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34 白王討伐

 モーゼスは影の中からはい出した。白い光を身に纏った体に何一つ傷はなく、それは絶望を象徴しているかのようだった。


「絶望したか? だがこれが現実だ。まずは悪魔の娘から殺すが、手出しは無しだ。君たちは黙ってそこで――」


 モーゼスがそう言ったとき、オリヴィアは影でモーゼスを包み込もうとした。事実、これでモーゼスは手元が狂ったのだが――肝心の攻撃を阻止するには至らなかった。

 放たれるビームと白い球体。オリヴィアも晃真もキルスティも避けることしかできない。攻撃に移ることさえも許さない密度で撃ってくる。


 ――どうすればいいの。私にできることは……


 避けたとき、オリヴィアが思い出したスカートの中の感覚。そう、鉈だ。オリヴィアは密度が薄れたときに影を再展開。1秒後、スカートの中に隠し持っていた鉈を抜き、右手に持った。


「今更遅い! これは戦いではない、処刑だというのに!」


 モーゼスがオリヴィアに集中攻撃を放つ。

 そのときだ。ドアが開いて閃光弾が投げ込まれたのは。白い光にぶつけられた白い閃光。だが、それは相反する性質。閃光弾の発した閃光はすべてを浄化するかのように展開されたイデアを打ち消した。

 そしてドアの外から追い打ちをかけるようにして殴り込んだエミーリア。両手の拳にメリケンサックをはめ、モーゼスに肉薄。これまでに傷のなかった顔に拳を1発叩き込む。


「な……この私が……穢れた種族に……」


 顔を歪ませながらモーゼスは怨嗟の言葉を吐き捨てる。すると今度は蹴りが炸裂する。これもエミーリアがやった。


「今だ! やってやんな!」


 エミーリアは声を張り上げる。

 彼女の行動、そして言葉の示す意味を理解した晃真は熱の塊をモーゼスに向けて放った。すると、不思議なことに晃真の放った攻撃はモーゼスに通った。ジュワ……という音、顔を歪ませるモーゼス。


「いけるぞ……! 再展開されるまえにやるんだ!」


 と、晃真。

 彼に続いてオリヴィアもイデアを再展開する。だが、モーゼスもイデア使いであることは同じ。オリヴィアを上回る速さでイデアを再展開。オリヴィアの攻撃を完全にふさぎ切った。そして、今度は杖にイデアを纏わせたかと思えばオリヴィアとの距離を詰める。


「どうやらこうするしかないようだ。全く、誰が弱点を教えたのやら」


 モーゼスはそう言って杖を振り下ろす。対するオリヴィアは杖を鉈で受け止めた。

 そこにエミーリアが閃光弾を投げ込む。オリヴィアはそれをチャンスだと確信し。モーゼスの杖をはじいたかと思えば、再び鉈を振り下ろす。

 鉈の切れ味はすさまじかった。閃光弾がもう一度投げ込まれる中、モーゼスの胴体は2つに切断された。


「手ごたえはある……やった……?」


 オリヴィアは呟いた。

 見えるところから、見えないところから。影でモーゼスを切り裂いたところで手ごたえも何もなかったので、実感がわかない。が、オリヴィアの目の前には切断されたモーゼスの亡骸が転がっていた。


「あんたがやったんだ。間違いなく息の根も止めた。ひとまずカナリス・ルートを1人片付けたわけだ」


 と、キルスティ。


「とにかく、俺達の勝ちだ。そこは喜んでいいぞ」


挿絵(By みてみん)


 晃真も続けたが、傷の痛みですぐに顔をしかめた。


「まあまあ。私が治療してやるからこっちに来な。オリヴィアも」


 キルスティはそう言って手招きをする。2人はキルスティの元へ歩いて行き、処置もとい治療を受けることになった。


「ありがとう、キルスティ。錬金術での治療がなければこれから戦えるかもわからなかった」


 と、オリヴィア。


「気にすることはないね。ただし、治療した分だけ私たちの復讐には付き合ってもらうから、そのつもりでいること」


「わかったよ」


 オリヴィアは言った。




 シンラクロスでの戦いは終わった。

 襲撃、乱闘、そしてアナベルらによる虐殺もあってシンラクロスの人口は激減した。とはいえ、この町と他の町を結ぶ鉄道や道路がただちに廃止されることもなく。


 戦いを終えたオリヴィアたちは、パスカルとヒルダのいるホテルに集まった。


「……ってわけで、あんた達を縛る鎖はなくなった。ミリアムもヒルダもこれからは好きに生きていけばいい。イデアを生かすも、血生臭いところを離れて平穏に生きるか。よく考えて決めな」


 キルスティは言った。


「うう……私もお姉ちゃんも行くところがないし……」


 と、ヒルダ。


「オリヴィアお姉ちゃん、これからも一緒にいていい? 私、これからどうしたらいいかわからなくて。でもオリヴィアお姉ちゃんと一緒なら行くところが見つかる気がして」


「え……」


 オリヴィアはすぐに「イエス」とは言えなかった。

 クロル家の命令があったとはいえ、ヒルダは一度パスカルに銃口を向けた。オリヴィアの心情としてはあまり乗り気になれないでいた。しかし、ヒルダはヒルダで放っておけば幸せに生きていけるかもわからない。


「……わかった。けど、約束して。これからは二度とわたしやパスカルに銃口を向けないで」


 しばしの沈黙の後、オリヴィアは言った。


「うう、ありがとう……お姉ちゃんも一緒に来よう?」


 と、ヒルダ。


「気持ちは有難い、ヒルダ。でも私はこれからガルシア家の方に行くことになっていてね。けど、また会えるとは思う」


 ミリアムは言った。


「わかったよ」


 ヒルダとミリアムは抱擁を交わした。


「さて、私たちもエミーリアたちもこれからマルクト区に行く。出発は明日。遅れないようにね」



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