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12 背後からの一突き

 場所はホテルに移る。

 あのあと、パスカルはホテルを取ってシンラクロスでの本拠地を確保した。

 机に置かれたフルーツを口にしながらヒルダは窓の外を見た。ここからは旧シンラクロスが見える。襲撃により荒廃した旧シンラクロスはヒルダの罪悪感を駆り立てた。


 もう、戻れない。戻れないのにパスカルはこれまでと同じように接してくる。オリヴィアもそうだ。


「さて、エレナが持ってきた情報なんだけど。クロル家の当主がこの町に来ているみたい」


 と、パスカルは言った。


「当主の名前はモーゼス・クロル。もうひとつわかったのはそいつが武器商人カナリス・ルートってこと」


 さらにパスカルは付け加えた。


 オリヴィアはカナリス・ルートという言葉を聞いたことがあった。が、それが今つながるとは思ってもみなかった。


「パスカルが当主の名前を出したよね。あたし、そのモーゼス・クロルに命令されてここに来た暗殺者なんだ……」


 思わずヒルダはそう言った。

 するとオリヴィアは身構え、部屋にイデアを展開した。そこには敵意以上に戸惑いがある。


「どうしてそんなことを言うの。あなた、正気なの? 襲撃があって疲れてるんでしょ……?」


 オリヴィアは言った。


「知らないよ。あたしは命令されたことをやらなきゃいけないの……だから、どいて。オリヴィアは殺しちゃいけないって言われたから。フォンス様もモーゼス様も、もう待ってくれないの!」


 ヒルダは立ち上がってイデアを展開する。その手に現れた機関砲の銃口はオリヴィアには向けられていない。ならば、殺せと命令された相手は。


「ごめんね、パスカル。良くしてくれたのに……良くしてくれたのに恩を仇で返すような真似をして……ごめんね」


 ふらふらと歩きながらヒルダは射線の通る場所へと移動し。


 銃弾の雨がパスカルにふりかかる。それを横目で見たオリヴィア。すぐさまヒルダを影で拘束した。


「パスカル! 何とか言ってよ! 仲間のふりをして殺そうとしてきたやつなんて、もう仲間じゃないでしょ!?」


 オリヴィアは言った。


「違う。私はヒルダが私を殺そうとしていたのは知ってたよ。それを分かっていて懐柔しようとしたわけだ。成功したと思ったんだけど、結果はこれ。どうしたものかな……」


 と、パスカル。


「は……?」


 オリヴィアは聞き返す。


「私が始末することは簡単だけど、未来ある子供を殺したくはなくてね。どうにか私の仲間にならないかと手を打って来たんだけど……」


「優しいのね、パスカル。私なら多分わかったときに殺してた」


 と、オリヴィア。


「正常な判断かもね。今の状況も私が情を捨てられなかった結果だ。そのつけを今払えるなら払うし、もしそうなるならオリヴィア。貴女はエミーリア・カレンベルクと接触して?」


 パスカルは言った。


「パスカル……もしかしてここで死ぬつもり?」


「死ぬとは限らない。最良なのはヒルダの後ろにいる連中を引っ捕らえてヒルダを自由にすること、かな」


 と、パスカル。


「方法は? ヒルダはあなたを殺そうとしてるのに?」


 オリヴィアは聞き返す。


「とりあえず私はヒルダを拘束する。貴女はこの町にいて頼れそうな人に接触してね。誰でもいいから」


 と、パスカル。

 オリヴィアもやっと納得がいったようで。


「わかった。ホテルにいる間はこの能力を解かないから、その後はお願い」


 そう言い残してオリヴィアは部屋を出た。

 昼間の屋外ならばできないことだが今はまだ屋内にいる。イデアを展開したままの状態でエレベーターに乗った。


 オリヴィアは頼れそうな人物に心当たりはないかと考えた。まず思い浮かんだのはアナベル。昨夜現れた彼女はオリヴィアを相棒と呼び、手助けした。真意こそオリヴィアにはわからなかったが、頼りになることは確かだ。

 そして、エミーリアたち。アナベルが言及した彼女に、オリヴィアはすでに会っていた。


「あとは、エレナさん……」


 と、オリヴィアは呟いた。


 エレベーターを降りるとホテルのカフェに入り、紅茶を注文する。店員以外に人がいないことを確認してオリヴィアはアナベルにメールを送る。その次はエミーリアだ。オリヴィアが選んだ手段は電話。電話をかければエミーリア一味の誰かが出てくれることを知っていたのだから。


『誰かと思えばオリヴィアか。どうかしたか?』


 出たのは晃真だった。その言葉とは裏腹にどこかその口調は嬉しそうでもあった。


「……あの、助けてくれない?」


 オリヴィアは言った。


「クロル家を潰したくて。わたしの仲間がクロル家に洗脳されているみたいだから」


『クロル家……共同戦線ってことになるな。俺たちも今クロル家に対処している。今はエミーリアが単独で親衛隊のヤツと戦っているところだよ』


 と、晃真は言った。


「手を貸せるってことでいいの?」


『構わない。で、どこまで知ってるんだ?』


 晃真は尋ねた。


「クロル家の当主について。親衛隊があることと、旧シンラクロスの襲撃がクロル家によるものだったこと。あとは、モーゼス・クロルが武器商人カナリス・ルートってこと」


 と、オリヴィアは言った。


『十分だ。これから場所を教える。場所は旧シンラクロス近くのゲストハウス・フィロソフィア。もし見たことがあるなら、虹色の屋根が目印だ。ここに来てくれ』


「わかった。今から行くね」


 空になったティーカップを置いて会計を済ませて店を出る。協力者に、会わなくてはならない。



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