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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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21 墓前の和解

 ディサイドの町での戦いから3日。

 ディレインの町、ダンピール保護組織ノーファクションの本拠にてパスカルの葬儀が執り行われた。

 パスカルの関係者が集い、大っぴらにできないながらも彼女の死を悼んでいた。


「いい人ほど早死にとは言ったものだね……だからって、恨まれて死ぬなんてやりきれないだろう……」


「本当に。パスカルはあの場で死ぬべき人じゃなかったのに。運命のカミサマがいるなら、恨みたいくらい」


「そうですね。彼女のおかげで救われた人もいるのに、最期は関係ない人から恨みを向けられるなんて」


 参列者はパスカルについて思い思いのことを語っていた。だが、ここにいる者の中にパスカルのことを悪く言う者、パスカルの死を喜ぶ者はいなかった。

 ごく一部の人物から恨まれようとも、パスカルのことを慕う者は多くいた。


 パスカルの遺体は火葬され、ノーファクション本拠の墓地に埋葬された。

 墓地はレムリア大陸にあるどの宗教のものでもなく、質素なつくりだった。だが、そこにはあらゆるしがらみから解放されて眠り、弔うことができるようにという思いがあった。

 その墓地の近くにはコスモスの花畑があり、ちょうどこの時期には花が咲き乱れていた。まるでパスカルを弔っているようだった。


 パスカルが埋葬された墓の前。

 葬儀の後にはオリヴィア一行と杏奈、ノキア、ユーグがいた。


「パスカル……何勝手に死んでるの。約束破って。わたし、会えると思っていたんだよ……?」


 オリヴィアは震える声でそう言った。


「約束を守るかどうかはさておき、パスカルは生き抜いたんだ。そりゃ、あたしだって……あたしだってなあ! パスカル! あの世で首洗って待ってろ! 200年後にぶん殴ってやるからさァ!」


 平静を保とうとしていたノキアも悲しみに押しつぶされ、それを怒りに変えているようだった。当然、悲しんでも怒ってもパスカルは戻ってこない。

 ヒルダはさっきからすすり泣いており、エミーリアもハンカチを手放さない。


「そうだな。私も口酸っぱく早死にしそうだから気をつけろと言ったのだが。まったく、パスカル的にはやることをやって死んだのかもしれんが、早すぎる」


 と、杏奈。

 彼女も強がってはいるが、その頬には涙の痕がある。


「杏奈……さん」


 ふと、オリヴィアは杏奈に声をかける。


「どうした?」


「一方的に憎んで、あなたを信じられなくてごめんなさい。わたしが間違っていました」


 そう言われた杏奈は涙目のまま目を丸くし、オリヴィアの方を見た。


「ディレインの町に向かうときにね、パスカルが言っていたの。杏奈は悪い人じゃないし、話せばわかってくれるって」


「……そうだな。この目つきと雰囲気のせいで私は最近怖がられるからな。私はずっと君から恨まれて生きていくと思っていた。大切な母親から引き離したということで、な。君は母親とともに過ごしたかったか? ロムという女と共にいたかったか?」


 杏奈はオリヴィアに尋ねた。


「全然。ロムと一緒にいたときはそれが当たり前なんだと思っていたけど、パスカルがわたしを連れ出してくれたから、そうじゃない世界を見ることができた。パスカルのおかげだよ……」


「そうか。パスカルは確実にかかわる人を救っている。本当に、良い人ほど早死にとは言ったものだ」


 と言って、杏奈は零れ落ちる涙を拭った。


「パスカルのおかげでわたしは杏奈さんへの誤解が解けたの。ありがとうじゃ足りない。それに、わたしは人を助けたい。パスカルみたいに」


 オリヴィアも言う。


「そうか。なら、行動に移さなくてはな。と言いたいところだが、君はもう人を助けている。ネリーだと言ったか。君が来るまでの間、あの子から君の話を聞いた。私にどのような顔を向けようとも君は悪いやつではない。声をかけられる前にもそう確信していた」


 と言ったときの杏奈は、どこか遠くを見ているようだった。喪った親友を想い、彼女の魂の安寧を願っているような。


「望むなら声をかけてくれ。できるかぎりバックアップする」


「ありがとう、杏奈さん。わたし、準備ができたらカナリス・ルートの残りの構成員を討とうと思うの」


 と、オリヴィアは言う。


「杏奈さんが知っているかどうか知らないけど、カナリス・ルートのボスはわたしの父親らしいの。つまり、わたしがこれからやるのは親殺し。杏奈さんは、親殺しを許せる?」


 オリヴィアは杏奈と目を合わせられなかった。彼女はオリヴィアの事情を知ってはいるが、それはオリヴィアとその母親について。父親についてはロムの妨害があって調べることができなかったのだ。

 だが、ここでオリヴィアが自ら父親のことを示唆する。だから杏奈は聞き返す。


「君は父親を憎んでいるのか?」


 これは根本的な問いだったし、杏奈の親殺しに対してのスタンスも示唆していた。杏奈は視線でオリヴィアに返答を求める。


 しばしの沈黙の後、オリヴィアはこう答えた。


「憎んでるよ。だって、ストラウス家と組んでわたしを消そうとした。わたしが生まれた後にわたしを捨てた。どんなにいい事をしていても、わたしは好きになれない」


「そうか。ならば私は否定しない。そこに誤解がないのなら存分にやるといい。が、連中の本拠がわからない以上、どうしようもないな。ひとまずは春月に来るといい」


 と、杏奈。

 思わぬ誘いを受け、オリヴィアは動揺する。が、断ることもなかった。


 パスカルの墓前にいた他の者たちがこの場を去り、墓前にはオリヴィアと杏奈の2人きりになっていた。




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