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2 マルクト支部

「ついたぞ!」


 塀の中で車がとまった。

 ここが鮮血の夜明団マルクト支部。車をおりると構成員らしき人たち5人がオリヴィアたちを出迎えた。


「おかえり、ランス。彼女たちが噂の」


「おう。本当は3人だがシンラクロスで合流した人もいるぞ」


 ランスは晃真たちの方に目を向ける。


「なるほどね。皆美人さんだ。特に君。髪も顔も……」


 ピンク色の髪の青年――サーリーは言う。が、すぐにサーリーは晃真の殺意に満ちた視線に気付く。


「サーリーのことは気にしなくていいから。それより情報収集のことだけど」


 やけに露出度の低い服装をした女が言った。


「そうだよヴェロニカ! パスカルたちがここに来た理由。ロムって人のことについてこちらで少し調査してみたぞ」


 と、サーリー。


「というわけだ、ここから先は知られると危険だから地下に行くぞ。人数もできる限り絞る。そうだな、俺とオリヴィアとパスカル。それからあと1人、聞かれたときに対処できるやつ」


 ランスは言う。すると。


「なら俺が行こうか。地下ならオリヴィアもうまく戦えるだろうが心配だ」


 晃真が名乗り出た。


「ようし、じゃあついてこい。サーリーたちは他の3人のことを頼んだぞ」


 オリヴィアたちはマルクト支部の建物に入る。


 建物の内部にまず見えたのは写真。ゴミの山の脇に建てられた小さな建物とそこに集まった10人ほどの男女の写真だった。その中にはランスやサーリーなんかもいる。


「こっちだ。秘密を守るための場所だ、この場所のことは誰にも口外するんじゃないぞ」


 ランスは鉄のドアの前に立ち、ドアを解錠した。

 金属音を立てて開くドア。オリヴィアたちが入ったのを確認すると、ランスはドアの鍵を閉めた。


 一行は最深部までたどり着く。暗いがほのかに明るい空間で、ランスは口を開く。


「結論から言う。ロムは鮮血の夜明団を襲撃する一派のボスだ」


「ロム姉が……?」


 ランスの言うことが受け入れられないオリヴィア。自分が予想もしていなかったことを知って混乱していた。


「まさか襲撃された?」


 今度はパスカルが尋ねた。


「ここはまだだ。表向きにはマルクト支部が存在しないことになっているお陰だろうな。今、暗部がロムたちの勢力について嗅ぎ回っている。けど苦労しているみたいだな」


 と、ランス。


「ロムにも考えはあるだろうな。それに俺もよくわかる。鮮血の夜明団はクソだ。都合のいいことを正義と決めつけてはレムリアの人間に押し付ける。それで救われた人はいいだろうが、もし救われることがなかったら?」


「……なにそれ、ヒルダとキルスティじゃない。決めつけられた正義から取りこぼされた人って」


 オリヴィアは口を挟んだ。


「だろう? ま、俺はマルクト支部に来る前は麻薬の売人だったよ。クスリを売った金で千晴とヴェロニカを助けた。ま、こっちもこっちでクソだったよ」


「そう。よくわからない人。で、ロム姉についてのこと、他にはないの?」


 と、オリヴィア。

 薄明かりに照らされる彼女の顔は焦りを孕んでいるようでもあった。


「あるさ。ただ正確とは言えないな。

 ……ロムは、麻薬の売人を唆してここを襲撃するという噂を聞いた」


 ランスは言った。


「その襲撃を待てば会える可能性はあるのね?」


「100%とは言えない。が、チャンスはある。お前の前から消えたのにも理由があるだろう、もし会えたならしっかり向き合うといい」


 ランスがそう言うと、この空間は暫しの静寂に包まれた。オリヴィアもパスカルも晃真もランスも、何も話さない。

 そして。


「戻るか」


 と、ランス。

 オリヴィアたちは頷き、地上へ向かうのだった。




 地下室への階段の鍵を外から閉めたときのことだ。


「大変だ! 薬を買わせろという変なやつがここに来た! どう見ても中毒者なんかじゃねえんだよ!」


 小柄な青年――ジェットが言った。


「特徴は?」


 ランスは聞き返した。


「髪色は薄紫、三つ編みとフリルつきの服が特徴。それと、暁城塞近くの訛り……」


「麗華か。お前たちは来るな。俺が話をつけてくる」


 ランスはそう言うと建物の外に出た。


 外で待っていたのはランスの予想通り、麗華だった。麗華はランスの姿を見るなり目を輝かせる。


「待てたよ、ランス。グレゴリウム売てよ」


 麗華は言った。


「マルクトの表側の権力者に失礼だろう。それにグレゴリウムだが、あんな危険なブツは売れないな。思考と感情と行動を一致させる薬は……」

「必要だから言てるね。だから売れ。でないと、殺す」


 ランスの言葉を遮る麗華。

 たとえ相手の本拠地であっても自分本意な姿勢は崩さない。それは麗華が己の力を信じていることに起因する。


「おう、殺せ。俺が死んでも代わりなら育っている。そもそも、いつから俺の代わりなどいないと思っていた?」


「ふうん……ま、いいや。ランスの仲間がランスの死を知らなきゃいい。引き継がれないまま崩壊していくね」


 そう言ってからの麗華は早かった。


 マルクトの地にランスの血が染み込んだ。



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