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8 特異点

 町の端にたどり着いたオリヴィア。彼女はここに来るまでに何人も殺してきた。その大半がここの住民に手を出していたわけだが。


 例えば、ネリー。

 共に仕事をする中でオリヴィアになついたのがネリー。どこかヒルダにも似た雰囲気の彼女だが、オリヴィアの目の前で殺された。


 例えば、ジル。

 オリヴィアが町にやって来た男たちを殺した少し後に家から出てきた。その時の彼女の髪は乱れ、濡れており、表情は憔悴したようだった。

 ジルを見たときにはオリヴィアは、何が起きたのかそれとなく察してしまった。


 未だオリヴィアが討ち漏らした私兵たちは殺しを続けている。

 少し離れたところだが、火の手も上がったようだ。その近くを中心に騒ぎが起きている。


 ――まずい。どうにかしないと。誰か対応してくれるよね……?


 焦りを覚えたオリヴィアは辺りをキョロキョロと見回した。

 武装した男たちは死んでいる。近くの住人がその騒ぎに合わせて出てくるということはなかった。住人たちも殺されたというのか。


 ここでオリヴィアは服装の違う人物を見かけた。

 身長は175センチ程度だろうか。銀色の短い髪と執事のような服装が特徴的だ。さらにベルトにはサーベルを差している。


 ――見つけた。


 オリヴィアはそう確信する。さっそくオリヴィアは影を伸ばし、攻撃を試みる。

 だが、襲撃者の首魁――ミランはサーベルを抜いて影を切り裂いた。オリヴィアが追撃しても結果は同じ。あのサーベルの前にはたとえオリヴィアのイデアだろうと歯が立たない。


「速い……包囲したのに」


 オリヴィアは呟いた。

 まだミランの視界に入ったわけでもないのに気付かれた。敵はいつ気付いたのだろう。


 ――ここから攻撃するのは無理だとわかった。なら、どうやって攻撃する?


「隠れているのなら出てこい。叩き斬ってやる」


 と、ミラン。

 その声にオリヴィアは違和感を覚えた。それと同時に身の危険も。

 安易に出ていけば簡単にやられる相手だ。しかし、出ていかないとしてもミランは。


「わかっているよ、そこにいることは。どうやらお前は死にたいようだな?」


 ミランはそう言うと、オリヴィアの方へ向かってきた。

 ただ者ではない。オリヴィアの直感はそう叫んでいる。あの剣を持って近付かれたら。そんなオリヴィアの考えたくないことも、自然とわかってしまう。ミランは、オリヴィアのイデアも体も切り裂くつもりだろう。

 恨むべきは近接戦闘がそれほど得意ではないことか。


 そしてミランはオリヴィアの姿をとらえるなり、その距離を詰めた。その間は1秒にも満たない。


「終わりだ」


 その声は死刑宣告にも等しい。

 振るわれる剣。それが体を切り裂くとき、オリヴィアの一生は終わる。


 ――どうにかしなければ。でも、受けられない。避けることは。


 死が目前に迫ったそのとき。オリヴィアがとった選択肢は防御でも回避でもない、攻撃。それはミランの剣の範囲ではなく足を狙った攻撃だ。


「えっ……」


 ミランの斬擊は空を切った。それと同時に、何もないところで転んだという感覚を覚えたのだ。


「なぜだ……? こんな転び方……」


 そう言いながら立ち上がるミラン。そんな中で、ミランには見えているはずのものが見えていなかった。


 一方のオリヴィア。彼女は彼女で妙な感覚を覚えていた。

 皮膚感覚でいえば、イデアのようでイデアではない。類似した感覚もなく、ただただ異質。そしてこの異質さは、どうやらミランの放つものだとオリヴィアは気付く。


 ――どういうこと? 見えていれば避けられるのに?


 オリヴィアは戸惑い、再びミランに向けて影で攻撃を繰り出す。ミランはその影をいとも簡単に切り裂くが、あまりにも大振りだ。それこそ見えていない攻撃をすべて迎撃するような勢いだった。そのままミランは大きく後ろに下がり。


「もしかして見えてないの?」


 迎撃された直後、オリヴィアは言った。


「……それを答える必要はあるか?」


 と、ミラン。

 そう言って斬りかかるのに合わせて、オリヴィアは影で反撃する態勢に入った。ミランが間合いに入ってくるタイミングで拘束、もしできるのであれば殺す。


 オリヴィアの予想通りミランはオリヴィアとの距離を一気に詰めた。それと同時に影を一気に展開し、ミランへの攻撃に入る。だが――


「うそ……さっきはどう見ても見えてなかったでしょ」


 オリヴィアは声を漏らす。

 ミランには影が見えていた。それを最低限の動きで切り裂き、今度はオリヴィアを斬り殺そうと体勢を立て直す。だが。


 そこに入る、「強者」。ミランもオリヴィアも乱入した「強者」には見覚えがあった。

 メッシュの入った水色の髪。糸。それはまさしくアナベルであった。


「殺し合うタイミングは案外早かったかな?」


 剣をタクティカルペンで受け止めると、アナベルは言った。


「よりによってこのタイミングか……! お前も性格が悪い……」


 と、ミラン。


「そう見えちゃうか。私はね、恋人と相棒が殺し合うところはあんまり見たくないんだよ。だから仲裁しようとしたわけだけど。で、どうしてここに来たのかな?」


 アナベルは言った。


「お前には……関係ない。お前にお前の事情があるように、私にはクロル家の事情があるのだ……」


 ミランは答えた。

 明らかに焦っている。アナベルが来る前と、今では全く顔色が違う。だが、それは形勢が逆転したに等しい状況からくるものではないだろう。


「……夜襲は成功した。私は戻るよ。アナベルも、そこのお嬢ちゃんも殺さない」


 それだけを言い残してミランはその場から消えた。


 ――どういうこと?


 オリヴィアはまだ状況を理解しきれていなかった。



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