7 閉じ込める能力
サバイとルートビア。かつてオリヴィアはこの2人とともに行動したことがあった。
ある宗教施設を襲撃し、関係者を殺害するという任務を請け負うとき。ロムの計らいで3人が顔を合わせることになった。戦ううえで、3人は互いに能力を隠していたが――オリヴィアは偶然2人の能力を知ることとなったのだった。
知った人間2人を相手取るオリヴィア。今、ともに戦っているパスカルに目を向けた。
「その能力が結構まずいものだとはわかった。対処法は?」
と、パスカル。
「私に任せること。本当に、接近戦を挑んではいけないから。それよりも閉じ込められたときのことを考えて」
オリヴィアはそう言うなり、サバイの首筋に影の手をつきつけた。
「そういえば私の前に現れたとき、焦ってたでしょ」
そう言うと、オリヴィアはサバイの首に影の手刀で傷を入れた。切られた頸動脈から血が噴き出し、サバイはその場に倒れる。それと同時に――パスカルとオリヴィアのイデアが消失した。それに真っ先に気づいたパスカル。
「どういうこと? これがもしかして……?」
「うん、私たちは閉じ込められた。時間稼ぎか知らないけど、本当に考えたものだ。首くらい落とせたらよかったのに……!」
オリヴィアは言った。
イデアがない状態。ほぼ丸腰となった2人は武器もなしに敵とは戦えない。
「パスカル。ここって鮮血の夜明団の所有でしょ。武器とか、ある?」
「それは確かめない限りはわからないけど。まさか森ごと吹っ飛ばしたりでもする……?」
と、パスカルは聞き返す。すると。
「そのつもり。そうだね……できればロケットランチャーでも使って吹っ飛ばせたらいいな。場所自体はだいたいわかるから、面制圧できればそれでどうにかなる」
オリヴィアはそう提案した。
イデアを使うことができれば、対処は簡単にできたはずだ。だが、対処できたのはサバイだけ。肝心のルートビアは森の奥からオリヴィアたちを確実に狙って無力化してきた。
「一応聞くけれど、仮に突っ込めばどうなるの?」
「やられる。能力は確かにこれだけだと思うけど、あいつ普通に戦っても強いから。イデアを使える前提の相手なんて簡単に斃してしまうくらい」
オリヴィアは敵――ルートビアについての知識をできる限り話す。
それもすべて、以前ともに戦ったときの記憶を頼りにしている。変わったこともあるだろうが、そのときの知識でどうにかできるだろうと考えていた。
「了解。オリヴィアは調査拠点の倉庫からロケットランチャーを出してきて。使いすぎない方がいいとは言われているけど、必要なことに変わりはない。使うなら今だから」
と、パスカルは言った。
オリヴィアは踵を返し、調査拠点の中へ。裏口があったので、すんなりと倉庫に立ち入ることができるのだ。
倉庫の中は何かが勝手に持ち出された形跡もない。だが、置かれていた武器の手入れはなされているようだ。正確には、時々武器が使われていても補充やメンテナンスは行われているということなのだろう。
爆発を防ぐ透明なケースに入っているのがロケットランチャーなどの爆発物だろう。やはり危険物だということで厳重に仕舞われている。
オリヴィアはケースをどうにかして開けてロケットランチャーを取り出した。それはイデアを封じられても扱える代物。イデア使いが広く認知されるようになってから14年経ったいまではそういった方面での研究も進んできているのだ。
オリヴィアはロケットランチャーを持ち出し、外に出た。
「来たよ、パスカル。どのあたりに撃てばいい?」
オリヴィアは尋ねる。
「うん、あのあたりかな」
パスカルはそう言ってルートビアがいる方向を指さした。
するとオリヴィアはその方向に照準を定める。
「やるからね……!」
と、オリヴィア。そうして彼女はロケットランチャーのトリガーを引いた。
弾頭が発射され。森の木々の間をすり抜けて着弾したところで爆発。想定よりも手前の着弾となった。
イデア使いの気配が消えなかったことで、オリヴィアは眉根を寄せた。それでも、イデアを妨害するものは消えた。さらに。
「逃げてる!?」
と、パスカル。
彼女の言うとおり、ルートビアの気配は遠ざかっている。彼を逃すまいとオリヴィアは影の手を伸ばす。だが、木々の隙間から伸びる光のせいでそれは届かない。
「逃がしてしまった……」
オリヴィアは吐き捨てるようにして言った。
「仕方ないよ。遠距離で戦う装備はあまり整っていなかったわけだし、森の中から襲撃されるのもつらいでしょ?」
パスカルはそう言ってオリヴィアをフォローする。彼女は決して仲間を責めたり否定することはない。
「そうだね……でも、あのとき私が一撃で仕留めていれば……」
「次がある。襲撃されても、私たちには対抗する手段があるんだから。それと、陽動の方に行こっか。ヒルダとランスがまだ戦ってるみたい。もしかしたら苦戦しているのかも」
パスカルがそう言うとオリヴィアは頷いた。だが、2人が苦戦しているというのは杞憂に終わることになる。