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1 作戦名は「弄月」

 オリヴィア一行は――オリヴィアの一行4人とランス、陽葵は春月市に到着する。パスカルの葬儀でオリヴィアが杏奈から招待されたのだ。


「集合場所は時雨屋旅館だ」


 杏奈はそう言っていた。

 運転するエミーリアは地図を見て目的の場所を確認。時雨屋なる場所はどうやら市街地からは離れているようで、都会の喧騒から離れられそうな場所なようだった。


 到着してみれば、そこには『時雨屋旅館』の看板が掲げられた旅館があった。山のふもとにある、静かな温泉旅館だ。


 旅館の前で一行が待っていると、杏奈とその夫の彰と息子の桃瑠がやって来た。彰は薄紫色の髪の優しそうな美男子で、桃瑠は杏奈と彰に似た藍色の髪の少年。


「無事にたどり着けたようでなにより。待ったか?」


 と、杏奈。


「全然。さっき来たばかりだよ」


 オリヴィアは答えた。

 もはやここに気まずさやぎこちなさはなく、オリヴィアは杏奈を憎むこともなかった。


「そうか。そう受け取っておこう。で、私の旦那の彰と、息子の桃瑠だ」


「どうも」


 杏奈に紹介され、彰は微笑む。桃瑠はといえば、ぺこりと頭を下げていた。


「前置きも無いが、入るか。実は君たちをここに招待したことには理由があってね」


 と、杏奈は少し意味深なことを言う。

 オリヴィアたちはただゆっくりと休むために招待されたと考えていたが、実際はそうでもないらしい。


 本当の理由を杏奈が語ったのは、宴会場にオリヴィア一行、ランス、陽葵、ジェイドに杏奈の一家が集まってからだった。


「私がここに君たちを集めたのは慰安旅行のためじゃない。本当の理由は、カナリス・ルートが我々を消しにきているから。君たちは全員信用できるし、この旅館はイデア能力を完全に遮断する。つまり、外から我々の存在を感知できない」


 と、杏奈は言う。


「どうりで異世界みたいな空気だったんだね。こっちから外のこと、全然わからないから」


 そう言ったのはオリヴィア。

 彼女の言う通り、時雨屋旅館はあの世のような雰囲気があった。外に出られるものの、あまりにも外とは異質なのだ。全員が死を知らない中で、ただ外とは違うことだけを感じていた。


「異世界か。ある意味合っているよ」


 オリヴィアの言葉を受けて彰が言う。

 が、彼は時雨屋旅館にとある村を秘匿するために使われたのと同じ術が使われていることは語らない。語る必要もない。


「待ちな、話が見えないねえ。ここに私たちを招待して何の意味があるんだい?」


 エミーリアが言った。


「話していなかったな。カナリス・ルートが我々を消しにきていることはさっき話した。我々の共通点は、やつらに消される可能性が高い人物。今、エレナたちに連中の本拠を調べてもらっているわけだ。我々はそれまで動かないし、カナリス・ルートの連中から消されることがないようにする」


 と、杏奈は答えた。

 いち早くカナリス・ルートを討ちたかったオリヴィアが反論しようとするが、さらに杏奈は続け。


「エレナやジダンには命の危険があるかもしれない。が、同意はある。気にするな、すべてうまくいく。それに、君を亡くして悲しむ人間だっている。そうだろう、晃真」


 杏奈はオリヴィアを諭し、晃真を見る。


「ああ……オリヴィアだけは絶対に失いたくない。人の命に順位をつけることはしたくないが、特別なんだ。オリヴィアは」


 と、晃真は言った。


「晃真……」


 オリヴィアは呟く。

 ランスをはじめ、彼女の周りにいる者たちはオリヴィアをほほえましい目つきで見ている。


「これは鮮血の夜明団の作戦だ。作戦名は、弄月(ろうげつ)作戦。俺たちと別動隊で1つの作戦なんだ。別に俺たちも守られるだけではない。カナリス・ルートと君たちがやり合うために心身ともに万全な状態にする。それが俺たちの役目なんだ」


 と言ったのは彰。

 彼の説明でようやくオリヴィアたちは納得した。




 彰の言った、オリヴィアたちを鍛える作戦は翌日から始まった。


 旅館の庭園にオリヴィアは招かれ、彼女の前には杏奈が立っていた。

 杏奈はいつもの服装ではなく動きやすい姿。さらに、短刀『九星剣』を帯刀していた。


「昨日の彰の言葉は方便でも何でもない。本当だ。これは弄月(ろうげつ)作戦の一環で、君はこれから空間系の能力への対処を身に着けてもらう。私との手合わせというわけで死なない範囲なら何をしてもいい。ジェイドが治療してくれるからな」


 杏奈は言った。


「うん……」


「どこからでもかかってくるといい。ただし、私は一筋縄でいく相手ではない。たとえ私が何年も前線から退いていても、な」


 明らかな強者の空気を醸し出す杏奈に、オリヴィアは影での攻撃を試みる。

 影の刃が16方向から杏奈に迫るが、杏奈は前線から退いていたとは思えない身のこなしで躱す。かと思えば、オリヴィアの足元に展開されていた影の大元をすべて異世界に転移させる。


「まだまだ!」


 オリヴィアは影を再展開するが、それもいとも簡単に破られる。

 杏奈はオリヴィアが思うより強く――

 杏奈はオリヴィアの喉元に九星剣をつきつけた。


「身のこなしが甘いぞ、オリヴィア」


 杏奈はそう言った。


「うう……」


 オリヴィアは情けなく声を漏らす。

 イデア能力そのものが強いオリヴィアだが、彼女には基礎能力が足りていなかった。元の身体能力が高くても、身のこなしは完全に素人。

 この現状を見た杏奈は言う。


「方針を変えた方がいいかもしれんな。能力そのものは覚醒しているが、フィジカルがそれではもったいない。陽葵を呼ぶか」


 杏奈の発言にオリヴィアは身構えた。



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