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35 待ち構える者

 シンラクロスはずれの道にバイクをとめた青年が1人。彼の名はアポロ・デュカキス。運び屋として知られている赤毛の眼鏡をかけた青年だった。


「なるほど、モーゼスが殺されたと。どうするんだ。裏切りがあったにしても敵は会員1人殺すような連中だぞ」


 アポロは電話口でそう言った。


挿絵(By みてみん)


『逆に考えろ。モーゼスだからまだよかった。エレインやリュカ、アイゼンあたりを殺されてしまっては我々カナリス・ルートも崩壊する。だが、早いうちに消す。やつらの向かう先に刺客を送るぞ』


 その相手は言った。


「一体誰だ? 少なくともモーゼス以上の使い手でなければ厳しい。もしくはあの中の誰かを確実に殺せるような力を持ったやつ、身内からの裏切りの心配がないやつでなければ。モーゼスでさえああなった。そんな人がいるのか……?」


 と、アポロ。


『いるさ。町ひとつに影響を与えた女……林麗華(リン・リーファ)。肉体派だとは言うが、裏切る可能性のある連中をシャブ漬けにして裏切りを防いでいる。モーゼスほどうまくやれるかは微妙だが、マルクト区であればいけるだろう』


 電話の相手はそう判断する。アポロは一抹の不安を抱えたが、確かに自分が相手するよりはマシだろうと考えた。


『それに大切な運び屋を刺客にして失う真似はしたくないのでね。エレイン達の次に死んでほしくはない』


「それはどうも。俺が大切にされていることを知れて何よりだ。で、俺はこれからどこに向かえばいい。シンラクロスに運ぶはずだったものも、シンラクロスがこうなったせいで全部パアだ。廃墟にアレを捨ててこいというのか?」


『まさか。運んでいたブツは俺のところに持ってくればいい。2人きりで話すこともある』


「了解」


 アポロは電話を切った。

 カナリス・ルートに不満はない。むしろ、孤児となっていたときに拾ってくれた恩すらある。が、アポロはちょっとした疑問を感じていた。


「……カナリス・ルートはこのままでいいのか?」


 アポロは呟いた。

 そんな彼も、モーゼスという同志を失ったことで動揺していた。




 ここはマルクト区。公的な地図には存在しない場所とされ、あらゆる者が最終的に流れ着いてくる場所。それは人やゴミに限ったことではない。麻薬も武器も情報も、その気になれば何でも揃えられる場所だ。


「ン、了解。麻薬は相変わらず売てるけどさ、それまでにやることある?」


 マルクト区の廃墟で電話をしていたのは華ロリ風の女。彼女が林麗華だ。廃墟の床にあぐらをかいて座り、『ガブリエリウム』と書かれた水色のノートを手に取ってページをめくる。


『特にやることはないが、しいて言えば情報収集か。いつモーゼスを殺した連中が到着するか、やつらがここで何をしようとしているか。徹底的に調べ上げる。それだけでいい』


「はーい。割の合う仕事て祈るね」


 麗華はそう言って電話を切った。


「ガブリエリウムの売り上げは順調。ドーピング系のクスリ、しかも死以外に依存症の影響がないヤツはいいね……ヤク中が病院に運ばれることもないのが最高……ン?」


 麗華は来客に気づく。

 客は虎の尻尾のようなモヒカンの男。体格は普通。


「いらしゃい。ガブリエリウム買いに来たね?」


 麗華は言った。


「いらっしゃい、じゃねえよ。ガブリエリウムを飲んだ連れがこの前発狂して死んだ! どうしてくれるんだ、クソアマ! だいたいこの場所で女が一人で生きていけるとでも思ってんのか!? あァ!?」


 客、ではない。

 その男、クレーマーはさっそく麗華の神経を逆撫でする言葉を吐いた。麗華は頭に血が上り、ノートを床に置いて立ち上がる。


「自己責任て言葉知てる?」


 麗華は言った。


「ざけんなや! 得体の知れねえ薬を売りやがって! イデア覚醒薬はいいモンだったのによ!」


「ふーん……ま、いいや。クレーマーは殺すに限るね」


 先に動いたのはクレーマーの方。クレーマーは全身に雷を纏い、麗華に電撃を撃った。すると麗華はイデアを展開。電撃を片手で受け止めた。


「面白い能力ね?」


 と、麗華。


「黙れ、クソアマ! 殺すぞ!」

「やてみるね。やれるもんならね」


 それはクレーマーに向けた挑発でもあった。それだけ麗華は自分の強さと能力に自信を持っているということだった。

 クレーマーは完全に頭に血が上り、電撃をまとったパンチを繰り出す。麗華はまたしても片手で受け、自由な左手に仕込んだナイフで頬に傷を入れる。


「終わりね。ま、覚醒して日の浅いイデア使いくらい、こんなものね」


 麗華は左脚で踏み込んだかと思えば炎を纏った蹴りをクレーマーに叩きこんだ。その一撃でクレーマーの皮膚は焦げ、背骨や肋骨が何か所か折れた。

 クレーマーは廃墟の外に投げ出され、二度と立ち上がることもない。


「残念ね。金がなかたばかりに発狂(はきょう)して死ぬとか。金もないくせにクスリに手をだすから」


 と言うと麗華はノートを拾って、ページをめくる。そしてモヒカンのクレーマーの連れの名前を探してそこに×をつけるのだった。



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