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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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20 さよなら、私の恩人

 ヴァレリアンに銃口を向けられたパスカル。そんな中でもパスカルは一切怯まず、こう言った。


「その程度で私を屈服させられるとでも思っているの?」


 今、パスカルはイデア能力を封じられている。ヴァレリアンの能力によってだ。


「わかりませんよ。あなたは相当気丈な人でしょうから。本当に、無駄な努力を続けて正論にも耐え続けて。やっていることが倫理的にも社会的にも政治的にも間違いだとわかっているだろうに。とはいえ、その点は尊敬に値します。素晴らしい」


 ヴァレリアンは慇懃無礼な表情、口調でそう言った。直後、ヴァレリアンは引き金を引く。

 だが、パスカルはその動きを読んでいたかのように銃弾を躱し、ヴァレリアンの背後へと回り込んで抱え込み、彼の首を絞める。あまりにも一瞬の出来事でヴァレリアンは目を白黒させたが。


「貴男がまともに話すはずがないでしょうけど、私にも聞きたいことがあるの。あなたが私に、あなた自身を殺すことを禁止していないあたり、禁止させることができないんでしょう?」


 パスカルは言った。するとヴァレリアンは苦笑いし。


「ご名答……万能と思わせといて致命的なんですよ、私の能力は。とはいえ、私にはカバーしてくれる強い部下がいました。ひとえに彼らのおかげですね」


 観念したかのように言う。

 パスカルはそこに一握りの怪しさを感じていた。杏奈をはめ、出会ったときにも不敵な様子を見せていた。


「それなら安心。あなただけは、どうしても葬らなくてはならなかったの」


 と言って、パスカルはその膂力でヴァレリアンを締め落とし。斧を拾ってヴァレリアンの首を落とした。

 何人も殺してきたパスカルの手に、ヴァレリアンを殺した感覚が重くのしかかる。パスカルは眉根を寄せた。


 そんな気分に浸っているときだ。パスカルの背後から1人の暗殺者が忍び寄り。パスカルが後ろを振り向くその瞬間に死角からの一撃を加えた。


「あ……」


 頸動脈が掻き切られる。

 痛みは遅れてやってきた。

 加えて失血で意識がもうろうとする。パスカルは仲間を呼ぼうとしたが、そんなこともできずに意識の糸がぷつりと切れた。


 倒れたパスカルの下に血だまりができる。

 パスカルの顔からは血色が失われ――ほどなくしてパスカルは誰にも看取られることなく絶命する。名もなき暗殺者の凶刃によって。


 パスカル・ディドロ。42歳。崩壊したディサイドの町にて、人生に終止符を打つ。




 ランスが目を覚ました頃、オリヴィアはパスカルの気配の消失を感じ取った。この感覚は自らの手で人を殺したときに気配が消えるときと酷似している。つまり。


「嘘だ……」


 オリヴィアは思わずつぶやいた。あまりに突然のことで動揺していた。

 まさか死ぬはずがないだろうと考えていたパスカルが、死んだ。パスカルたちに逃がされて、必ず合流すると約束したというのにパスカルは――


「オリヴィアは落ち着いていられるか……?」


 ランスはオリヴィアに尋ねた。すると、オリヴィアは首を横に振る。


「あまりに突然でわからない。けど……約束したのに。パスカル……どうしてわたしを置いて逝ってしまうの……?」


 オリヴィアの目ににじむ涙。

 もし彼女がパスカルと旅をしていなければ大切な人の死に対してこのような反応を見せることもなかっただろう。パスカルはオリヴィアが成長するきっかけとなった人物で、恩人。


「誰がパスカルを殺したの? ヴァレリアンとかいう意味の解らない人? それともトイフェル? もしそいつに会ったら……殺してやる」


 涙を流しながらオリヴィアは言う。

 殺意を露わにする彼女だったが、今の彼女はたとえイデア界に到達したイデア使いであっても脆くて危うい。それこそ、支えてやれる人物がいなければ容易く壊れそうである。


 ランスは体を起こし、オリヴィアを抱きしめた。


「そうだよな。気持ちの整理なんてつけられないな……人が誰かの代わりになることはないだろうが、俺がいる……晃真も、リンジーも、エミーリアもヒルダも」


 ランスは兄として、オリヴィアの耳元でそう囁いた。

 優しい口調、伝わる体温。オリヴィアよりも深手を負っていたランスだというのに、彼はオリヴィアに寄り添う。それは兄だから。


「……うん」


 オリヴィアは消え入りそうな声で言った。そして。


「わたし、パスカルに会いに行く。ディレインのノーファクションのところに連れて帰ってあげないと」


 オリヴィアはそう言った。


 ランスは止めなかった。

 今、オリヴィアのやりたいことを止めたところでオリヴィアにとって良いことは起きない。加えて、ノーファクションにパスカルを連れ帰り、弔うことでオリヴィアもそれ以外も気持ちの整理をつけられるだろう。


 オリヴィアとランスはストラウス邸を離れ、パスカルがヴァレリアンと戦い、名もなき兵士に殺された場へと向かう。

 道中、遭遇した兵士はオリヴィアが問答無用で殺害した。少し弁解しようとしても、オリヴィアは殺す。

 だが、ランスは止めることができなかった。ランス自身も同じ状況になれば同じことをするだろうから。


 そうして2人はパスカルの遺体を見つけた。

 パスカルは頸動脈を切られ、失血死していた。彼女を中心として血だまりができている。


 変わり果てたパスカルの姿を見て、オリヴィアは泣き崩れた。


「パスカル!!!」



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