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30 手ごたえ

 フォンスを討ってもイデアを展開したままのオリヴィア。目的は索敵だ。モーゼスがこの建物の高層階にいることはわかっている。その高層階のどこにいるのか、オリヴィアはそれだけを知りたかった。


「この上の階にいるよ。余裕こいてシャワーなんて浴びてた」


 と、オリヴィア。


「なるほどな。ここから攻撃できるか?」


 そう尋ねたのは晃真。今は床に座ってキルスティから傷の処置を受けている。


「その傷が塞がったら」


「なら、さっさとやれるな? この通り晃真の傷も完治したに等しい」


 と、キルスティ。


「どういう仕組みで治療してるのかもわからないけど。やるよ。準備はいい?」


 オリヴィアが尋ねるとほかの2人は頷いた。


 狙うはモーゼス。偵察のために展開していたイデアを攻撃に。あわよくばここで殺す。




 豪華なバスルームに仕込まれた影が蠢いた。そこからは早かった。影は刃のようになり、モーゼスを刺し、切り裂いた。


「おやおや……この範囲と攻撃力はもしかして」


 モーゼスはシャワーを止めてそう言った。

 彼の体は無傷。血など出ていない。確かに攻撃は当たったがまるですり抜けたよう。モーゼスの美しい肉体には水が滴るだけだった。


 モーゼスは影の蠢くバスルームの端に目をやった。


「影使いか。私が並のイデア使いなら死んでいたよ。穢れた血族の癖によくやるね、全く」




「手応えがない」


 オリヴィアは言った。


「これまで影で人を殺したとき、独特の手応えがあった。けど、今のにはそれがない。いや、あいつに傷さえ入れられてない。どういうこと……」


「一筋縄ではいかないか」


 と、キルスティ。

 すると晃真は立ち上がり。


「様子を見てこよう。7分経って俺が戻らなかったら、来てくれ」


 そう言うと、晃真は走って階段を上っていった。


 そして、モーゼスのいる階。オリヴィアの展開した影のイデアがモーゼスの居場所を示すように蠢いた。晃真は影に案内されながらモーゼスの居場所へと急ぐ。


「早く……早く……!」


 重厚なドアが目前まで迫る。おそらくここにモーゼスがいる。晃真はドアを押して中に入った。


「なんだ、影使いではないのかい」


 と、モーゼスは言った。

 繊細な銀髪に空のような青色の瞳、そして顔も整っている。特筆すべきは今の彼が生まれたままの姿であること。その姿を目にした晃真は少しだけ動揺した。


「まあいいか。私の隙を突こうと一足先に来た。そうだろう?」


「お前がそう思うならお前の中ではそうだろうな」


 と言った晃真の手の中には赤い熱の塊が出現する。モーゼスも晃真の攻撃には気づいた。が、行動は起こさない。品定めでもするような顔で晃真の様子を見るだけ。

 熱の塊が放たれても動揺しない。それが意味するのは――


「効いてない……? 何をしたんだ……」


 晃真は言った。

 平然とした様子でモーゼスは立っている。壁や床は熱で焦げているがモーゼスは無傷。


「いいことを教えてあげよう。私はね、君に殺意を向けられても普通なら人が死ぬような攻撃を受けても無傷でいられる。そうだな、君が攻撃する間にスーツに着替えていても無傷でいられる。劣等血族とは次元が違うんだよ」


 と、モーゼス。


「イデアを枯らさないためにも待っていた方がいい。まあ、逃がすつもりはないが逃げるのが最良の選択だよ。私は優しいから忠告くらいはしておいてやろう」


 と言って、モーゼスは踵を返す。そのときの目は晃真を蔑むような目だった。


「くそ……俺は信じない! 少しでもチャンスがあればッ!」


 再び晃真は熱を放つ。そこにあるのは一縷の期待のみ。何かの間違いであってくれと――

 だが現実は残酷だった。モーゼスは一切の傷を受けることなく脱衣場に入っていった。


「どうして効かないんだ……モーゼスも人間だろう……人間以外を嫌うくせに、どうして人間が攻撃しても無傷なんだ……!」


 晃真は言った。

 今の自分にはどうすることもできない。思い知らされながら晃真は脱衣場から距離をとると携帯端末を手に取った。電話をかける相手はキルスティ。影を操るオリヴィアよりも今話しやすいと判断してのことだ。


『晃真か。戦闘中に電話とは舐めプか?』


 と、キルスティ。


「舐めプされてるのは俺の方だ。モーゼスの野郎、俺が攻撃しても意味がないからと着替えまで始めてしまった……」


『は? 意味がわからない』


「そのままの意味だ。攻撃しても意味はないのは確認した。だから来てくれないか?」


 晃真は言った。

 するとキルスティはほんの少し声を漏らして黙りこんだ後もう一度言った。


『事情はよく知らないけど、行けばいいんだな? どちらにしろ私たちも向かうつもりだ。そっちの状況なんざ後で確認できる』


「ああ……」


『切るよ』


 電話が切れた。

 ホテルの高層階の部屋に残された晃真はまず状況を整理する。攻撃してもモーゼスは無傷。部屋に対してのダメージも明らかに少ない。


「能力を無効化でもしているのか……?」


 と、晃真は呟く。

 これまでにイデアを消す武器を見てきたからこそ思いついたことだ。


 ――果たしてこれは正解か。オリヴィアが来るまで……いや、戦いが始まるまでお預けか。


 晃真がそう考えたとき、脱衣場のドアが開いた。


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