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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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18 君と私の逢瀬

 オリヴィアとランスはこの場を去った。アナベルはにやりと笑い、言う。


「おいで、アポロ。私と殺し愛ながら踊ろう?」


 その声は彼女の能力を示すがごとく、絡みつくようだった。対するアポロは顔を顰める。


「最初からそのつもりだったらしいな」


 アポロは鉄パイプを持ったままアナベルに肉薄。おおよそ打撃武器とは思えない攻撃を繰り出してアナベルの上着を切り裂いた。が、アナベルはそれを想定していたのか、鉄パイプを糸で吊り上げる。


「そうだったんだけどねえ……情報が欲しくもある。君が快楽に喘ぐとき、私が欲しい情報を君も与えてくれる?」


「断る」


 アポロは鉄パイプから手を離し、アナベルに突撃。そんな中でアナベルは恍惚の笑みを浮かべる。


「そんな事言っちゃって……でもイデアは正直だね? 君は私に惹かれているよ、アポロ」


 と、アナベル。

 アポロは自身の能力でアナベルを吹っ飛ばすが――それをトリガーとしてアナベルはアポロの全身に糸を巻き付けて拘束した。


 アナベルは拘束が成功したことを確認するとぺろりと舌なめずりをして。


「君を逃さない」


 狂気と情慾に満ちた顔でアポロを見た。


「お前ごときにやられてたまるか! 俺はまだ、あの人に恩返しできていないのに!」


 拘束されたままアポロは言う。

 どうにかして糸から抜け出そうと藻掻き、能力を糸に使う。だが、彼自身を拘束していた糸は藻掻けば藻掻くほど絡みつき、自由を奪っていく。


 それだけではなかった。

 アナベルの操る糸はなぜかアポロに快楽をもたらす。少しでも気を抜けば、糸のもたらす快楽に屈しそうになるのだ。

 だが、アポロは耐えていた。


「クソっ。ボス……あの人ならどうする! あの人は俺よりも修羅場を潜ってきた……!」


「訂正してくれるかい? 私との戦い(デート)は修羅場じゃなくて至高の瞬間」


 アナベルは言った。


「何が至高だ……お前がオリヴィアを生かさなければカナリス・ルートは今でも存続できたかもしれないというのに」


 アポロが反論すると。


「知っているかい? 死の瞬間の快楽は何物にも代えがたいほどのもの。それこそ、人生最大の快楽だ。私にはね、それを何度も味わわせる手段がある」


「黙れ! お前は何を隠して――」


 アナベルは糸を引き、激昂したアポロの首を切断。彼の頭部は胴体から離れることになったのだが。アナベルが左手の別の糸を引けばアポロの首が強引に接合される。神経も血管も筋肉も皮膚も、すべてが元通りだ。


 アポロは一度絶命したというのに、生きている。その感覚があまりにも気持ち良く、困惑の目でアナベルを見た。


「解るだろう?」


「何をした……!?」


 アポロはアナベルに聞き返す。

 するとアナベルは表情を歪めて語りだす。


「気持ち良いこと。言っただろう、死の瞬間の快楽は何物に代えがたい。私にとってはこの赤い糸で繋がっている限り快楽だけを共有する。やっと出逢えたんだ、この手で殺すことができる強いイデア使い。なら、一度で満足するはずが無いよねえ!」


 アナベルが「赤い糸」と言ったくらいでアポロは左手で指輪を外し、砕いた。


 それは閃光弾だった。

 指輪の金属でコーティングされた閃光弾が炸裂し、光の範囲にあったものがかき消される。それはアポロの体内に入り込んだ糸も同じ。


 アポロは糸から解放され、鉄パイプを右手でキャッチ。さらに光の中でアナベルとの距離を一気に詰めて鉄パイプでアナベルを殴りつけようとする。

 が、アナベルはアポロの気配を感じだったのかするりと避ける。からの、背後に回り込み。


「ふふ……つれないね、アポロ・デュカキス。やっぱり君を選んでよかったよ」


 ねっとりとした声で囁く。


 光が晴れる中で、アナベルは糸を再展開。アポロも矢印のイデアを再展開し、アナベルの展開する糸に力をかけた。これで糸の結界に穴ができた。

 アポロは糸の結界にできた穴からアナベルに突撃。胸部に強烈な鉄パイプの一撃を叩き込んだ。


 アナベルはこれで昏倒する――


「やった……アナベルがああいう人間じゃなければ勝てなかった……」


 と、アポロは呟いた。

 アナベルを斃したのなら、次はランスとオリヴィアだ。カナリス・ルートの存続の危機に陥っていてもその2人を葬らなくてはならなかった。すべては――


「ボス・トイフェルのため。俺は助けられた恩を返さなくてはならないんだ」


 鉄パイプを持つ右手を握り締め、アポロは気配を辿りつつ2人を追おうとした。だが。


 とんでもない殺意、それから溢れ出るアポロではない誰かのリビドー。アポロはそれに恐怖を覚えた。


 アポロの背後ではアナベルが立ち上がっていた。彼女はまだ死んでいない。いや、彼女の心臓は一度止まっているが、その瞬間に仕込まれた糸で心臓マッサージされ、息を吹き返した。

 死に近い状況を経験したアナベルは、ただでさえとんでもなかったイデア能力をさらに覚醒させ。


「ふふ……さすがだ、アポロ。私じゃなかったら君は勝てていた。でもね、こうして命をやり取りする時を、私が簡単に終わらせるとでも?」


 立ち上がったアナベルは開口一番にそう言った。


「俺はそのために生まれたんじゃない」



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