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29 空間を縛る鎖

「ごきげんよう。今度こそ殺してあげるね」


 オリヴィアはその言葉とともに影を伸ばす。建物ごと包囲し、敵の――フォンスの逃げ場はないに等しい。

 そして、オリヴィアの後ろに控える晃真。イデアを展開していつでも戦える。オリヴィアに手を出そうものならその灼熱のイデアで焼きにいくだろう。


 フォンスは伸びてくる影を関知して抜刀。細身の剣で影を切り刻む。そのやり方にオリヴィアは覚えがあった。


 ――あの人と同じ。あの夜にわたしと戦ったあの人と。でも、体の動かし方は全然違う。こいつには影が見えている……!


 ここからオリヴィアが導き出した答えはひとつ。むやみに影を伸ばすべきではない。影だけに頼れば消耗戦になる。

 オリヴィアはスカートの中から鉈を手に取った。鞘を投げ捨てるとフォンスとの間合いを詰める。


「変えてきたか。が、お前は果たして近距離型か?」


 オリヴィアが間合いを詰めたのをいいことに、フォンスは首をはねようとした。するとオリヴィアは影でフォンスの手足を縛る。


「どっちでも、って言ったら?」


 と、オリヴィア。

 銀色の刀身の剣は振るわれず、シャンデリアの光を受けて金色に輝くだけだ。


「返答などどうでもいい。我らのために死んでくれ」


 と言うと、フォンスはイデアを展開した。

 展開されたのは銀の細い鎖。鎖はオリヴィアと晃真とフォンスを取り囲むように現れた。まるで3人を閉じ込めたかのように。


「いやだ。こんな鎖、すぐに……」


 鉈は通らなかった。影で破壊しようとしても、弾かれた。鎖は何かに守られている。晃真も鎖を融かそうと熱の塊を放った。すると熱の塊はオリヴィアの斜め後ろに移動した。


「オリヴィア!?」


「……なにそれ」


 晃真が声をあげたときにオリヴィアを影が包む。その直後、熱の塊は影にかき消された。そしてオリヴィアは影から姿を現すとフォンスに斬り込み――


「答えてよ。何をしたか。なんで晃真がわたしを攻撃するの?」


「それは――」

「オリヴィア、俺はここだ!」


 オリヴィアの目の前に現れる晃真。フォンスを挟めたわけでもなかったというのになぜ晃真がここにいる?

 オリヴィアは鉈を振るう手を止めた。


「……そうさ。よく気付いたな。いや、気付いたと決めつけるには早急か?」


 後ろをとられた。

 フォンスはオリヴィアの後ろに現れる。背後からオリヴィアに一撃をいれようと剣を振り上げた。


「入れ換えたのね。わたしを欺くなんてできないよ?」


 と、オリヴィア。彼女は影で応戦した。

 フォンスに迫る影。そして影を切り裂いたフォンスの剣。斬られなかった影からフォンスの位置を割り出して、オリヴィアはその身を翻す。が、無理に攻撃はしない。否、できない。晃真がいる以上、場所を入れ換えられて同士討ちになる――


 フォンスはオリヴィアの状況をいいことに、攻めに転じた。まず狙ったのはオリヴィア。彼女の目の前に現れると剣を振るう。


「こうやって止められるの、どんな気分?」


 と、オリヴィア。だが、直後。オリヴィアの場所は入れ換えられていた。


「劣等血族だからわからんのだろう?」


 流れ出る鮮血。

 晃真は突如目の前に現れたフォンスと痛みに対応できなかった。


「黒髪の人間なんてそんなものだ、恥じることはないさ」


 フォンスは明らかに晃真を見下した様子。晃真は痛みに耐えながら熱での反撃を試みた。そんなとき――フォンスの意識の外から影が迫る。鎖を通じてわかってはいても、間に合わない。


 ざくり。刃と化した影がフォンスの足を切り裂いた。さらに影は胴体、首、頭を狙うがフォンスは剣で弾いてみせた。


「話を聞いてよ。ねえ、どんな気分? ねえ!」


 オリヴィアは言った。

 影に包まれて覇気に満ちたその姿は吸血鬼を思わせる。


「喋るな、化け物が!」


 フォンスはオリヴィアと晃真の場所を入れ換えた。早々に処理しなくてはならない、その一心だった。その意志をあざ笑うかのようにオリヴィアはフォンスを追い詰めた。鎖の張り巡らされた空間のその端まで。


「くそ……どうしてこの化け物は!!! こんなのよりは――」


「晃真! そこから離れろ! 少しでいい!」


 鎖の外側からの声。声の主はキルスティだった。

 晃真はその声に反応して飛びのいた。結果、入れ替えはなかった。これがチャンスとばかりにオリヴィアはフォンスに畳みかける。鉈を振り下ろす。剣が鉈を受け止める。一度鉈を引いて影での攻撃に切り替える。その攻撃に乗じるようにして鉈を振るう。


 血の花が咲いた。

 鉈と影は同時に血の花を咲かせた。影は心臓を貫き、鉈は首を抉る。その攻撃はフォンスの命を刈り取るには十分だった。


「届いた……! 思いのほか厄介だった……!」


 と、声をもらすオリヴィア。彼女の顔をフォンスの血が汚す。それと同時に空間を仕切っていた鎖が消えてゆく。

 倒れ逝くフォンスのその姿に焼き付けた。そんなオリヴィアは傍から見れば放心状態であるようにも見えた。オリヴィアが放心状態かと考えたのは晃真。傷を負っているというのにオリヴィアにかけより、声をかけた。


「大丈夫か? オリヴィア!?」


 晃真がそう言ってからしばらく間をおいたときだ。


「大丈夫。本当に事切れたか気になってずっと見てしまっただけ。次に行こう?」


 と、オリヴィアは言った。



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