12 本拠へ
とあるモーテルの一室。
ダフネは捕らえられ、手足にイデアを抑える枷をはめられたうえで拘束されていた。そんな彼女はミリアムに対し、ついに言葉を吐く。
「本拠は……スラニア山脈東部の麓」
「知っている」
ミリアムはばっさりと切り捨てるように返した。
部屋には水の入ったボトルがいくつも置かれ、ダフネの顔には布がかけられている。ミリアムはダフネを拷問していた。それも慣れた様子で。
「だが口を割るのは懸命な判断だ。もう少し聞かせてくれるか?」
「断る。殺して。秘密を守れない会員なんて、あの組織にいる意味がない」
ダフネは口調を変えずにそう言った。ミリアムはダフネの様子からやり方を変えることに決めた。
拘束を解き、ダフネとともに隣の部屋へ。
拷問よりも効果がある方法、それは――
隣の部屋には何種類もの酒や煙草、菓子が置かれていた。
「趣向を変えようか。どの酒が好みだ?」
と、ミリアム。
「まさか毒を盛るわけじゃないよね?」
「アルコールが毒になる体質なら毒にはなるだろうな。そうじゃなければ違うが。で、どれがいい? 飲めなくても構わん」
「……春月のサケをお願い。春月のサケ、地味にやみつきになるんだよね。毒を盛られてもわかるし」
ミリアムに聞かれるとダフネは圧に押されてそう答える。
「そうか。毒は入っていない」
と言ってミリアムは酒瓶を開け、器に注いで口にした。
「うん、毒は入ってなさそう。でも……」
「いいから飲むといい。せっかく春月から取り寄せたんだ」
ダフネは迷いをあらわにするが、ミリアムは目を輝かせてサケを差し出した。そんな彼女に押され、ダフネはサケの器を受け取ってサケを口にした。
そうして、ダフネはミリアムとたわいもない話をし、ミリアムに勧められるままにサケを飲んだ。
「本拠には……」
スラニア山地に近づいてきた頃、リンジーの携帯端末にメッセージが届いた。リンジーは送り主の名前を見て、すぐにメッセージを開く。
「うそ……ミリアム、そこまでやったんだ」
リンジーは呟いた。何事かとオリヴィアが尋ねると、リンジーはメッセージの内容をオリヴィアに見せた。
「なんか、カナリス・ルートの会員を拷問して本拠の詳細を聞き出したんだって。さすが拷問が得意なド変態ってだけあるよね。その詳細なんだけど、カナリス・ルートのセキュリティについてなんだよね。パスワードとかちゃんと聞き出してて」
と、リンジーは語る。
「パスワードがわかるのはいいね。で、どんな感じ?」
「ミリアムが聞き出した話によると、本拠は一見家みたいなんだよね。でも、その場所を隠す細工がしてあって、中にもパスワードを入力しないと進めないところが多い。パスワードを間違えば捕まるところもあるし、生体認証のところもある。生体認証のところは壊せってミリアムは言ってたけど」
と、リンジー。
彼女の言葉から、リンジーがオリヴィアの思うよりも自由な人間だということが伝わる。これまでクロル家で抑圧された分、反動が出ているのだろう。
「エミーリアが壊してくれるよ。わたしたちの中で一番パワーがあるでしょ」
オリヴィアは微笑みながら言った。
そうして、スラニア山地のエリアに入るときに一行は最後の休憩をとる。モーテルに立ちより、食事をとって体を休める。万全の状態でカナリス・ルートに挑むのだ。
夕暮れの中、オリヴィアと晃真は2人でジュースを飲んでいた。
「俺、すべてが終わったらやりたいことがあるんだ」
ふと、晃真はそう口にした。
「やりたいこと?」
「そうだ。あんたに会う前からずっとやりたかったことがある。昴――俺の兄がああなった原因、鳥亡村を見に行きたい。杏奈さんに聞いてみたんだ。今はもう大丈夫なのかって。大丈夫みたいだと。それなら、俺は自分を納得させるために行きたい」
晃真は語る。その時の晃真の顔はどこか忌々しいものを思い出すようだったが、それと同時に懐かしいものを思い出すようでもあった。
「それなら、わたしもついていく。あなたをわたしがいないところで死なせるつもりはないから」
と言って、オリヴィアは微笑んだ。
「オリヴィアがついて来てくれるなら心強いな。そうだな、俺はひとりじゃない。もうあの頃とは違うんだ」
と、晃真。
その様子を、ヒルダとリンジーはほほえましそうに見ていた。
オリヴィア一行はその日はゆっくりと休み、翌朝にモーテルを発った。スラニア山地近くのモーテルから、エレナの提示した本拠までは2時間ほどかかる。これまで長旅だったが、その旅も本拠での最終決戦を経て終わる。
「こっちは6人、相手の人数は不明。本拠の間取りは詳しいことがわからない。手間取ってたらこっちが不利になるからねえ。ばしっとやってしまおう」
本拠に近づいたとき、エミーリアは言った。
一行は頷く。
そんな中、オリヴィアは嫌な予感がしてイデアを車外にまで展開した。周囲の様子を少しでも感じ取ろうとしていた。
「イデア使いの……音!?」
オリヴィアが感知するよりも先にヒルダが言った。瞬間――車は一刀両断された。




