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19 天上決戦Ⅱ

 圧倒的なイデアを展開したトイフェルを前にしてもオリヴィアは一切怯まなかった。


 展開できるだけの影を展開し、影の刃を2人にぶつけにかかる。とんでもない物量だった。だが、その物量をもってしても2人に影は届かない。まるで、影とトイフェルとの間に無限の距離が生じているような。


 オリヴィアはすぐそのことに気づき、趣向を変える。晃真と同じく点や線での攻撃ではなく、面制圧、さらには空間そのものでトイフェルたちを押しつぶさんと攻撃した。さらに、物を作り変える能力をトイフェルのイデアに作用させて突破をはかる。

 だが、オリヴィアが空間そのものでトイフェルに攻撃を加えてもやはりトイフェルに攻撃は届かない。


「無駄だ。たとえ空間を仕切っても私に攻撃は届かない。だから私は支配者でいられるのだ」


 そう言うと、トイフェルは強引にオリヴィアの影を突破して彼女に接近。その首根っこを掴んで持ち上げる。


「……悪魔ね。あなたの名前そっくり」


 首根っこを掴まれながらもオリヴィアは怯まずそう言った。が、本心では恐れていた。トイフェルの力を――

 トイフェルはといえば、戦意を喪失しないオリヴィアに対して怒りを抱いていた。それは彼のあまり抱くことのない感情。同志を喪ったときに初めて抱いた感情――


「悪魔、か。お前は何のつもりだ? 世界を滅ぼし得る力を持って、復讐か知らんが世界のことを考えずに動いて。私から見れば、お前の方が悪魔に見えるぞ」


 トイフェルは表情を一切変えずにそう言った。

 彼は首を絞めはじめ、オリヴィアは表情を歪める。このままだと殺される――だからオリヴィアは力を振り絞り、影の刃で背後からの一突きを試みる。だが、それもトイフェルには届かない。近くにいるというのに、トイフェルは何億㎞も先にいるかのよう。


「終わらせようか」


 と、トイフェルが言ったときだ。

 オリヴィアほどではないが、強力なイデア使いの気配がトイフェルに接近。からの、双剣がイデアを切り裂いた。


「なんだ……?」


 トイフェルはオリヴィアの首を絞める力を弱め、気配の方向を向いた。

 そこにいたのは千春とオルドリシュカ。数々の修羅場を乗り越えた使い手に不死身の女。2人は命を投げ捨てる覚悟でトイフェルの前に立ちはだかる。


 トイフェルはすぐにオリヴィアを雑に下ろし、言う。


「男の方は誰か知らんが、お前はわかるぞ。オルドリシュカ。エレインを裏切ったのか。お前がエレインを裏切ったせいでエレインは」


「あの女はあーしが死んでるときに死んでたし。正直関係ないんだよなあ」


 トイフェルがエレインのことに触れると、すぐにオルドリシュカは言った。


「ふん、そうか。それでも私に敵対していることは事実。敵であることに変わりない」


 と言ってオルドリシュカへと手刀を叩き込む。

 受け止めるオルドリシュカ。トイフェルはさらに畳みかける。受け止め、避けるオルドリシュカだが、次第に押され始める。それでもオルドリシュカは黙って受け続け。


 そのとき、千春がトイフェルの背後から切りこんだ。が、千春の手にそれらしい手ごたえはない。斬ったはずなのに、虚空を斬ったかのよう。千春は眉間にしわをよせる。


「……まいったね。予想以上に面倒な敵だ。こいつ、勝てるのかい?」


 と、千春は呟く。

 そうしてまた千春は鍔のない刀を持ち直してイデアを再展開。からの一閃。オルドリシュカがひきつけていることで隙はできていた。だが、斬撃は通らない。


「まったく、僕はやつの相手にもされていないってことかい」


 千春は吐き捨てるように言った。

 考えてみればわかることかもしれない。不死身の敵の方が、少し強い剣士よりも格上だ。


 一方のオルドリシュカはトイフェルの手刀を首に受けて何度目かもわからない死を迎えた。彼女は首を折られ、延髄を破壊されて地面に投げ出されるようにして倒れた。

 そうして、トイフェルは千春の方に向き直る。


「へえ、やっと僕の方も見てくれたね。オルドリシュカにばかり構うもんだから、僕が弱くて相手にされていないのかと思ったよ」


 と、千春は言った。

 すると、トイフェルは言う。


「ある意味で間違ってはおらん。お前は私が相手するには弱いし、カナリス・ルートの関係者だった時代がない。戦う理由がオルドリシュカより圧倒的に少ないのだよ」


 相手しなかった理由を突き付けられた千春は苦笑いした後、一瞬でトイフェルに突っ込んで一閃。イデアこそ斬れたが、トイフェルの肉体には届かない。

 かと思えば、トイフェルにほど近い場所から反発したかのように吹っ飛ばされる。

 千春はどうにか受け身を取りながら立ち上がり、イデアで描いた軌跡に沿って高速で動きながらトイフェルに接近する。太刀筋もイデアで描いた軌跡に乗せる。


 虚空に鮮血が舞った。

 千春の手に残る手ごたえ。

 千春はトイフェルのイデアを突破し、はじめて有効打を与えたのだ。


 トイフェルはといえば、傷口が浅くとも怒りの表情を露わにしていた。

 彼はこれまで、攻撃らしい攻撃をその身に受けたことがないのだ。


「痛いだろう、トイフェル。君はおそらく、これまでに痛みを知らなかったはずだ」


「ふふ、そうだぜ。千春の言う通りだ。で、こいつはあーしがよく知ってる『死』ってやつも知らねえ」


 オルドリシュカも立ち上がりながら言った。

 どうやら首を折られた程度ならば復活するまでにそう時間はかからないよう。


 だが、トイフェルは言う。


「安心しろ。お前たちが私に攻撃を届かせることなど、これ以降は一度たりともありえない。決して、な」




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