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4 マルクト支部を目指して

 車には燃料となる青色の鉱石が取り付けられた。さらに武器や食料といった荷物も積み込まれてゆく。

 今日が出発の日。パスカルたちの隠れ家をたち、レムリア大陸の東海岸にあるマルクト区へ向かうのだ。その目的はというと。


「マルクト支部。最近新設された鮮血の夜明団の支部だな」


 トランクを閉めるとランスは言った。


「わかってる……それに、あの場所ではいくらでも情報が買えるんでしょ。行くなら一番理にかなってると思う」


 と、オリヴィア。

 車に水の入ったボトルを運び終えるオリヴィア。彼女が運ぶものはこれ以上ない。オリヴィアは車に乗り込んだ。


「おう。パスカル! 積み込んだぜ!」


「了解。色々と任せてごめんね。運転もそうだし、マルクト支部のことも」


 パスカルは言った。


「おいおい、お前らは窓から追っ手を攻撃する役割があるだろ? そっちに専念してくれ。俺は近接でしか戦えねえ」


 と、ランスは言った。

 そう、追っ手。オリヴィア一行は下手をすれば追われかねない立場にある。だから、攻撃する手段が必要だった。もっとも、オリヴィアがいなければその可能性は大幅に減少するのだが。


「はいはい。まあ、私もできることは限られるけどね」


 パスカルはそう言って車のドアを閉める。


 全員が乗り込んだところで、ランスは周りの様子を確認する。今のところ襲撃してくるものはいない。荷物の積み忘れもないし、4人全員が車に乗っている。

 ランスは車を発進させた。

 舗装されているが、手入れがほとんどなされていない道を通っているためか車は揺れる。が、4人はそんなことを気にするような人ではない。


「スラニア山脈までは時間がかかる。しばらくは南西レムリアから出られないと考えた方がいいかな?」


「だな。途中、安全そうなところで休憩するからな。これでも俺は鮮血の夜明団の人間だ。鮮血の夜明団の調査拠点くらいは使える」


 パスカルとランスは前の座席で言葉を交わしている。これはある意味作戦会議のようなものだろう。

 ランスの走らせる車は夜の町を走り抜けていった。




 夜が明ける頃。

 ランスの走らせる車はエヴァリュエートという町に到着していた。エヴァリュエートは隠れ家のあった町からはそれなりに距離がある。さらにここは治安がよく、襲撃しづらい場所でもある。


「この町で休むか」


 ランスは言った。

 長距離を進む間、ランスとパスカルは交代して運転していた。疲れた様子を見せることはないが、だからと言って無理をしていいわけではない。


「賛成! 事故ると怖いもんね!」


 と、ヒルダ。

 車の中で一晩中寝ていたヒルダは、元気そうにしている。


「そうだね。事故するのもあれだけど、ここで休むならトラブルを起こさないことが大事。ま、適当な店に車とめて朝ごはんにしよう」


 パスカルは言った。


 やがて、一行が乗る車はとある店の駐車場に入る。その店はクロワッサンとフライドポテトが売られている店。早速パスカルとヒルダは車を降りて4人分の朝食を買いに行った。


「……元気そうだね」


 パスカルとヒルダの背中を見ながらオリヴィアは言った。


「だな。体力もあるんだろうよ。それよりお前、クロワッサンは好きか?」


「嫌いじゃない。確か、地図から消えた町の名物だったっけ」


 オリヴィアは言った。

 彼女の言う地図から消えた町。その事情については彼女自身も理解している。その町は、他ならぬオリヴィアの母が消したのだ。

 それだからかオリヴィアは暗い表情を見せる。


「よく知ってるな」


 と、ランス。


「私、そこで孤児になったから。詳しいことは言わないけど、破壊された町なら見てる。あそこが今どうなってるか知らないけど」


 オリヴィアは言った。

 険しい表情の彼女。それもそのはず、彼女は破壊された町の様子がフラッシュバックしたかのように、あの光景を思い出している。――それは、オリヴィアが肉親を失った場所。


「……今、あの町はどうなってるの?」


 さらにオリヴィアは言った。


「あの町は……ディサイドは……第二のマルクト区になりつつある。秩序も何もかもなくしたところだ、貧民がなだれ込むし犯罪だって起こり続けてる。マルクト区と同じだ」


「ふうん……行くことがあればこの目で見てみたいね」


 オリヴィアは息を吐いた。


 ――少し殺気を出しすぎたかな。あわよくば殺せたらいいなと思ったけど、警戒される。こいつもパスカルもただ者じゃないね。


「俺も一緒に行こうか? なんてな。無法地帯なんざマルクト区だけで十分だ」


 と、ランスも言った。


 二人は会話を交わしているも、やはりその間にあるのは緊張感。オリヴィアが殺意を隠しきれていないのでランスもそれに警戒する。互いに均衡が崩れるところまでは踏み込めないでいた。


 そして帰ってくるパスカルとヒルダ。二人はオリヴィアたちの分まで買ってきたようで、大きな袋を提げていた。


「買ってきたよ! オリヴィアは生魚好き?」


 ヒルダは言った。


「好きだけど。そうだね、あんまり血抜きできてないのが好みだけどそうじゃなくてもいける」


 と、オリヴィア。


「じゃ、これで。皆で分けようよ。この町で補給するわけじゃないんだし。ね?」


「おう、そうだな。鮮血の夜明団の調査用拠点を借りる。休憩して、いいタイミングでこの町を出よう」


 運転席に座っていたランスは言った。オリヴィアの静かな殺意が弱まったことで安心しているようにも見えた。

 目的地はエヴァリュエートの町の外れにある調査拠点。



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