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26 突入

「アナベルがいる……」


 オリヴィアは呟いた。


「ううん、ホテルの方は大丈夫そう。心強い味方が来てくれたから」


 さらに付け加えるオリヴィア。


「じゃ、例の場所にあの女は来ないってことか。煩わしくなかていいじゃないか」


 と、キルスティ。


「私たち4人でなんとかしないといけないけどね。むこうはアナベル1人で凄いことになってるよ」


 オリヴィアは言った。

 実際に彼女が影を通して見た限りでは、アナベルがホテルに襲来する者たちを虐殺していたことがわかっていた。それもアナベル自身は一歩も動くことなく、張り巡らされた糸を操って。


「これ以上の戦力は割けない。割り切んな」


 エミーリアは言った。




 1時間ほど歩き、ようやく敵の根城にたどり着いた。


「ここ……私知ってるよ」


 オリヴィアは言った。

 それもそのはず。オリヴィアは昼間にシンラクロスセントラルホテルを見ていた。いや、正確にはその隣のカジノ。アナベルが潜入していたところだ。


「ホテルじゃなくてカジノの方だけど。ほら、ピュアホワイト・カジノってところ」


 オリヴィアの言うカジノ。その経営者のことをとあるルートで知ったキルスティは妙な笑みを浮かべた。


「この大陸でさぁ、吸血鬼ハンターのことを隠語で"白"って呼ぶんだとさ」


 キルスティは言った。


「ちなみに吸血鬼は"赤"、人間は"青"、ダンピールは"紫"だ。経営者はその隠語を知ってそうな立場の人間でね。ピュアホワイトってあたり、吸血鬼ハンターとしての選民思想がありそうだ。ま、腹の中は間違いなく真っ"黒"だろうがね」


「あんまり聞きたくなかったな……」


 と、オリヴィア。


「早くしないと夜が明けちまう。突入するよ」


 エミーリアは言った。

 オリヴィアたちもここに来た目的は忘れていなかった。


「うん。でもその前にやりたいことがあるから、少し待って」


 オリヴィアはそう言うと、イデアの展開範囲を変えた。

 やはり彼女の真骨頂は夜。影はカジノとホテルの中に入り込む。そして――ほどなくして2つの建物の中から悲鳴が。


「行こう。銃を持った連中はあらかじめ処理しといた。いると戦いづらいでしょ?」


 と、オリヴィアは言った。


「迷いなく殺せんのね。そういうとこ、私も嫌いじゃない」


 キルスティはにやりと笑った。


 やがて4人はホテルの中に突入する。

 内部は血の海だった。生きている者もいたが、オリヴィアの言う通り武装した者はもれなく死んでいた。


「助けてくれ! 気が付いたらここにいた人たちが死んだんだ! 見えない何かに切り裂かれたように!」


 死体と血を見て取り乱したスタッフは叫ぶ。だが、彼はホテルのロビーでの出来事の犯人を知らなかった。


「まずは大人しくしてください。俺たちはその犯人を捜しています。ですから、どうか下手に動かないよう」


 晃真は冷静な口調で言った。

 どうせスタッフにイデアは見えない。そのうえ、これからのこともできれば知られたくない。


「そうか……どうにか犯人を確保してくれ……頼む」


 スタッフの嘆願を聞き、4人はさらにホテルの奥へと進む。どうにかばれないように進まなくてはならない。ホテルの廊下にも切り裂かれて死亡した男たちが転がっている。彼らもイデアを見ることができなかったのだろうか――


「待って、この人生きてる」


 オリヴィアは言った。

 彼女の視線の先には片足を無くした銀髪の青年がいた。彼から感じられるのは、イデア使い特有の気配だった。


「おい……お前だろ……俺達を殺そうとしたのは……」


 青年は地面にうずくまって言った。


「だから何。わたしはクロル家を潰そうと思っていたのに。その状態でどうしろって言うの。答えられるものなら答えてみてよ」


 と、オリヴィア。


「地獄に堕ちろ……不届き者が……」


 青年はオリヴィアに怨嗟を向けた。

 そのときだ――見えない何かの気配が近づいたのは。透明な状態で奇襲をしかけ、オリヴィアたちの命を狙った。


「見え透いてるねえ? いつぞやのバックパッカーでもいんのかい?」


 透明なものに対応したのはエミーリアだ。刃を突き立てようとするやつらと味方の間に割って入り、その攻撃を素手でいなす。


「オリヴィア、キルスティ、晃真! ここは私に任せな! やつは私に有利をとれない!」


 エミーリアは言った。

 彼女の「任せな」は信用できる。先の共闘で知ったオリヴィアは、晃真やキルスティとともに先へ進む。彼らを追撃しようとした透明なものはことごとくエミーリアに阻まれる。


 3人の姿が見えなくなったことを確認すると、エミーリアは本当のイデアを展開した。

 それは両腕を鎧のように包む、まがまがしいものだった。


「なるほど、見られたくないものですか」


 どこからか、エミーリアの知る声――ロドルフの声がする。


「違うね。私は人が死ねばより戦える。それだけだ」


 エミーリアは言った。


「お揃いですね。僕も人が死ねば死ぬほど手数が増えるんですよ。ただのゴリラかと思いましたがまさか共通点があるとは」


 エミーリアの視界の外からロドルフは言う。



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