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10 吸血鬼シェルト

挿絵(By みてみん)


「連絡がねえな。こっちから連絡しても出ねえ。となるとカレルに何かあったらしいな」


 ここは暗くて狭い空間。

 その男――シェルトはずっとここで待っていた。ギチギチに詰められ、普通の人間では入ることもできないところで兄弟の連絡を待っていた。が、定期連絡は来ない。本来、電話ができないところでも連絡自体はできるようになっていたのだが。


「もう日没過ぎか。出るか、カレルが無事なら助けてやつらを消す。死んでいれば……弔い合戦といくか」


 シェルトは解錠装置を回し、鍵を開けた。すると密閉空間は、スーツケースの内部は外と繋がった。

 中身は奇怪な服装をした、赤い瞳の精悍な男。

 スーツケースから這い出るとあたりの様子を確認する。


 近くには屈強な男が倒れており、車内は静まり返っていた。まるで寝静まった後の町のよう。空はまだ赤みを残しており、起きている者がいない方がおかしいのだが。


「何があった……気配が遮断されすぎて分からなかったぞ」


 立ち上がってカレルが置いていった剣を拾うと歩きながらシェルトは呟いた。が、それとなく気付いていたこともあった。


 弟カレルのイデアは展開されていない。それどころか、そのイデアの気配が同じ車内にあることも感じとることができない。つまり。


 ――カレルは死んだ。俺のしらないところで。


 状況を理解したシェルトは無言で涙を流しながら歩いていった。この列車に乗ったイデア使い全員を殺すために。


「俺は吸血鬼だ。人間くらい殺してその血を搾り取ってやる」


 そう息巻いていたが、同時に嫌な予感にも取りつかれていた。弟の元へ逝くのは仇を討ってからのはずなのに。




「……来た。あのスーツケースの中だったんだ」


 オリヴィアは呟いた。

 影を通してスーツケースから赤い瞳の男が出てくるところを見たのだ。推理こそ当たっていたが、出てくるまでその気配さえも感知できなかったのでオリヴィアは少し身震いした。

 こんな異様な存在に、なぜ気づけなかったのか。


 一方で赤い瞳の男――シェルトはまだ気づいていない。這い出てから辺りの様子を見ているだけのようだ。

 シェルトの様子を見て大丈夫だと判断するとオリヴィアは先制攻撃を試みた。

 偵察用に展開していた影を戦闘向けに。影の溜まり場となっていた場所から影の刃を出してシェルトの心臓を狙う。オリヴィアでも「吸血鬼は心臓を貫かれれば死ぬ」ということはわかっていた。


「これで殺せれば最高よね。対策くらいしてるだろうけど」


 影の刃はシェルトに後ろから迫る。

 それは背後からでも心臓を貫けるほど鋭く――


 影の刃は跳ね返された。

 シェルトはいつ気配に気付いていたのか、後ろから心臓を一突きにしようとした刃を振り向き様に跳ね返した。


『オリヴィア・ストラウス。発展途上とはいえ、強いな?』


 シェルトは言った。

 それと同時にオリヴィアを襲った寒気。気付かないふりをされていたのか、との考えが頭をよぎった。


 ――最初から気付かれていた……? いや、そんなことは。でもどうして私の名前を……


 オリヴィアはシェルトを知らない。が、シェルトのことが気味悪く思えたのは確かだった。


『チャンスをやろう。カナリス・ルートの傘下に入るか死ぬか。お前は間違いなくもっと強くなれるんだからなぁ?』


 と、シェルト。

 どうやらオリヴィアに声が聞こえているとわかったようだ。


「えっ」


 オリヴィアは困惑して思わず声を漏らした。

 こんなことが起こるとは思ってもみなかったのだ。消しに来る者たちはまっすぐオリヴィアの命を奪いに来ると思っていた。


 ――そういえばさっき戦った人もあまり強いとは……


『いや違うな。戻ってこい、オリヴィア』


 オリヴィアはさらなる声を聞き取った。

 なおさらわけがわからない。そこで困惑してオリヴィアが展開していた影は薄れそうになる。が、オリヴィアはやるべきことを思い出して影を再び展開した。そして。


「なんで」


 オリヴィアはほとんど抑揚のない声で、イデアを通して見ていた方へ、シェルトに言った。


『俺から直々に命拾いするチャンスを与えてやってるんだ。あの人の娘だからな』


「誰なの、そいつ。たとえ親みたいなのを引き合いにだしても、わたしを見下してくるようなところには行きたくないよね」


 と、オリヴィア。


『もう一度聞くぞ。こっち側に来るか?』


 シェルトは懲りずに尋ねた。だがオリヴィアの答えは変わらない。


「気持ち悪いこと言うなよクソ野郎。あなたがいる限りそっちに行くことはないから」


 オリヴィアはそう言い放ち、シェルトの全方向から影の刃を叩き込んだ。シェルトはその物量をすべて捌くことを諦め、致命的な攻撃を捌くことだけを考えたようだ。

 シェルトの身体を影の刃が抉る。服が切り裂かれ、血が辺りに飛び散るも消耗した様子を見せない。さすが吸血鬼といったところだろう。


『俺の姿を見て、その返答をしたことを後悔するなよ?』


 血を流しながらそう言うと、シェルトはオリヴィアの方へと走り始めた。車両を隔ててはいるが、彼女の居場所くらいすぐにわかったのだ。


「そのときにあなたが生きていればね」


 と、オリヴィア。

 シェルトの進む方に影の刃をいくつも展開し、彼の命を奪おうとした。が、シェルトも無策ではない。剣で影の刃をはじき、道を確保した。



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