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31 「次元が違う」

 脱衣場のドアが開いた。早かったのはモーゼスだ。


「どうしたんだい、絶望した顔をして」


 と、モーゼス。気遣うようなことば


「しばらくはひとりで戦うしかないってことか。腹、括るしかねえな」


 晃真はそう呟き、再びイデアを展開。晃真の周りを赤い熱気が包み込んだ。

 そして、攻撃。今度は熱の塊を放つのではなく熱を纏った拳を叩き込む。この攻撃をモーゼスは避けようとしなかった。何発かの攻撃を叩き込まれるモーゼス。そこでほんの少し動きを見せれば晃真は距離を取った。


「効いたと思っただろう? ノーダメージだ」


 と、モーゼス。

 彼の物言いに反して晃真には手応えがあった。本当にノーダメージならば、あの手応えは何だろう?


「嘘だ、と思っただろう? 残念ながら現実だ。受け入れなよ」


 モーゼスがそう言ったとき、晃真の頭上の空間が割れたようになる。直後、そこから放たれるビーム。晃真は咄嗟の判断で避ける。だが、完全には避けられずビームが左手をかすめた。


「うっ……!?」


 かすめただけでも酷い火傷のような痛みだ。


 ――これを正面からくらえば死ぬな。こちらには決定打もなければ……いや。


 晃真は歯を食い縛る。そして上半身に着ていた服を脱ぎ捨て、その一部を裂いて拳に巻いた。

 その様子を不思議そうに見るモーゼス。


「我慢比べだ」


 と、晃真。そう言った時にはすでに動いていた。


「何かわからんが、いいだろう。だからといって君が勝てるとも思わないからね」


 モーゼスも応戦すべく杖を手に取る。

 晃真が肉薄したとき、別の方向からビームが襲いかかる。晃真はビームを受けながす。が、モーゼスはそれを狙っていた。杖による突きを放つ。この杖も危険だと判断した晃真。杖を左手で掴んでいなした。


「へえ……」


 と、モーゼス。それと同時に再びビームが。

 視覚の外からのビーム。視界の端でとらえると、晃真は体をのけぞらせ、かわした。が、次から次へとビームは放たれる。


 かわす程度の動きでも晃真の体力はじわじわと削られていた。どこから襲いかかるかもわからないビームを感じて避けているのだ。消耗しないはずがない。


「こいつのイデアが枯渇するまでは……」


 晃真は小さく吐き捨てるように言った。

 それでもビームは止まらない。そして、モーゼスのイデアが尽きる気配もない。


「あ゛っ……」


 避けていたつもりだった。

 晃真の太ももをビームが掠め、激しい痛みが走る。


「我慢比べと言ったのはどちらかな?」


 モーゼスは言った。晃真が視線を上げれば今度は別の方向から弾丸のようなものが飛んでくる。

 まだ間に合う。晃真は左手で弾丸らしきものを弾く。


「う゛っ……」


 痛みに歯を食いしばる。その痛みはビームを受けたときと似ている。


 ――これもあいつの能力か……。たちの悪い能力を使いやがって……!


「ふーん、大したものだよ。その精神力……」


 と、モーゼスが言ったときだ。晃真がモーゼスの懐にはいりこむ。攻撃が通らないならせめて能力を削らなければと。

 晃真が拳を叩き込む。1発、2発、3発――モーゼスが能力を使って抵抗しようにも晃真はそれを許さなかった。


「ははっ……何をして……」


 攻撃を受けながら、拳を防ぎながらモーゼスは言った。が、モーゼスじしんも何が起きているか気づいていた。


「……いや、虚物質か」


 この戦いで初めて感じた痛みの中。モーゼスは呟いた。久々に味わう拳の感覚。だがそれも長くは続かない。


「それがどうした。君に私は倒せないと言うのに、無駄なことを」


 モーゼスは破られたイデアを再展開する。その間にしてたったの0.002秒。晃真の攻撃にも余裕で対応して見せた。


「くそ、手応えはあるのに……」


 一方の晃真は攻撃が間に合わない。モーゼスにその手が触れたとしても、イデアを一時的に破ったとしてもたちどころにイデアは再展開される。


「君の敗因は私に挑んだことだ。私に勝てる人間なんてこの世にはトイフェルしかいないのだよ」


 と、モーゼス。


 晃真は本能的に止めを刺されると感じた。

 晃真の脳裏に浮かぶのは人生、そしてかけられた言葉。


 ――キルスティ……オリヴィア……俺は多分……


 事実、モーゼスはあの殺人的なビームを四方八方から放った。迫り来る光の中、晃真は死を悟る。

 が、ビームは晃真に当たらなかった。


「あ、手が滑った。命拾いしたね」


 それがまるで他人事であるかのようにモーゼスは言った。


「でも君、殺す価値もないんだよ。どうせ私を殺すこともできないから」


 モーゼスはそう続けた。


「それは俺にとってもプラスになることだな。俺の後ろには凶悪なイデア使いが控えているからな」


 晃真はいった。彼からしてみれば、モーゼスの言動は挑発にも等しい。だからこそ挑発を利用してやろうという気になった。


 ――それに、状況も動いた。どうやら俺が死ぬまでに間に合うようだな。


 晃真はモーゼスには分からないところで口角を上げた。

 それに呼応するように展開される影。その影はモーゼスに気付かれることもなく。


 ――今だ、オリヴィア。やってやれ!


 影がモーゼスに襲いかかった。


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