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11 理解できなかった

 砂の上にオルドリシュカの首珠が投げ出された。切り落とされた断面からは血が流れ出て、砂漠の砂を濡らしている。


「し……死んだぞ……」


 横転した車から出てきた千春は、オルドリシュカの様子を見て呟いた。彼は困惑した表情を見せている。

 だが、オルドリシュカをよく知る面々はうろたえない。


「大丈夫だ。少々時間はかかるがあの状態からもオルドリシュカは復活できる」


 と、ミリアムは言った。


 時間はかかるという言葉の通り、オルドリシュカの肉体が命を取り戻すまでには時間がかかっている。そんな中で、ダフネはつかつかと歩いてくる。彼女の目的はミリアム一行の全滅ではないらしく。


「オルドリシュカにとらわれている場合じゃないんだよね。とりあえず、運転手と車を潰しとけばなんとかなるかな」


 ダフネは呟いた。


「私がいこう。こいつから聞き出したい情報があるし、生け捕りは得意だからな。全身の筋肉をうまい具合に斬ってやればいい」


 ミリアムはそう言ってダフネの前に立って剣を抜く。


「やあ、庭師のダフネ。モーゼスの部下とエレインの部下だったらどっちが良かったかな? それぞれに面倒なところもあると思うのだが」


「それ聞いちゃう? どっちも嫌だし、私をまともに扱ってくれるのは……まともに……まとも――」


 ダフネの中には迷いがあった。エレイン、モーゼス、トイフェルの下で暗躍していた彼女だが、心から笑えたことがある自信を失っていた。


「答えられないなら言っておくよ。私の兄、モーゼス・クロルはクソだ」


 と言って、ミリアムは抜刀する。彼女に応じるようにダフネも斧を構え、斬りかかる。

 ミリアムは斧の一撃を難なくかわして切りこむ。が、ダフネは砂嵐で剣を受け止め。さらに砂嵐で虚像を作り出す。ミリアムが虚像にとらわれた中、ダフネは死角へ。


「しまった!」


 ミリアムは斧を剣で受け止める。力負けすることはなかったが、得物は剣と斧。強度に勝る斧が剣に食い込み、しまいには剣を折った。斧はミリアムに迫るも、彼女は躱す。


「ミリアム!」


 と、レフ。


「問題ない。私は素手でもやれる」


 と言うと、ミリアムは体勢を整えてダフネの懐に飛び込む。斧使いの戦い方を知っていたミリアムはその弱点にも気づいていた。斧は大振りになる分、懐ががら空きになりやすい。加えて至近距離――拳の距離は逆に対応しづらい。これがわかっていたから、ミリアムは動じなかった。

 そして、ミリアムはイデアを展開して自身のイデアに対する目を閉じた。見えなければいい――


「ふんっ!」


 見えない砂嵐を突き破り、一撃。重い拳だったが、ダフネは砂でガードする。


 そんな中、ダフネの後ろでオルドリシュカが立ち上がる。オルドリシュカの身体には傷ひとつなく、息も一切乱れていない。生き返り、すべてがリセットされたようなものだった。


「よし、復活。首をやられちゃ回復に時間はかかるが、この通りピンピンしてるぜ。ミリアムにばっか気を取られてると、あーしが背後からやっちゃうぜ」


 オルドリシュカは言った。

 その声に気づいたダフネは砂嵐の鈍器で雑にミリアムを吹っ飛ばし、オルドリシュカの方へと向き直る。


「化け物じゃん。そんなあんたが受け入れられる場所ってどこなの。これまでどこにも居場所なんて作れなかったくせに」


 ダフネは言った。


「新秩序。あーしらはこう呼んでいる。次の大陸の支配者をトップとする、カナリス・ルートの上位互換だぜ」


 オルドリシュカの言葉はダフネを戸惑わせた。神経を逆撫でしたのではなく、困惑させた。なぜなら、ダフネの中にも迷いがあったから。それ以上に、オルドリシュカは変わったのだ。ダフネから見て。


「理解できないかい? それとも、カナリス・ルートがヤバイってこと、認めたくない感じ?」


 オルドリシュカがさらにつづけると、ダフネは言う。


「なんとなくわかるよ、あんたたちがやろうとしてること。カナリス・ルートは寛容じゃないから」


 ダフネの言葉は重かった。


「でも、寛容じゃなくてもカナリス・ルートは世界の秩序を保つ組織でなくてはならないし、私もその末端でなくてはならない。もう、何が何なのかわからないけど、私はトイフェル・カナリスの末端として動かなくてはならないんだ」


 ダフネは自信の心に秘めた迷いを吐露した。そのことを責める者は今、誰もいない。だから言えた。


「トイフェル?」


 オルドリシュカは聞き返す。


「そのうちわかる。私が言えるのは、重用されていることはわかっていても、私は彼を理解できないってこと。それだけ」


 ダフネはそれだけを言って、再び斧を構え。今度はオルドリシュカに斬りかかる。オルドリシュカは剣でダフネの斬撃をいなし、砂嵐をはじく。さらに彼女は死を恐れない。どうせまた生き返るのだから。


「理解できないのに従うって、忠誠心にあふれてんのな」


 ダフネがのけぞると、オルドリシュカは言った。


「違う――あ」


 ダフネが気づいたときにはすでに彼女はミリアムにつかまっており――首を絞められて気を失った。


「捕縛して情報を引き出そう。もし有用な情報があればオリヴィアたちに流す」


 ミリアムはそう言った。




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