする。彼女の能力がわかっていない以上、ランスは下手に行動できないでいた。


「ふーん……信頼……信頼か。まさかこの地でその言葉を聞けるとは思わなかたね。ここは、金と暴力がものをいう世界だというのに……信頼……」


 麗華は少し何かを考えた後。


「この地はもはやお前がいるべき場所じゃないね」



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