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32 絶望の白

 ――影か!


 影は執念深くモーゼスにまとわりつく。イデアを破るそのときを探っているかのようにうごめいていた。


「来てくれたか……!」


 と、晃真。

 彼の言葉の直後、ドアを蹴破って現れるオリヴィア。彼女が展開したイデアは、晃真が以前見たものよりも異質なものとなっていた。


 影はオリヴィアにもまとわりついているようだった。が、それでオリヴィアが消耗している様子もない。


「こいつね。こいつを殺せばいいのね。この銀色の髪の、ふざけた面した男を」


 と、オリヴィア。


「気を付けろ、オリヴィア。こいつは一筋縄ではいかない」


「わかってる。晃真のその様子見たら嫌でもわかるから」


 オリヴィアは晃真が攻撃を受けていたことにも気づいていた。


 ――かなり強い晃真がこうなるんだから、一筋縄ではいかないよね。けど、決着は早くつけたい!


 何のモーションもなく、影を広げるオリヴィア。標的はモーゼスだが部屋全体を、だが晃真とキルスティだけは避けるように影で覆う。


「さっきから見てるけど、あなた相当なイデアの物量してるのね。でも、あなたがイデアの物量で負けたら?」


「な……」


 照明があるとはいえ、ここは室内。しかも夜。オリヴィアの影はより濃くなり、影の刃がモーゼスに襲いかかる。


「ああ……悪魔の娘か。クロル家として、なおさら殺さなくてはならないな」


 モーゼスは杖で影の刃を弾く。それは1発にはとどまらない。何発弾いても杖に傷が入る気配もない。


「やっぱり、なんで攻撃が入らないの……」


 オリヴィアは吐き捨てるように言いながらも攻撃を続ける。あらゆる方向からフェイントを混ぜながらの攻撃だ。


「ふん、無駄なことを。確かに物量は評価するが……君たちに私は倒せないんだよ。何度も言わせるな」


 モーゼスは一気に影を振り払った。さらに杖が刃ではない影に穴をあける。が、そのときに動いたのはキルスティ。モーゼスの死角からオリヴィアの影をかいくぐり、ハサミをモーゼスの首につきつける。


「これのどこが無駄だって?」


 ぎらりと光る血濡れのハサミ。ハサミの刃がモーゼスの首に触れた。モーゼスの肌に傷を入れたキルスティはすぐさま距離を取る。


「攻撃が効かない連中、無敵を自称する連中でもこのハサミが齎す病には勝てなかった。そういうことだ、糞野郎。全身をバクテリアに食われてくたばりな」


 と、キルスティ。

 モーゼスは痛みを感じたのか傷口から血を拭う。確かにその傷からは血が出ているようにも見えた。そんなところに襲い掛かるオリヴィアの影。モーゼスは片手で杖を持っていなしながら口を開く。


「はは……まさかそんなもので効くとでも思ったのかい?」


 モーゼスは言った。

 そう言っている間にも殴り込んできた晃真を杖1本でいなしている。まさに鍛えられた戦士が子供を相手しているかのように。


「お前の親父さんも同じことを言って、肉塊のようになって死んだ。次はお前だ」


「何度言わせれば気が済むのやら。私と君たちとでは次元が違うんだ。攻撃が通じるはずもないだろう?」


 モーゼスは言った。

 ここから彼は反撃に出る。影の中にイデアを展開し、そこからビームを放つ。するとオリヴィアはビームを放つ前兆に気づき、それを防ぐ程度の影で空間を包む。


 ――そうだ、キルスティならできるかも。だったら、私と晃真がすべきはあいつの身体が侵されるまでの時間稼ぎ?


 ビームはかき消された。モーゼスはビームを諦めたのか、今度は白い球体を放ってくる。


「それも白いのね。欺瞞の色がする……」


 と言ったオリヴィアは影で白い球体を包み込む。すると球体は影の中で破裂――いや、爆発した。影を吹き飛ばし、さらには部屋全体に展開されていたオリヴィアのイデアまでも消し去った。


「まったく、面倒なことをしてくれたものだよ。悪魔の娘。殺すのは君からだ。早く母親のところに行けよ……」


 その言葉はオリヴィアの目の前から発せられた。オリヴィアが気づいたとき、モーゼスはオリヴィアの目の前にいたのだ。


「オリヴィア!」


 晃真はいち早くその状況に気づき、熱の塊を放った。当然ながらモーゼスは避けることも受け止めることもしない。

 それと同時にオリヴィアは彼女自身とモーゼスとの間に影を展開。防御と反撃の体勢に入った。モーゼスは白い球体を至近距離で放った。


 炸裂。白と黒がぶつかり合う中でオリヴィアはやや押されていた。いや、圧倒的不利な状況となっていた。


「くっ」


 白い球体のエネルギーはすさまじい。オリヴィアはどうにか受け流すが、左半身に焼け付くような痛みを感じた。そんな中でも白い球体が消えた瞬間に影の刃での攻撃を試みた。するとモーゼスは受け止めもせずに刃を避けた。


 ――避けた……避けたってことは効く可能性がある!


 オリヴィアは追撃とでも言ったかのように、影で切り裂く――いや、モーゼスを影の中に引きずり込もうとした。


「な……」


 ついにモーゼスは影にとらわれた。そこに斬首でもするかのように影が命中する。


「体を食い破られて効くようになってきた? さっきも避けてたんだから効くんだよね。ねえ!」


 と、オリヴィア。


「馬鹿なことを。希望なんて捨てろ。私にそんな攻撃など通じるものか。避けるのは初見殺しの可能性を避けてのことだ。イデア使いの戦いなんて、どこに何が仕込まれているかわかったものではない」


 影の中でモーゼスは言った。

 影から這い出るモーゼス。彼の周りを覆っていたのは白い光。それに加え、彼に傷などない。キルスティがつけたはずの傷も。



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