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20 バグという概念

 時は少しばかり遡る。

 失血したミリアム。傷は塞がっているが、依然として意識はない。彼女の様子を見て生命力を回復させるため、少し前にファビオはオリヴィアからミリアムの回復を引き継いだ。だから、彼女の隣にはファビオがいる。


 近くにはリンジーや共に来た千春、オルドリシュカ、レフがいる。ファビオは近くにいる仲間たちを呼んだ。


「トイフェルのことについて話があるんだ」


「トイフェルのこと?」


 ファビオが急にトイフェルのことに触れ、オルドリシュカは聞き返した。

 オルドリシュカはカナリス・ルートの関係者だったとはいえ、エレイン以外の会員やトイフェルについては能力も含めてよく知らなかった。一方のファビオは、ハリソンに意見して消される前にトイフェルのことも聞いている。同じ関係者でも、情報量は全く違うのだ。


「これを知ったから僕は消されそうになったのかもしれないんだけど、僕はトイフェルの能力を知っている。彼は距離を操る能力を持っている。イデアのビジョンはわからない。とはいえ、能力が能力だから正面から戦っても攻撃を届かせることは、多分難しい」


 と、ファビオは続ける。


「距離か。ある意味空間を操る能力だね」


 そう言ったのは千春。

 彼は空間関係ある能力について、ある程度の知識があった。


「時空系の能力は時空系の能力で太刀打ちできる。たとえば、トイフェルなら春月の杏奈さんとか、リンジーあたりでもいけるんじゃないかな」


 千春はそう続ける。だが。


「それは良い着眼点だが少し問題があるな。トイフェルがイデア界に到達しているとなれば、いくら時空系の能力者でも力不足だ。むしろ……イデア界に到達した能力者が3人以上いる状況を作り出すべきだ」


 と、レフ。

 彼の出した案に興味を持ったリンジーたちはレフの方を見る。さらにファビオは「続けてくれ」と言う。


「イデア界に到達した能力者が戦えば空間が揺らぐ。おれたちも身をもって経験しただろう。オリヴィアとマティルデ・クロルはどちらもイデア界に到達していたから、あの現象が起きた」


「……まって。それだったら2人で事足りるんじゃないの?」


 リンジーが尋ねた。


「相手が時空系でなければそれでいい。だが、トイフェルは時空系だ。時空系だと2人で作り出した空間の揺らぎなんて握りつぶせてしまう。だから3人以上、できれば4人必要だ」


 と、レフは説明する。

 イデア界に到達した人物はこの場――本拠近くにはオリヴィアとトイフェルの2人しかいない。カナリス・ルート会員のマティルデも死んだ。人数をそろえるためには、この中の誰かがイデア界に到達する他はない。


「だとすると、イデア界に到達しないとだな。オリヴィアの話を聞く限り、絶体絶命の状況に陥ってんだよ。その状況を意図的に作り出すのが手っ取り早いけどよ」


 レフの説明を理解し、すべきことを考えたオルドリシュカは言う。


「できれば苦労しないね。いや、トイフェル相手に粘れるのならいけるか?」


 千春も何か考えたようで。


「これはあくまで僕の案にすぎないが、僕とオルドリシュカで粘りつつイデア界への到達を試みる。レフはリンジーと手合わせをして、リンジーをイデア界まで到達させてくれ。ファビオは回復を頼む」


 と、千春は言った。


「あたしは……」


「大丈夫だよ。僕たちが道を切り開くから」


 戦いに参加しようとしたリンジーに千春は笑いかけた。


「どうせ少人数で倒せる相手じゃない。まとめてやられるわけにはいかないからね、然るべきタイミングで参戦してくれ」


 千春とオルドリシュカは踵を返し、トイフェルに挑むのだった。


 一方のリンジーはレフとの手合わせに入る。

 レフはリンジーを前にしてイデアを展開する。彼のイデアのビジョンは青白い霧。


「おれの展開した霧の中ではあらゆる事象がバグる。馬鹿馬鹿しいかもしれないが、これでも墜落する飛行艇から無傷で生還できた理由がこの能力だ」


 レフの言う通り、馬鹿馬鹿しいとリンジーは感じていた。だからすぐにイデアを展開し、霧の中のレフを拘束しようと試みた。が、感知したはずの場所にレフはいない。認識がおかしい。かと思えば予想外の場所からの蹴り、拳。リンジーは吹っ飛ばされる。


 霧から出なければ。いや、霧の中でなくてはレフに攻撃が当たらない。外からの攻撃を試みても荊はことごとく消えるのだ。


「もう、意味がわからないっての! 空間全部攻撃しちゃえば満足!?」


 リンジーは箱を作るようにして荊を伸ばす。イデアの荊は相互に絡み合い、壁を形作る。レフとリンジーは荊の鳥籠に閉じ込められた。

 よし、とばかりにリンジーは壁から空間全体を支配しようとした。だが。


「え……こんなのってあり!?」


 囲った空間の支配権をとったつもりでも、荊は意図しない動きを見せた。

 それはリンジーに向かってするすると伸びてきて、彼女に絡みつく。リンジーが動かそうとしても操作が効かない。まさにバグだ。


「レフ!? あんた一体何を!?」


 リンジーは声を荒げる。


「まいったな、おれの能力はバグらせること。バグは開発者も使用者も悩ませる代物だぞ」


 と言って、レフは頭をぼりぼりと掻く。

 リンジーはその声を聴いた直後、荊で首を絞められて意識を失った。



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