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12 理解しがたき化け物

 キルスティだ。

 今の彼女は洗脳されていたときの彼女ではない。そんなキルスティが救世主のように見えた。


「ターゲット自らやって来るとは都合がいい! どうせお前も……」


 シェルトがそう言い終わる前。キルスティは彼に詰め寄って血塗れのハサミを突きつけた。

 ハサミでシェルトに傷を入れられればキルスティの勝ちだ。それを悟ったようにシェルトはキルスティと距離をとり。剣を持ち直してイデアを展開した。


 その形状は古代文字らしきものの羅列。何を意味しているのかはキルスティにもわからないが。


「殺せるものなら殺してみろ。俺は吸血鬼だし、能力だって弱くはない」


 と、シェルト。


「上等。やってやろうじゃない」


 キルスティが狙ったのはシェルトの右手。首や顔はガードされる。左手だって当てられる保証はない。だから、剣を握った右手が最善だと判断した。

 そんなキルスティを見たシェルト。剣を握りしめて。


「鋼の槍が降るだろう」


 キルスティの攻撃を振り払うと、その身を翻して突きの攻撃に入る。キルスティはシェルトの攻撃が見えていたが。


 ――速いっ!


 焦りを覚えたキルスティ。

 そんな彼女に襲い掛かる、神速の突き。その突きは何も剣だけによるものではなかった。剣に加え、シェルトの展開したイデアまでも付加されていたのだ。


 キルスティは一瞬で絶望をその心に抱くこととなった。だが、その絶望もすぐに砕かれる。


「危ない!」


 オリヴィアは叫び、影でキルスティに降りかかる突きを防いだ。


「動きから仕留められたと思ったんだが……」


 影が薄れる様子を見ながらシェルトは言った。相変わらず彼の周りには古代文字のイデアが展開されている。


「仕留める? オリヴィアがいる限り、私を仕留めることは不可能。さっきみたいなことをしても、どうせオリヴィアに防がれる」


 と、キルスティ。さらに彼女は。


「オリヴィア。手伝って。あんたがそいつの攻撃に耐えればいいから、私がそいつにとどめを刺す。私なら、できる」


「本当に?」


 オリヴィアは聞き返す。

 そうして話している2人の隙をつくようにしてシェルトはキルスティに斬りかかるが――オリヴィアの影は剣からキルスティを守った。


「それはじきにわかるから。あんたなら、そいつのスピードについていけるだろ」


 キルスティは答えた。


「そういうこと。頼まれたことだから、悪いけどあなたを殺すから」


 オリヴィアは戦意を取り戻し、この車両全体にイデアを展開した。

 昼間に比べて圧倒的に濃い影が車内のいたるところに潜む。そこから伸びる手はシェルトの命を刈り取らんとしていた。が、それは決定打に至らないだろう。


「お前は死を選ぶのか……がっかりだ……」


「できるものなら、わたしを引き入れられる決定打を放ってみてよ」


 と、オリヴィア。

 直後、シェルトに向かって四方八方から影の手は迫る。一瞬だがシェルトは表情を歪めた。それでもシェルトはその剣を振るいながら呟いた。


「暗夜の中。さらなる闇が押し寄せるだろう――」


 そこまで言い終わるとき、影を振り払う。が、そうしても影の量は減らない。夜になって強化された能力はシェルトに明確な殺意を持っていた。


「闇の中の紅き鼓動は。その闇を切り裂くだろう――」


 詩のようだった。シェルトの発した言葉はそれ自体がイデアの発動を促すもの。オリヴィアがそれに気づいたとき――シェルトの振るう剣は影を切り裂いた。そして――影は空中に舞い散った。


「晴れたぞ……!」


 シェルトはそう言ってキルスティに近づき、剣を振るう。あくまでも第一目標はキルスティのようだ。

 キルスティもシェルトの狙いに気づき、その刃を防ぐ。が、シェルトの力はキルスティの力をゆうに上回る。剣で押し切られ、キルスティの腕に刃が食い込んだ。


「くそ……!」


 キルスティは後ろに下がる。対し、畳みかけるようにしてシェルトは斬りかかる。能力を使うまでもない、と言っているかのように。そんなシェルトに立ちふさがったのはオリヴィアの展開したイデア。斬ったところで、影の手や影の刃は再び形を成したのだ。


「今の相手はわたし。いいから、つべこべ言わずにわたしと戦え」


 オリヴィアは言った。するとカレルは。


「もう一度言うが……お前は死を選ぶのか……」


「ここで死ねばわたしはこれまでってこと。実際、わたしの命に何の価値があるっていうの? 存在も、命も無価値なわたしに?」


 と、オリヴィア。


「お前は……怖くないのか? 死ぬことも、他人を遺して逝くことも」


 シェルトは言った。彼の周囲では文字が先ほどとは違う光り方をしている。


「ロム姉はわたしが死んでも悲しまないと思うけどね。それに、わたし自身がキルスティたちを置いて死ぬことは何とも思わない。けど、キルスティが死ぬのは胸糞悪いってだけ」


 オリヴィアはそう言い放った。

 その瞬間、シェルトの顔が青ざめたようにも見えた。そして――


「お前のことが理解できないということだけはわかった……狂気の半吸血鬼が現れたとき。夜と影は我に味方しないだろう。暗黒の中で剣を握れ。鋼の風で敵を断て――」


 シェルトは本気を出した。

 オリヴィアはそう直感した。それだけシェルトから感じる威圧感は大きく。


 剣は振るわれた。



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