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3 シンラクロスの影

 きらびやかなものには裏がある。それはシンラクロスの町も同じ。

 車窓から見えなかった場所には町の中心部とは全く雰囲気の違う村があったのだ。外部には伏せられているのか、本当に知られていない村らしい。観光客がここを訪れている様子もないくらいなのだ。


「パスカルはここによく来るんだよ」


 先頭を歩くヒルダは言った。


「付き合いの長い人がいるからね」


 パスカルが言った。


 シンラクロス郊外の村は木で造られた民家が建ち並び、道は舗装されていない。村を行き交う人々はシンプルな服装の者がほとんど。人によってはサンダルさえも履かずに裸足で歩き回っている。


 オリヴィアがシンラクロス中心部との違いに驚いていたとき。急にヒルダが走りだした。知り合いか友人を見つけたらしい。


「グレース! 久し振り!」


 ヒルダは手を振りながら言った。


「あはは、ヒルダは元気だよね」


 そう言って近づいてくる、麦わら帽子を被った細身の少女。彼女がグレースだ。


「グレースはね、ダンピールだけど体が弱い。ちょっと心配だったけど生きててよかった」


 と、パスカルは言った。

 彼女が「体が弱い」と言ったおり、グレースはあまり顔色が良さそうにはみえない。日焼けした他の住人とは違って肌も白い。健康そうな雰囲気はほとんどない。


「どういう状況かわからないけど、生きているかも危ういと思ってた?」


 オリヴィアは尋ねた。


「危うい……危うい……とは思う。あの子、心臓が弱いし肺が片方ないの。力仕事ができないからアクセサリー作る仕事をしているんだけどね」


 パスカルはそう答える。


「キルスティなら治療できたりするかな?」


「キルスティ?」


 オリヴィアの声を聞き逃さなかったパスカル。知らない人物の名前を聞いて、彼女はオリヴィアに聞き返す。


「わたしを助けてくれた人。セラフの町である人に殺されかけたんだけど、キルスティが治療してくれたよ。欠損とか、治せるんじゃないかな」


 オリヴィアは言った。


「……! いいね、それ。私は賛成するよ。とはいえグレースだけを治療しても不公平な気がする。ダンピールは色々な理由で欠損してる人が多いから」


 と、パスカル。

 彼女の言葉でオリヴィアはエレナのことを思い出した。


『無えんだよ、私の左腕。生まれつきな。だからこうやって銀の義手つけて吸血鬼ぶっ殺してんだけど』


 シンラクロスまでの列車の中で、エレナはそう言っていた。そのときの彼女の顔をオリヴィアは今でも覚えている。

 自嘲したような、悔しさがあるような顔だった。


「そう……なんだよね。エレナがそうだったみたいに」


「エレナは受け入れてそれさえも生かしてるからね。あの子は強いよ」


 と、パスカルは言った。


「強い……」


 オリヴィアは呟いた。パスカルの言葉の裏を探ろうとしていたが、当の彼女は何も考えていないようでもあった。


「ま、そんなことよりこの村を歩いてみるといいよ。表側のシンラクロスとはまた違った雰囲気がある。皆、派手な生き方じゃないけど懸命に生きているんだ」


 パスカルは言った。




 ヒルダとグレースの会話が盛り上がり、オリヴィアたちも招かれることとなった。

 一行が案内されたのは周囲の家よりも大きな、2階建ての家。とはいえ、斜面を利用していて1階の部分ないようなものだったが。


「上がってって! パスカルもヒルダも信頼できる人ですから!」


 と、グレースは言う。


「そうやってかかわれることが嬉しいよ。私に協力できることがあれば、言ってね」


 パスカルは言った。


 グレースに通された部屋で、彼女は真面目そうな顔で口を開く。


「お願いがあるんです、パスカル。この町は多分消されます」


 そこに嘘や冗談はなく、グレースは真剣な様子だった。パスカルもヒルダも向き合おうとしているようにオリヴィアからは見えた。


「誰から?」


 と、パスカルは聞き返す。


「名前……もしくは組織名は言えません。言ったら消しに来るとも伝えられる、死の商人なんです」


 グレースは答えた。


「死の商人……武器商人とかイデア覚醒薬あたりの商人? よくわからないけど……」


 ロムにそのことを聞いた、と言おうとしてオリヴィアは口ごもった。

 あの列車でロムのことをほんの少し聞いたことで、彼女の名前を口にすることが怖くなっていたのだ。当然ながらそれをパスカルが知るはずもなく。


「詳しいんだね、オリヴィア。それってロムから聞いた?」


 と、パスカル。

 オリヴィアの顔色が変わる。この名前だけは聞きたくなかった。


 ――敵対していた人から名前を聞いた。あの場では絶対に聞きたくない名前だった。それに、パスカルまで。


「……そのうちわかるから」


 その言葉がオリヴィアにできる精一杯の返答だった。


「答えられないのならそれでいい。で、グレース。被害状況を教えて?」


 パスカルは言った。


「この前は、この村に100年前から住んでいた人が殺されました。いえ、それだけではないですね。わかっているだけで30人くらいは殺されたと思います。その全員がダンピールでした。おそらくですが、私も……」


 グレースは答えた。するとパスカルはどこか諦めたかのような顔をして言った。


「……はぁ、ここにまでダンピール狩り。どうやら手を打つしかないみたいだ」


「でも、気を付けてくださいね。どこから情報が洩れるかわかりません。だって、襲撃してきた人の武器、村の自警団の武器と同じだったから」




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