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15 レムリア上空にて

『ただいま電話に出ることができません』


 電話から流れる絶望。()()はいらつきと焦りを覚えて電話を切った。

 あれから。部下に紹介された兄弟を送り出してから、これで10日が経ったが、5日目を境に定期連絡が途絶えた。

 あれほど圧力をかけておきながら連絡がない。()()は兄弟の死か裏切りを悟った。見たわけでも知らされたわけでもないのだが――そう判断する要素はある。


「使えないのね……あの2人も、紹介したやつも。全く、私が消す役目を担っているということも知らないで」


「ロム……随分と機嫌が悪そうだけど」


 廊下ですれ違うとき、グラシエラがロムに言った。

 ロムは心の内でも見抜かれたような顔をしたが――取り繕ったかのようにいつもの冷酷な表情に戻る。


「悪いに決まっているじゃない。送り出した2人から連絡が来ない。死んだか、裏切ったか。どちらにしても、2人を紹介したやつを許してはおけないの」


 彼女――ロムは答えた。


「そんなこと、わかりきっていたのに。どうして私はその話に乗ったのって話よね。嵌められたにも等しいわ……粛清しなければ……裏切りの可能性のある人は……」


 さらにロムは続ける。

 そんな彼女を前にしてグラシエラは少しばかりの恐怖を覚えた。怒りの矛先はグラシエラには向いていないはずなのに。いつでもロムの怒りがグラシエラ自身に向くような気がしてならなかった。

 加えてロムは人を信用しない。共にリーダーを務めるクラウディオにすら警戒心を抱いていた。それはグラシエラにだってわかった。


「そう……ね……」


 グラシエラは言った。


「解ってくれるかしら。これから定例会議でしょう? その会議にアルマンドを参加させる。向かわせた2人はアルマンドに紹介されたのよ」


 と、ロム。


 これからやることはグラシエラもわかっていた。

 いつも通りの作戦会議はロムによる裁判の場へと変わる。おそらく、いや確実に。呼ばれることとなるアルマンドは助からない。良くて追放、悪くて処刑。

 グラシエラは顔も知らない男を不憫に思ったのか、ロムから目をそらした。


「そうそう、グラシエラ。言葉には気を付けなさい。私は考えを読めないけれど、地獄耳なの。少しでも口に出せば今度は貴女が無事には済まないわ」


「ええ……」


 グラシエラはそうとだけ返事をした。


 2人は飛行艇の一角にある会議室に入る。定例会議はここで開かれるのだ。

 会議室には参加することになっていた面々が揃っていた。会議室の上座で足を組んでいるクラウディオ、これからの話の内容を気にしている様子のリンジー。そして、ロムに呼び出されて何かを恐れているアルマンド。


 ロムは会議室に入るとき、アルマンドを一瞥した。

 アルマンドは委縮している。以前、ロムにあの兄弟を紹介したときの面影なんてない。


「さて。作戦会議のつもりだったけれど、彼の紹介したオーメン兄弟の死か裏切りを受けて。内容を変更するわ……」


 と、ロムは言った。

 会議室の中の空気は凍り付く。


「いえ、別にアルマンドをつるし上げようとは思っていない。大切なのは、どうやってオリヴィアをここに連れてくるか。あの子の仲間を消すことは二の次。正直、私はあの子を連れ戻すことを最優先だと思っているわ」


 彼女の言葉は一時的にアルマンドを安心させてはいたのだが――


「アルマンド。あなたの処遇は決まっている……パシフィスに追放する。せいぜいパシフィスで魔物でも狩っていなさい。あなたが紹介したわけだから、責任を取るのは当然のこと。パシフィス行きを甘んじて受けることがあなたの誠意を示すこと」


 アルマンドに突き付けられた現実は非情なものだった。いや、ここで処刑されないだけまだましだったのだろう。

 パシフィス――パシフィス島はレムリア大陸の東側にある島。かつて人の手で生み出された化け物が跋扈している島だ。


「承知しました……」


 アルマンドは目を伏せながら言った。すると。


「おいおい、ロム。そういうのは甘すぎねえか? 下手すりゃ裏切りだぞ。殺しちまえよ」


 クラウディオが口を挟む。


「殺すと処理が面倒なのよ。この狭い飛行艇を無暗に血で汚したくないの。わかる? だからパシフィスに捨てる。あそこなら生きて外に出ることもかなわない」


「ほー……」


 クラウディオは聞き流しているようでもあった。


「で、問題はオリヴィアの方。私を探していることには間違いない。ただ……パスカル・ディドロとエレナ・デ・ルカ、エミーリア・カレンベルク。あの3人が干渉する限り私はなかなか近づけない。ルートビア。また行けるかしら?」


 ロムはルートビアの方を見た。彼女の圧から、ルートビアの選択肢はないようなもの。


「わかりました」


 ルートビアは答えた。


「いいわ。それでいい。場所はシンラクロス。どんな方法を使ってもいい、必ずオリヴィアを連れてきなさい。ついでに、あの子の取り巻きも。生きているといろいろと不都合なの」


「はい……」


 ロムが主導する会議は幕を閉じた。そして飛行艇はレムリアの東へと向かう。

 そして――ロムは知らなかった。オリヴィアの奪還に干渉してくる人間は他にもいたのだということを。




 車窓から見える景色はかなり変わった。

 セラフの町近くにあった青い砂はなくなり、今は川沿いを走っている。さらに進行方向には町が見える。あれがシンラクロスの町だ。


「オリヴィアとの旅ももうすぐ終わりなんだねえ。寂しいよ」


 と、アナベルは言った。


「そんなに寂しいならついてこればいいのに。わたしはどうでもいいけど」


 アナベルの隣にいたオリヴィアは言った。

 オリヴィアは一行の中では唯一、アナベルに邪険な態度をとっていない。


「いいや、シンラクロスでは私も用事(デート)があるからね。それもオリヴィアにはかなり刺激が強い」


「アナベルにしてはまともなこと言う……まあ、そっちの用事も楽しんできて」


「言われなくてもね❤ すごく、楽しみにしてるから」


 アナベルはそう言って、高そうなプリンを口にした。



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