表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
330/343

16 愛の鎖

「マティルデ……」


 ミリアムは呟いた。

 彼女もマティルデと同じくクロル家の出身。違うところがあるとすればミリアムが本家、マティルデが分家の出身というところか。


 ミリアムとマティルデもまた、因縁ある2人だった。


 ミリアムは立ち上がり、つかつかとマティルデたちの方へ。その気配に気付いたマティルデは砂嵐でオリヴィアを吹っ飛ばし。


「誰かと思えば裏切者ではありませんかあ。何しに来たんです?」


「オリヴィアとリンジーの加勢に来た。お前がここにいるのは完全に想定外なのだがな」


 と言って剣を抜くミリアム。


 戦闘が再開される。

 抜刀したミリアムに、砂嵐の中に溶け込みつつも斬りかかるマティルデ。オリヴィアは影の刃で応戦する。

 だが、視界が悪い中でオリヴィアの攻撃は当たらない。


「オリヴィア。一旦引いてくれ。私がなんとかする」


 背中合わせになったとき、ミリアムが言った。


「どうして?」


「試したいことがある。頼む」


 と、ミリアム。


「……わかったよ。わたしは別の相手を警戒して、いけそうならあなたを援護する」


「話がわかるようになったな」


 ミリアムは微笑みながら言うと、イデアを展開。彼女のイデアには実体もビジョンもない。無だ。展開されればミリアムの身体能力は爆増するが、引き換えに彼女はイデアを一切感知できなくなる――


「ああ、そうでした。ダフネの能力からすれば最悪の相手です」


 と言ってイデアを解除するマティルデ。その時にはすでにミリアムはマティルデの眼前にまで迫っており。


「そうだろう。だからダフネの力を借りたお前に負けるまけにはいかん」


 一閃。

 マティルデは咄嗟に受け止めようとするも間に合わず。だから鎖でミリアムと自身をつなぐ。

 斬りつけられればミリアムにもダメージはいく。


「ぐっ……」


 ミリアムは痛みに顔をしかめた。

 マティルデの脇腹の傷は鎖によって共有され、ミリアムにも移される。これがマティルデの説く『愛』だ。


 そんなとき、マティルデには隙ができる。だからオリヴィアは影をマティルデまで延ばし、閉じ込める。イデアを拒む影により、鎖は切断され。空間が大きく歪曲し。

 暗黒空間は静かに閉じた。その空間にいるのはオリヴィアとマティルデのみ。


「つかまえた。わたしに気を回さないことが仇になったね」


 オリヴィアは淡々とした声で言った。


「ふふ……ええ、そうですね。砂嵐を止めたことを忘れていました。ミリアムだけでなくあなたも警戒すべきでした」


 と、マティルデ。


「とはいえ、不可解なところがあるのですよねえ。あなたは誰です?」


 さらにマティルデは続けた。


 今のオリヴィアは影と同化し、戦闘が始まったときとは異なる色に染まっている。だけではない。彼女の放つイデア使い特有の気配も変質した。マティルデは確かに気付いていた。


「オリヴィア・ストラウス。新時代の秩序を作る者」


 オリヴィアは答えた。


「あくまでもオリヴィアと名乗るのですねえ。あなたから罪の因子を感じるのですが。ああ、それだから悪いわけではありません。私が戦った中で一番私を楽しませてくれそうだというだけです」


 と言って、すぐにマティルデは切りかかる。イデア能力を封じられた中でも、高い基礎能力を持った彼女は一瞬にしてオリヴィアとの距離を詰める。

 銀の刃はオリヴィアをたやすく切り裂く――いや、斬られたオリヴィアは影となって霧散する。マティルデはこの手ごたえがレイピアを通じて手に残る。そうしてマティルデはオリヴィアの状態を察する。


 マティルデはその場から動かず、服の袖の中に隠し持っていた炸裂弾を手に取り、放つ。


「あ……」


 オリヴィアは声を漏らす。

 瞬間。炸裂弾は光を放ち、光が影を消してゆく。その光はイデアを侵食し、オリヴィアの姿を変えていた影までも消し去る。オリヴィアはもとの姿へと戻される。


 オリヴィアとマティルデは再びイデアの空間の外――本拠近くの森に出た。

 2人が出た瞬間、2人は激しい砂嵐と幻影を見ることとなる。


「そうですか。ダフネ。やはり私が愛を注いでよかったです」


 砂嵐の中、マティルデは優し気な声で言う。すると砂嵐の中からマティルデの耳に届く声があった。


「うん。もう一度あの鎖をつないで。そうすれば私とあなたは砂嵐に惑わされなくなるから」


「もちろんですよお。死が私たちを分かつまで」


 マティルデがそう言うと、ダフネは砂嵐を止める。

 その隙を狙ってオリヴィアが攻撃をしかけるが、止めるマティルデ。影を受け止める片手間に鎖を撃ち。鎖はダフネの胸を貫通。彼女とマティルデは愛のイデアにより結ばれることとなる。


 そうしてダフネは再び砂嵐を展開。

 砂嵐により視界は大幅に制限され、イデアの探知も阻害される。これでオリヴィアはほぼ無力化されたに等しいのだが――


「それはイデア。私には効かないと何遍言えばわかる?」


 と言って、砂嵐をものともせずにミリアムはダフネに突っ込んだ。そうして、斬撃。ダフネは斧で受け止めようとするも、ミリアムはするりと抜けるように一閃。


「うぐっ!?」


 脇腹に一閃をくらい、ダフネは表情をゆがめた。


 イデアのビジョンが見えていないダフネは、砂嵐も幻影も見えていない。彼女の視界はクリアで、ダフネもマティルデもよく見えている。

 この戦いはミリアムが鍵だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ