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エピローグ2 暴露

 収穫祭のシーズン中、エレナは春月市を後にしてシンラクロスへと向かった。

 シンラクロスは数か月前に起きた戦闘で多くの建物が破壊され、近隣の住宅地をふくめて住人の多くが殺された。今やその町にかつての娯楽都市としてのおもかげはわずかしかなく、スラムと化していた。


 そのスラムの一角に、とある人物たちのアジトがあった。

 そこはかつてオリヴィアたちが宿泊していたホテル。弾丸の痕や血痕といったあの事件の爪痕が遺されている。

 そんなアジトの一室にいたのはミリアム。彼女はヒルダやエミーリアの写真を見ながら涙を流していた。クロル家のすべてを乗っ取る力を持っていながら本当に救いたかった人たちを救えなかったことを激しく後悔していた。


「……私はどうすればよかったんだ。本当に助けたかったのは」


 ミリアムが大切にした人たちはすべて彼女の元を去っていった。アナベルだってそうだ。彼女はミリアムにさよならも言わずにこの世界から消えた。


 悲しみにくれるミリアム。

 そんなとき、アジトの一室のドアが乱雑にノックされた。


「うぅっ……取り込み中だ!」


 ミリアムは虚勢を張るようにしてそう言ったが。


「おー。それなら続けろ。私はお前の部屋に入るぜ」


 エレナの声。

 エレナはそう言って乱暴にドアを蹴破って部屋に入る。すると、泣いていたミリアムと鉢合わせする。


「は……エレナ? お前まで死んだのかと」


「勝手に殺すな。いや、大切な人が死にまくったお前がさ、心配で来てみたら案の定これだ。大丈夫か?」


 と、エレナは言う。


「仕方ないだろう。命は戻らない。私が悪いんだ……私が……」


「失ったものばっか気にするなよ。お前の仲間は無事だろ? それに、新秩序を担うってのにさ」


「ああ……」


 ミリアムは呟いた。


 新秩序。

 オリヴィアと晃真の提案で、カナリス・ルートにかわる裏側の支配者を組織しようということになった。とはいえ、カナリス・ルートの完全な後継組織というわけでもない。新秩序――ニューオーダーは搾取をよしとしないし、死の商人にもならない。とりこぼされる者たちを囲い込む、もう一つの秩序だ。

 ミリアムもその勧誘を受けていた。


「今は悲しみに暮れていてもいいけどよ、ずっと悲しんでいる暇はないぜ。それに……」


「お前のこと、思い出したよ」


 エレナの言葉を遮るようにミリアムはぽつりとつぶやいた。


「昔、私には2人の友達がいた。赤毛の友達と、金髪の友達。エミーリアとお前だろう」


 と言って、ミリアムはエレナを見る。

 すると、エレナはまいったなと苦笑いし。


「やっと思い出したか。言うべきかずっと迷ってたんだよ。ま、その前にお前が気づいてくれてよかったんだが。昔の友達に再会した気分はどうだ?」


「悪くない」


 ミリアムはそう言って穏やかな表情を見せた。




 同じ頃、リンジーはアジトの屋上でぼうっと夜空を見ていた。傍らには強い酒の瓶が転がっており、これまでにも酒を飲んでいたことが窺える。


「……はー。あたし、あのときにオリヴィアと合流すればよかったのかなー」


 リンジーは呟いた。

 運命が分岐したのは間違いなくアニムスでリュカを討った後だ。オリヴィアはアナベルに助けられ、彼女の手引きでリンジーはリュカと戦うことになった。それまではよかった。だが、その後に選択を誤った。リンジーはオリヴィアと合流して旅をすることを選ばなかった。いや、晃真との関係を考えると選べなかった。


「もしあたしがオリヴィアと一緒に旅してたら、今頃」


 と言って、リンジーは赤色の酒を口に含む。

 そのときだ。


「うわ! ここ湿度たっか! 雨降りそう!」


 無神経なオルドリシュカの声がリンジーの耳に入る。リンジーは眉間にしわをよせつつも声の主を見る。


「あのさ、失恋の悲しみくらい浸らせてくんない? それともあんたがあたしを癒してくれるって?」


 と、リンジー。

 するとオルドリシュカはため息をついて言った。


「あんたさ、あーしみたいに不死身じゃないんだしその調子で飲んでるとアル中で死ぬだろ。それであんたが死なないならまあいーけどさ」


「え?」


 リンジーは戸惑いつつ声を漏らす。


 夜風がリンジーとオルドリシュカの頬を撫で、髪がなびく。


「ねえ、今やってくれるって」


 と、リンジーはもう一度聞いてみる。


「あー、うん。忘れろとかは言わねえけどさー、正直あーしはあんたが一番打ち解けられてるし……その」


 そう言ってオルドリシュカはリンジーの隣に腰を下ろす。そうして、リンジーが口にした赤い酒の瓶を取って酒を飲む。


「甘酸っぱい酒じゃん。初恋みたい」


 オルドリシュカは言った。



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