エピローグ4 過去の清算、未来の布石
収穫祭を楽しんだオリヴィアと晃真は、あの村――昴が背負っていた不幸の出所へとやって来ていた。
地図上では春月からさほど離れていないようでも、その地に足を踏み入れることは困難だといわれていた。だが、オリヴィアと晃真はたどり着く方法を教えられていた。
『あの村に行くのなら呪いに気をつけろ』
と、杏奈は言っていた。
晃真は呪いについて杏奈から伝えられそれでも行くのかと問われ。晃真はその意志を曲げなかった。
村――鳥亡村は10年近く前、あるいはそれ以上昔で時が止まっているようだった。かつて杏奈たちがこの村を訪れたときはあちらこちらに白骨化した遺体が転がっていたが、それらも埋葬されている。血痕は雨で流されている。当時の爪痕はほとんどないようだが、未だに異様なイデアの残り香はそこにある。
「……これがあいつの背負っていた村の正体か」
と、晃真は言った。
「よくわからないけど、何かがあったってことは見ればわかるよ。家も壊されてる……」
オリヴィアは言った。
この土地には何人もの怨念が染み付いているようでもあった。
話によると、鳥亡村は世界にゲートができる前からイデアという能力の概念があったという。昴もそれを継いでいたらしく、彼の代には支えきれないほどの不幸がのしかかっていたという。
「だな。来て確信したよ。ここの村のものを背負えば狂う。あいつも背負いすぎて壊れたんだろう。発狂したくないのなら、自分から狂人になるしかなかったんだ」
と、晃真。
今の晃真はどこかはかなげで、この土地の何かに連れ去られてしまいそうだった。
だからオリヴィアは晃真と指を絡め合い、手を取った。
「晃真がわたしを離したくないことは何回も聞いたけど、わたしだって晃真のこと離したくないから。ううん、絶対に離さない。あなたは新秩序の支配者の隣にいるの」
と、オリヴィアは言った。
廃村で、たった2人。
オリヴィアと晃真は確認するように唇を重ね合わせる。
偶然見てくるような者はもういない。ヒルダは最終決戦の地で殺されたのだ。邪魔をする者がいない現実に気づかされ、オリヴィアは寂しさの涙をその目ににじませていた。
「帰ろう、オリヴィア。帰ったら式の準備と新秩序の話と、とにかくやることがたくさんあるんだ」
「うん」
2人が春月支部に戻ったのはその日の夜も更けた頃だった。
帰ってくるのを待ち構えていた杏奈と陽葵はオリヴィアたちをとある部屋に案内して白い服に着替えさせる。その後はお祓いだ。陽葵の浄化の炎で、廃村の穢れや祟りをすべて浄化し。オリヴィアたちはその先のことができたのだった。
「まず、わたしと晃真は搾取をせずに弱者を救済し、復讐を代行する新秩序を作る。カナリス・ルートと同じは嫌だけど、それぞれの地に担当の者を配置して秩序を守るの」
翌朝、オリヴィアは杏奈や陽葵を前にしてそう言った。
「なるほど。鮮血の夜明団に勧誘しようかとも考えたがお前はそうするのだな」
と、杏奈。
「うん。わたしが助けたい人を助けるのならそうするのが一番だから」
「悪くないだろう。で、メンバーは……」
杏奈はオリヴィアのメモに目を通す。
そのメモにはリンジーやミリアムといった名前のほかに悠平やレフの名前もあった。
「お前も見る目があるな。悠平くんは新進気鋭の社長。資金面なら彼を頼ればいいくらいだ」
杏奈は苦笑いしながらそう言った。
「本当はシオン会長あたりを勧誘できないか考えたけどね。でも、これでよかったのかも」
と、オリヴィアは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
レムリア大陸を裏から支配する新たな組織、ニューオーダー。
ボスはオリヴィア・ストラウス。
彼女の両翼が高砂晃真とリンジー。
さらに、大陸全土で暗躍もとい活躍するのはオルドリシュカ・ウィンドローズ、ミリアム・クロル、ゼクス、レフ・狩村、神条ジダン、ノキア、シーラ・アッカーソン、ファビオ・デ・ルカ、夏蒼倫、リルト・フサール、鶴田悠平。
「新時代を作る仲間たちの顔合わせをしよう」
冬のはじめ。
オリヴィアはニューオーダーの構成員をシンラクロス近郊の旧市街に集めた。
そのメンバーには初めて顔を合わせる者もいたが、直に打ち解ける。
「ごめんね、オリヴィア。キルスティがラディムを推薦したと思ったら断ってきて」
リルトがキルスティの生存をぽろりと告げ、オリヴィアの表情は明るくなる。
「いいよ。それより、会えるならキルスティに会わせて……!」
「もちろん! リルが連れてくるから!」
オリヴィアは近い未来にキルスティに会えることを確信し、微笑んだのだった。共に秩序を守る仲間に囲まれながら。
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