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33 勝利の鍵

 場所はアナベルとミリアムのいるホテルに移る。

 自死を選ぼうとしたミリアムはなんとか落ち着いたらしく、彼女の隣には寄り添うようにしてアナベルが座っている。


「共感はできないけど、『辛かっただろう?』 クロル家の価値観の中で本当によく生き延びたね」


 と、アナベルはいった。


「でもその価値観は壊されている。今、私の可愛い相棒がそのボスを殺しにいったところだ」


「少しいいか、アナベル」


 ミリアムは言った。


「ボスが誰なのか私にはわかる。ボス……モーゼス・クロルは一筋縄ではいかない相手だ。能力は世界から浮く能力。まあ、簡単に言えば次元が違うからこちら側の攻撃が効かない。そのくせ、浮いたところから殺人的な攻撃をしてくる」


「それはまた面白そうな相手だこと。私がモーゼスとヤり合えないことが残念でならない」


 と、アナベル。

 表情も口調もどこかわざとらしい。


「破る方法は2つ。能力がイデア界に到達すること。これでモーゼスにも打撃を与えることができる……とはいえ、到達できる人なんてそうそういない」


 ミリアムは言った。


「で、もう一つは?」


 アナベルは尋ねた。


「モーゼスの次元を私たちと同じところまで下げること。イデアの展開をさせなければできることだ。虚物質の閃光弾を大量に使えば可能なことか。これをあんたの仲間が知っていればいいのだが」


「知らなくても私が伝えてあげよう。エミーリアとオリヴィアの連絡先ならば私も知っている」


 アナベルはそう言って携帯端末を取り出してメッセージを送ろうとした。するとキルスティが言う。


「そんなことをしなくてもあんたが加勢すればいいだろうに」


「不安定な君から目を離せなくてね。ま、その時が来ればクロル家を焼く火を花火だと思って見よう」


 と言って笑うアナベル。彼女の言葉の不謹慎さにミリアムは顔をひきつらせた。が、彼女自身も今の状況を悪く思ってはいなかった。

 アナベルは笑いながらメッセージを打つ。念のため電話をかけようとも考えたが、メッセージだけにとどめておくことにした。


「虚物質の閃光弾でモーゼスに攻撃が入るようになる。とにかくイデアを展開させるな。

 このメッセージを送る。気づいてくれればいいけどねえ……」


 アナベルはそう言ってメッセージを送信する。


「そんなに心配ならば行けばいいだろう。私も同行する。もし不安なら私を監視しろ。加勢する時点で死地へ向かうんだ、それまでに命を絶つようなことはしない。死ぬなら戦場で死んでやるから」


 と、ミリアム。


「言うねえ……じゃあ、行こうか。私とミリアムで共闘(デート)……胸が躍る❤」


 2人は立ち上がり、死屍累々のホテルのロビーを出た。


 ミリアムが外に出てみれば通行人に銃を向けられる。そのたびにアナベルが「ミリアムは私が守る」とばかりに通行人の首を切断して殺していく。そんな彼女は薄ら笑いさえ浮かべており、罪悪感などそこにはなかった。


「弱い……よくそんなものでミリアムを殺そうと思ったものだ」


 ごとりと中年男性の首が土の上に落ちた。

 ミリアムもミリアムで、命を他者の手にゆだねることはしていない。銃口を向ける者があれば剣を抜き、その者の首を切り落とす。

 2人が通った道には何人もの住人や観光客の首が転がっていた。


「はい、残念❤」


 今度は5人同時に首が落ちた。

 モーゼスの本拠地まではまだ時間がかかるが、2人は確実に進んでいた。




 途中で足止めを食らったエミーリアはホテルの階段を駆け上がっていた。


「3人とも強いのはわかっている……とはいえ、相性が悪ければ苦労するか」


 エミーリアは呟いた。

 上でオリヴィアたちが激闘を繰り広げていることはエミーリアも感じていた。今どのような状況か、わかったことではなかったが。しかし、イデア使いの気配から相手が相当な使い手であることはわかる。


「私が出る幕もないといいがね……」


 この瞬間、エミーリアは高層階のとあるフロアにたどり着く。そのときにエミーリアは携帯端末の着信に気づく。メッセージを送ったのはアナベル。エミーリアは目的を勘繰りながらメッセージを見た。


【虚物質の閃光弾でモーゼスに攻撃が入るようになる。とにかくイデアを展開させるな】


 このメッセージに添付されていたのは盗撮したと思しきモーゼスの顔写真。

 その顔とモーゼスという名前。エミーリアは覚えがあった。

 モーゼス・クロル。カナリス・ルートの一員にして名門吸血鬼ハンター一族クロル家の現当主。エミーリアの討つべき相手の1人。そして虚物質とはイデアを打ち消す、または消滅させる力を持った物質。使う人を選ぶので普段から持ち歩くイデア使いは多くない。

 アナベルは弱点を教えてくれたのだ。


「見直したよ、アナベル。閃光弾なら私が持っている。あの3人とはちと相性が悪いからね。そうとなれば、急ぐしかないねえ……」


 エミーリアはイデアを展開し、階段を駆け上がる。こうすることで身体能力を爆増し、できるだけ早く目当てのフロアにたどり着けるようにしたのだ。


 3分ほどでエミーリアは目当てのフロアにたどり着いた。そこには執事や護衛がいたようだが全員が斬り殺されていた。どうやらオリヴィアがやったらしい。


「最終ラウンドといこうじゃないか」



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