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14 怠惰の因子

 マティルデはオリヴィアを「悪の吸血鬼の後継者」と呼ぶ。実際、それは間違ってはいなかった。オリヴィアの母親はアンジェラ・ストラウス。世界に復讐し、滅ぼそうとした人物でもあるのだ。

 そしてオリヴィアもまた、世界を滅ぼしうる力を持っている。

 色欲、高慢、悪食、憤怒、強欲、虚飾、怠惰、憂鬱。オリヴィアは『色欲』の因子を持つ母アンジェラと同じく、世界を滅ぼしうる8つの因子のひとつを持っていた。それは『怠惰』の因子。

 だが、オリヴィアはアンジェラのことを否定する。 


「わたしは悪の吸血鬼の後継者なんかじゃない。わたしはわたし、わたしはオリヴィア・ストラウス」


 と、オリヴィアは言う。


 マティルデはどこか不機嫌そうな表情を見せ。


「……不愉快です。ダンピールの分際で」


 そう言って近づいてきた。


 すると、リンジーがオリヴィアの前に庇うようにして出てイデアを展開。


「あんた、この顔に覚えはある? 後継者とされていた時期にさ、顔くらい合わせたことがあるだろ? あたしはね、オリヴィアのためにカナリス・ルートを裏切ってあんたと今こうして敵対してる。あたしの大好きな妹のためだ」


 リンジーの展開した荊のビジョンはマティルデへと伸びる。マティルデは伸びてきた荊を目にも止まらぬ速さで斬り刻み。


「へえ? ですが私、目的はあなたではありません。優秀な半吸血鬼猟兵は目標を見誤りません」


 彼女がそう言った時にはすでにリンジーの視界から白の半吸血鬼猟兵は消えており。オリヴィアに斬りかかっていた。


「オリヴィア!」


 リンジーが反応したとき、オリヴィアは影でレイピアを受け止めていた。

 マティルデは影をいなした後、すぐに炸裂弾を放り投げ。


「あの場ではそうもいきませんできたが、今日は違います。今度こそ殺してやりますよお……」


 影が薄れ、消える。瞬間、オリヴィアかかつて見た以上の速さでマティルデは刺突、斬撃を繰り出した。たがオリヴィアも成長はしている。初撃は躱した。その次も受け流し、マティルデの背後を取った。からの、跳び蹴り。


 マティルデは鋭い蹴りで吹っ飛ばされるもアクロバティックな動きで衝撃を逃れ。


「そうですよね。あなたも強くなっているようです。やはりあなたは……」


 狂気を湛えながらもマティルデの顔は笑っていた。

 彼女は気付いていた。オリヴィアの基礎能力の強化、イデア能力の覚醒に。だから彼女はオリヴィアを認めていた。


 体勢を立て直したマティルデはイデアを展開してオリヴィアめがけて撃つ。これはオリヴィアも見たことがある。


「そんなこと……自分が弱者だと認めているようなものだよ……!」


 迫りくる鎖のビジョンを躱しながらオリヴィアは言う。


「果たして私の能力がそれだけだとお思いですかあ?」


 にやりと笑うマティルデ。

 オリヴィアは影を再展開し、鎖にぶつける。すると――空間が歪む。そう。マティルデもイデア界に到達し、覚醒した能力者だった。


「隠し玉があるってこと……!?」


 とオリヴィアが呟いた時だ。半透明の鎖がオリヴィアを素通りし、どこか遠くへと伸びる。

 そんな中、マティルデはオリヴィアに聞こえない声で呟いた。


「ダフネ……あなた、まさかあれで終わりでは無いでしょうね? 私の愛を注ぐので、足掻いて本拠までたどり着きなさい……」


 マティルデの覚醒した能力について、オリヴィアは何も知らない。オリヴィアは鎖に向けて影をぶつけるが、鎖は切れない。


「……わけがわからない。この場での戦い以外に、何があるって言うの?」


 オリヴィアは言った。


「たくさんの人に支えられたあなたなら理解していると思ったのですがね」


 と、マティルデは言う。

 彼女の言葉の意図をオリヴィアは理解しかねていた。そんな中でもマティルデはレイピアを片手に斬りかかり、影ではじかれている。


「どういうこと……」


「この大陸にはあなたを助けようとしている人間が何人もいる。最初はたったひとりだったのに」


 と言って、マティルデは鎖のビジョンをオリヴィアに叩きつけた。


「!?」


 オリヴィアは想定外の力に叩き潰され。

 立ち上がり辺りを見回してみれば周囲にはあるはずのない砂嵐が吹き荒れている。ここは森なのに――




 マティルデの鎖の伸びた先はとあるモーテル。ダフネが拷問されていた場所とはまた違った場所。監禁のための場所に連れて来られたダフネはその一室に監禁されるところだった。だが、彼女に伸びた鎖はその胸を突き。


 あの程度で終わるはずがない。

 ダフネは負けたが、まだ生きている。

 生きてさえいれば、もう一度戦える。

 たとえトイフェルを信用できずとも、彼から見放されていたとしても、マティルデがいる。


「――愛、ですよね? 私はダフネに対して」


 鎖を通じて共有される力。

 イデア能力を抑え込まれていたダフネだったが、彼女に力が注ぎ込まれたことで抑えていた枷を破壊。彼女は自由の身となり。壁を破壊する。

 外に出れば、自身の持っていた斧を探し出して手に取り、手頃な車を奪って北へ――マティルデやトイフェルの待つ本拠近くへと向かう。モーテルから本拠まではそれほど離れていなかった。




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