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5 鮮血の調査拠点

 鮮血の夜明団。イデアや吸血鬼、魔法といった超常存在に対応するためにつくられた組織。そこが所有する調査拠点には、誰もいなかった。


「あの町のシェルターみたいな建物なわけね」


 車の窓から調査拠点を見たオリヴィアは言った。


 調査拠点は森と町の間に建っていた。煉瓦でつくられた建物はフェンスで囲ってはあるが、セキュリティが万全だとはいえない。おそらく、身を守ることはここを利用する構成員の実力に任せているのだろう。


「……へえ。シェルターってそういう建物だったんだ。私は直接見たわけじゃないけど、なるほどね」


 と、パスカルは言う。

 今車を運転しているのはパスカル。この近くの悪路を進み、揺れる車の中で彼女の赤い髪が揺れる。


「なるほどって……」


「それはいいから。いずれ私がなるほどって言った理由はわかるから。ほら、揺れるよ!」


 パスカルは言った。すると、彼女の言葉がまるで予言であったかのように車ががたんと揺れた。石でも踏んだか、段差を通ったか。

 揺れた場所の先。そこはすでに駐車スペースになっていた。やっと到着した。パスカルは車を止めると言った。


「じゃ、降りて食料とかを運び出そっか。明日にはここを出るけど、休憩は必要だからね」


 さらにパスカルは言う。


「了解だ。ちなみに、ここでやることは?」


「ランスがノートに報告を書いてくれれば特に。ほら、ずっと移動するのは負担になるからね。買い物は私とヒルダで済ませようと思うし」


「ああ……気遣ってくれるのは感謝するぜ」


 ランスはそう言って車を降りた。

 運び出すのは食料の一部だけとのことだった。が、ランスは不安に思うことでもあったのだろう。手りゅう弾と銃を車から下ろした。


「それにしても、空気がいいね。人が変に殺し合いをするようなこともなさそう。人があまり来ないのならそれ相応の理由があるんだろうけど」


 一足先に降りていたオリヴィアは言った。

 その地に人が多いこと、人がいないことには理由がある。オリヴィアはそう教えられた。人がいない理由が地形の問題か生態系の問題か、はたまた危険な組織の存在によるものかはわからない。だからオリヴィアはこんなのどかな場所でも警戒を怠らなかった。


「……そうなんだ!? 私、考えたことなかったけど……考えないと危ないかな?」


 と、ヒルダ。


「さあね。こういう、人のいない場所に慣れればその理由を考えなくなることだってあるし。それが当たり前になってしまうから。でも、これからは用心した方がいいのかも」


 オリヴィアは答えた。


「そっか……気を付けるね。熊でも人でも鹿でも、私の能力でぶち抜いてしまえるんだけどね!」


 さらにヒルダは言った。

 オリヴィアは目を丸くする。能力の片鱗を喋ったヒルダがよほど異質に映ったのだろう。

 彼女が驚くほど、ヒルダはオリヴィアのことを信用している。オリヴィアであれば、そんなことはしない。どうして会ってからそれほど経っていない人をここまで信用できるのか不思議だったと同時に、オリヴィアはヒルダのことが心配になっていた。


 ――嵌められたりしなければいいんだけど……ってどうして私はヒルダのことを心配してるの。そんなの、自己責任なのに。


 オリヴィアはヒルダから目をそらす。これまで、オリヴィアがこんな感情を抱くことはほとんどなかったから。


 ――心配するだけ無駄だし、他人を簡単に信用するなんてできなかったのに。この人たちは……


「ヒルダ! オリヴィア! 早く来て!」


 調査拠点の入り口でパスカルが叫んでいる。

 彼女とランスは中に入ろうとしていたようだった。


「うん、今行く!」


 ヒルダはそう言って、入り口の方に走ってゆく。オリヴィアもその後を追って調査拠点の方へ。そうして調査拠点の中に4人が揃った。


 調査拠点の中はシンプルながらも人が暮らせそうなつくりになっていた。パスカルたちのいたところのように、床下収納がいくつもある。さらに、玄関から入ったところの部屋からは倉庫、寝室、書庫、キッチンなどに続いているようだ。


「まあ、ここに1ヵ月くらい滞在する人もいるわけだからこのつくりになるよね」


 パスカルは内装を見ながら言った。


「あ、そうそう。ランスはあのノートに記録よろしく。でも、くれぐれもオリヴィアのことは書かないで。オリヴィアの命を狙う人間が過去にいたから」


 さらにパスカルは続けた。

 それが何のことか、オリヴィアはわからなかった。が、過去――自身が連れ出されたときのことを思い出す。


 そう、あれはオリヴィアがまだ幼かった時のこと。地面に落とされた屋敷で、とある女に手をさしのべられた。それから母親には会えない日々が続く。そのときに何をされたのかは覚えていないが――いい気はしない。


『あんたは、ストラウス。蜷ク陦€鬯シ縺ョ螽倥〒縺ッ縺ゅk縺代←縲∫ァ√�縺ゅ↑縺溘↓蜊ア螳ウ繧貞刈縺医◆繧翫�縺励↑縺�€ゅ≠縺ェ縺溘′辟。莠九↓閧イ縺」縺ヲ縺上l繧九%縺ィ繧堤・医k縺�縺�』


 そのときに、何があった? 2度目にオリヴィアを連れ出したのは誰だ?


 オリヴィアの命を狙う者がいる。そのことについて、オリヴィアは実感を持てないでいた。彼女自身、命が無価値なものだと思っていたから。




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