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9 2人の闇医者

オリヴィアたちは無法者たちの土地へ、本格的に足を踏み入れた。とはいえ、マルクト支部の影響を受けている地域はまだましな方だ。少し歩いたところでオリヴィアはイデアを展開する。


「昼間だけど、これだけ陰があればできないこともないから」


と、オリヴィアは言う。

彼女の目的は偵察だ。近くに誰がいるのかもわからない中で、未知の場所で動き回るのはさすがに無茶だと考えていた。


オリヴィアの表情が険しくなった。


「どうしたんだい、オリヴィア。何かよくないものでも見つけたかい?」


エミーリアは尋ねた。するとオリヴィアは。


「晃真を見つけたかもしれない。けど、イデアの気配とその場から動かないあたり、かなり危ない状態かも」


エミーリアの顔を見ることなくそう言うのだった。


「わたしについてきて。キルスティもエミーリアも行ったことがないだろうから」


「危ない状態ってなら急ぐしかないな。おそらく私が出て正解だったってことか」


と、キルスティ。

3人は再び足を急がせた。向かう先はマルクト区の東の端の魔境。臓器売買勢力の巣食うエリアだ。


――晃真、まさか臓器抜かれていたりしないよね……?


そして臓器売買勢力のエリア。ここに足を踏み入れてから雰囲気ががらりと変わった。明らかに浮浪者が減ったのだ。


「……流石は魔境だ」


キルスティは呟き、足を止めたと思えば――


「来る! 足止めか何か知らないがっ!」


キルスティは何者かからの攻撃をかわす。

それはイデア使いを閉じ込めて能力を封じ込める箱だった。キルスティはその能力を知っている。知っているからこそ、本体にも気付く。


「私たちの邪魔をするなよ」


そう言うと、攻撃者――ルートビアの皮膚に鋏で傷を入れた。傷こそ浅いものの、これで勝負は決まったようなものだ。


「何だ!? 少しちょっかいかけただけなのに!」


「それが命取りだって話だ。お前の悪運ももう終わりみたいだな?」


と、キルスティ。

彼女がそう言ったとき、ルートビアはその身の異変に気付いた。体の穴という穴から零れ落ちる血液。それは紛れもない死の前兆――


「ああああああぁぁぁぁぁあああ!?」


血を吐きながら叫び、ルートビアは地面に崩れ落ちる。彼が事切れるまでそう長くはないだろう。


「先を急ごう」


と、キルスティ。オリヴィアは頷き、再び走り出す。気配は近い。3人は掘っ立て小屋のところを曲がる。

そこに晃真とジダンはいた。もちろん彼らは意識を失っているようで全身が焼かれたようだった。特に酷いのは晃真だ。死んでもおかしくないほどの火傷、骨を粉々に砕かれた四肢。


痛ましい様子を見てオリヴィアは顔を歪める。


「おーおー、死なないか不安だって? 私をなめるな。どっちも生かしてやるから」


と、キルスティ。

そう彼女は言うものの、やはりギリギリの状態だということはわかっていた。


バックパックから痛み止めと消毒用の薬と包帯を取り出し、晃真とジダンに処置をする。消毒して、塞げる傷は塞いで、痛み止めを打って、包帯を巻く。これができるキルスティでなければ晃真を助けることはできなかっただろう。


「ここでできる処置は終わったよ。あとは晃真を連れて戻りたいところだが……」


キルスティは患者2人に目をやった。この2人を抱えて戻るのはさぞ大変だろう。特にキルスティ。


「困った。エミーリアはともかく私とオリヴィアはか弱いから連れて帰るのも一苦労だな?」


キルスティは言った。


「わ、わたし、晃真くらいなら……」

「いいや、本格的な処置を早めにしたいしその小屋を借りるかな」


オリヴィアの言葉を遮って提案するキルスティ。さっそく彼女は小屋へと足を踏み入れた。


「へえ、ビンゴじゃん。なあ、お医者さんよお?」


キルスティは小屋の中を見渡して言った。

狭いが人を1人手術できる設備はある。さらに医者らしき人までいるではないか。


「な……何のつもりだ……!? 臓器なら保管庫にある……!」


医者らしき中年男性は言った。


「臓器はいらない。血液はいるかもしれないが、場所を貸してくれればそれでいい。私は天才だし強い。なあ、お医者さん?」


このときのキルスティは右手に鋏を持っていた。


「……あぁ。君たちは、レイヴンライトの連中ではないんだな?」


医者の男は言った。


「なわけないだろう。私はモツ抜きなんざせずとも治療はできるし、求めているのは場所だ。ま、情報もあると助かるが」


「いいだろう……場所は提供する……断ったとして私を殺すだろう?」


「物わかりがいいこった」


と、キルスティ。

彼女の後ろにいたエミーリアがまず晃真を運び込み、処置台に寝かせた。


「おら、お医者さんよ。ちょっと離れててくれよ?」


キルスティはそう言い、小屋の中にいるのは彼女と晃真だけになった。


医者の男が外に出るとオリヴィアが待ち構えていた。


「ねえ、あなたは誰?」


オリヴィアは言った。


「闇医者……ドクター・ロウと呼ばれている。ここにいる時点でやってきたことはお察しの通りだ」


医者の男はドクター・ロウというようだ。彼がしてきたことが気になったオリヴィアは好奇心のあまりに口を開く。


「ここの医者だから臓器摘出ってことはわかった。じゃあ、誰に命令されたの?」


「臓器売買グループのボスからだ……取引先がとんでもない相手のようで……」


ドクター・ロウは言った。


「続けて。そのとんでもない相手って? わたし達に言えない相手なの?」


まさに尋問だった。ドクター・ロウは顔を青くして再び口を開く。


「言えない。言えば今度は私の臓器を抜き取られてしまう……! マルクト支部から引き渡されるやつの臓器を抜けば今度は私の番だ……」


「うん?」


彼の言葉に反応したのはエミーリアだった。


「いいこと教えてやろうか、ドクター・ロウ。引き渡される予定になっているやつは私の家族。もし手を出してくれればわかるかい?」


エミーリアはオリヴィアとともに冷酷な眼差しをなげかける。

ドクター・ロウは口を滑らせた。せめて沈黙を貫けばこうなることはなかっただろうが。


「ああ……だが死にたくない……! 私は……」

「いいじゃない。重圧から解放されるんだから」


今度はオリヴィアが言う。


「だが私が殺されたところで他の誰かが……」

「やらせないよ?」


オリヴィアはドクター・ロウの言葉を遮った。そして。


「……潰しちゃおっか。麻薬の組織も臓器売買のところも」


エミーリアに向けてそう言った。


「あー、そこに行き着いちゃう? 確かに理にかなっているといえばそうだけどさ」


と、エミーリア。


「パスカルならそうすると思うの。いいでしょ? こいつなら人質にするし」


「仕方ない……ということだ、ドクター。あんたは私らの人質」


エミーリアが言うと、ドクター・ロウはため息をついた。


「果たして私に人質としての価値があるのやら……」



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