表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/343

12 本拠へ

 とあるモーテルの一室。

 ダフネは捕らえられ、手足にイデアを抑える枷をはめられたうえで拘束されていた。そんな彼女はミリアムに対し、ついに言葉を吐く。


「本拠は……スラニア山脈東部の麓」


「知っている」


 ミリアムはばっさりと切り捨てるように返した。


 部屋には水の入ったボトルがいくつも置かれ、ダフネの顔には布がかけられている。ミリアムはダフネを拷問していた。それも慣れた様子で。


「だが口を割るのは懸命な判断だ。もう少し聞かせてくれるか?」


「断る。殺して。秘密を守れない会員なんて、あの組織にいる意味がない」


 ダフネは口調を変えずにそう言った。ミリアムはダフネの様子からやり方を変えることに決めた。

 拘束を解き、ダフネとともに隣の部屋へ。

 拷問よりも効果がある方法、それは――


 隣の部屋には何種類もの酒や煙草、菓子が置かれていた。


「趣向を変えようか。どの酒が好みだ?」


 と、ミリアム。


「まさか毒を盛るわけじゃないよね?」


「アルコールが毒になる体質なら毒にはなるだろうな。そうじゃなければ違うが。で、どれがいい? 飲めなくても構わん」


「……春月のサケをお願い。春月のサケ、地味にやみつきになるんだよね。毒を盛られてもわかるし」


 ミリアムに聞かれるとダフネは圧に押されてそう答える。


「そうか。毒は入っていない」


 と言ってミリアムは酒瓶を開け、器に注いで口にした。


「うん、毒は入ってなさそう。でも……」


「いいから飲むといい。せっかく春月から取り寄せたんだ」


 ダフネは迷いをあらわにするが、ミリアムは目を輝かせてサケを差し出した。そんな彼女に押され、ダフネはサケの器を受け取ってサケを口にした。

 そうして、ダフネはミリアムとたわいもない話をし、ミリアムに勧められるままにサケを飲んだ。


「本拠には……」




 スラニア山地に近づいてきた頃、リンジーの携帯端末にメッセージが届いた。リンジーは送り主の名前を見て、すぐにメッセージを開く。


「うそ……ミリアム、そこまでやったんだ」


 リンジーは呟いた。何事かとオリヴィアが尋ねると、リンジーはメッセージの内容をオリヴィアに見せた。


「なんか、カナリス・ルートの会員を拷問して本拠の詳細を聞き出したんだって。さすが拷問が得意なド変態ってだけあるよね。その詳細なんだけど、カナリス・ルートのセキュリティについてなんだよね。パスワードとかちゃんと聞き出してて」


 と、リンジーは語る。


「パスワードがわかるのはいいね。で、どんな感じ?」


「ミリアムが聞き出した話によると、本拠は一見家みたいなんだよね。でも、その場所を隠す細工がしてあって、中にもパスワードを入力しないと進めないところが多い。パスワードを間違えば捕まるところもあるし、生体認証のところもある。生体認証のところは壊せってミリアムは言ってたけど」


 と、リンジー。


 彼女の言葉から、リンジーがオリヴィアの思うよりも自由な人間だということが伝わる。これまでクロル家で抑圧された分、反動が出ているのだろう。


「エミーリアが壊してくれるよ。わたしたちの中で一番パワーがあるでしょ」


 オリヴィアは微笑みながら言った。


 そうして、スラニア山地のエリアに入るときに一行は最後の休憩をとる。モーテルに立ちより、食事をとって体を休める。万全の状態でカナリス・ルートに挑むのだ。

 夕暮れの中、オリヴィアと晃真は2人でジュースを飲んでいた。


「俺、すべてが終わったらやりたいことがあるんだ」


 ふと、晃真はそう口にした。


「やりたいこと?」


「そうだ。あんたに会う前からずっとやりたかったことがある。昴――俺の兄がああなった原因、鳥亡村を見に行きたい。杏奈さんに聞いてみたんだ。今はもう大丈夫なのかって。大丈夫みたいだと。それなら、俺は自分を納得させるために行きたい」


 晃真は語る。その時の晃真の顔はどこか忌々しいものを思い出すようだったが、それと同時に懐かしいものを思い出すようでもあった。


「それなら、わたしもついていく。あなたをわたしがいないところで死なせるつもりはないから」


 と言って、オリヴィアは微笑んだ。


「オリヴィアがついて来てくれるなら心強いな。そうだな、俺はひとりじゃない。もうあの頃とは違うんだ」


 と、晃真。


 その様子を、ヒルダとリンジーはほほえましそうに見ていた。


 オリヴィア一行はその日はゆっくりと休み、翌朝にモーテルを発った。スラニア山地近くのモーテルから、エレナの提示した本拠までは2時間ほどかかる。これまで長旅だったが、その旅も本拠での最終決戦を経て終わる。


「こっちは6人、相手の人数は不明。本拠の間取りは詳しいことがわからない。手間取ってたらこっちが不利になるからねえ。ばしっとやってしまおう」


 本拠に近づいたとき、エミーリアは言った。

 一行は頷く。

 そんな中、オリヴィアは嫌な予感がしてイデアを車外にまで展開した。周囲の様子を少しでも感じ取ろうとしていた。


「イデア使いの……音!?」


 オリヴィアが感知するよりも先にヒルダが言った。瞬間――車は一刀両断された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ