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14 存在してはいけない記憶

虐待を思わせる表現があります。ご注意ください。

「……それとさ、オリヴィア。私が言えたことじゃないけどクソみたいな倫理観植え付けるやつのどこが信用できるって?」


 拷問の手を止めたキルスティはそう尋ねた。


「そんなこと言ったって、ロム姉は優しいし……優しいし……? あれ……?」


 オリヴィアを襲う頭痛。さらに彼女に蘇る、ありもしないはずの記憶。これは一体――


挿絵(By みてみん)


 ――拳を振り下ろしたロム。直接的な痛みこそないものの、恐怖は生々しく蘇る。これは白昼夢ではない。ありもしないというのに、さも現実であるかのように存在を誇張する。

「まともにイデアも使えないで、この出来損ないが。それでもあの吸血鬼の娘?」

 と、ロムはオリヴィアを否定する。

「拾わなきゃよかった」

 と吐き捨てるロム。その後ろにいるのは水色の髪の少女。彼女はおどおどとした様子で心配そうにこちらを見ている。


 ――見るな。見るな。わたしは。


「顔色が悪いぞ。私の言ったことがまずかったか?」


 と、キルスティ。


「いや……わからない。ただわたしの記憶とあまりにも違いすぎることがフラッシュバックしたみたいで」


「よくわからないね。そういうのは、何回かあった?」


「最近増えてきたかも。わたしが覚えていないことばかり。ロム姉に出来損ないと言われたり、殴られたり叩かれたり。そんな記憶なんてわたしにはないのにね」


 呆れたように言うオリヴィア。だがそんな彼女の繊細な様子をキルスティが見逃すわけもなく。


「色々なやり方で記憶を改竄された人にはよくあることだ。フラッシュバックのことがあればあんたは、ロムとやらに近づこうとは思えなくなるかもね」


 キルスティは言った。


「そうだ、いいこと思い付いた! 記憶改竄の薬仕入れたらこいつに投与してモルモットにでもしてやろうか。どうせ拷問しても肝心なこと喋らないし尊厳を奪うのは闇医者として気が引ける」


 何かを思い付いたように言うキルスティ。新しいことに興味を持ったように、彼女は目を輝かせた。


「やれやれ、これがキルスティのキルスティたる理由かねえ。私とオリヴィアは晃真のとこに行くよ」


 エミーリアとオリヴィアは拷問部屋を出て晃真がいる部屋に向かう。そんなとき、オリヴィアの携帯端末にメッセージが届く。オリヴィアが見てみるとそれはアナベルからだった。


「よし、アナベルの協力も得られそう」


 と、オリヴィアは呟いた。すると。


「あいつの協力だって? エレナはともかく強いだけが取り柄のあいつが協力してくれるのかい?」


 エミーリアは聞き返した。


「大丈夫、アナベルは私には良くしてくれるから。パスカルから嫌われてるのはなんとなく察したけど」


 オリヴィアは言った。


「イカれてるねぇ。私が散々入団を渋ってきた鮮血の夜明団でもやっていけんじゃないかい? そもそも危険人物に協力を仰ぐことが常軌を逸した選択だ」


「……そうなの?」


 オリヴィアは尋ねた。


「そうだよ。で、アナベルは何をするつもりかね?」


「諜報だって。クロル家に友人がいるからそこ経由で情報を流したりするんだって」


「そっちか。いや、そのやり方も理解できる。アナベルもアナベルで考えてるわけだな?」


 エミーリアは言った。

 彼女はその後しばらく何かを考えていたようだった。


 やがね晃真のいる部屋の前にたどり着くとエミーリアはドアをノックした。


「晃真。ちゃんと服は着てるかい?」


 と、エミーリア。


「大丈夫だ。入っていいぞ」


 ドアの向こうから晃真の声が返ってくる。エミーリアは躊躇することなくドアを開けた。


「久しぶり、晃真。まあ、電話した通りかな」


「だな。本題に入るがタイムリミットはいつだ? キルスティが拷問してるから何かしら聞けたとは……」


 晃真がそう言いかけたとき。


「全然駄目みたいだ。親衛隊だかしらないけど、口を割らない」


 と、エミーリア。


「そうか……残念だ。仕掛けるのは早ければ早い方がいいかもな」


 晃真は言った。


「あ、タイムリミットなんだけどもしかしたらアナベルの協力でわかるかも」


 オリヴィアが口を挟んだ。すると、晃真の顔は少し青ざめた。


「彼女の手を借りるのか……俺としてはできれば対面したくはないな……」


 と、晃真。


「……できるだけアナベルがわたしに夢中でいてくれるようにするね」


 オリヴィアは言った。

 晃真の口ぶりからアナベルへの評価をそれとなく察したのだ。アナベルは嫌われている。パスカルにとどまらず、エミーリアや晃真からも。


 ――本当に嫌われてるのね、アナベル。いろんな人から。


 口にも態度にも出さなかったがオリヴィアはアナベルに同情した。


 そんなときに今度は電話の着信。相手はエレナ。オリヴィアはすぐに電話を取った。


『協力してくれって話だが、結論から行けばできればやる』


 名乗ることもなくエレナは言った。


「わかった」


『ごめんよ? 私は今棺を隠してんだ。中身がどうにかなるまで動けねえ。仲間に丸投げって手もあるが、中身の事情もある』


 と、エレナは語る。


「中身? それは一体」


『言えねえな。そんだけやべぇモンだ。詮索したらたとえオリヴィアだろうとぶっ殺す』


 エレナはそう釘を刺した。それだけエレナの隠している棺の中身は訳ありということ。だが、棺を持っていること自体を語ったことからエレナはオリヴィアをある程度信用しているようだった。

 それを不思議に思ったオリヴィアは再び口を開く。


「どうして棺そのものについてわたしに話すの」


『お前が裏切者って可能性がかなり低い部類に入るからだ。状況が変わればまた連絡するぜ』


 エレナはそう言って電話を切った。



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