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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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17 最初で最後のターゲット

「やはりあいつは来た。市長もラインハルトも殺して何のつもりかは知らんが、とにかく俺たちの敵だ」


 アポロはストラウス邸の前である人に電話をかけていた。


『そりゃそうだけども……敵だからって無闇に突っ込む気?』


 アポロが電話をかけていた相手はとある女――カナリス・ルートの構成員のひとり、ダフネだった。


「ラインハルト・ストラウスも消えたしストラウス家の兄弟たちもいない。じゃあどうする? 俺がやるしかなかった……」


 と、アポロ。


『最悪な状況だね。それ、オリヴィアを殺したところで好転するの? もう存続の危機ってレベルだよ?』


「しなくともやるさ。ボスには恩がある。今こそ受けた恩を返すときだ」


 と、アポロは言った。

 彼は義理堅い男。幼少期トイフェルに助けられ、それからトイフェルをボスと慕う。その姿勢を生真面目だと笑う者もいるが、アポロは気にしていなかった。


『アポロがそう言うなら止めないけど。何かあれば困るのは私達だからね』


 ダフネがそう言うと、アポロは電話を切った。


 アポロが恩を感じているのはあくまでもトイフェル。ラインハルトではない。だからアポロは、ストラウス邸を見て呟いた。


「こんなところを残しておく義理もない。ストラウスは今日で終わる」


 アポロはバイクの荷台から小型の爆弾を取り出し、ストラウス邸に投げ込んだ。

 直後、ストラウス邸の壁で爆弾は炸裂。ストラウス邸を大破させた。




 ピリピリとした気配が近付いたかと思えば、轟音と振動が響く。爆発物が投げ込まれたことにいち早く気付いたのはアナベルだった。


「凄い威力だねえ……」


 どこか他人事のようにアナベルは言うが、その瞳には殺意と情欲が宿っていた。彼女の隣でオリヴィアも身構え、イデアを展開。床に影を這わせて周囲の様子を探る。そんな中で、オリヴィアは戦いが始まったことを感知する。戦っているのは先程の気配の主とランス。

 この気配を察知し、アナベルはにやつき、オリヴィアは身構えた。


「行かないと……!」


 と、オリヴィア。彼女は走り出し、さらに戦闘が起きている場の影を刃にして敵――アポロに突き刺そうとした。が、アポロは咄嗟にありえない動きで躱した。


「……オリヴィアか」


 空中で呟くアポロ。隙ができたと判断したランスは鉄パイプ片手にアポロへと迫る。


「お前は追い詰められたんだよ。覚悟しときな」


 からのフルスイング。アポロに攻撃は命中したが、その衝撃はすべてランス本人に返ってくる。ランスはその衝撃でよろめき、叩き落されたように地面にぶつかった。

 アポロ・デュカキス。ベクトルを操作するイデア使い。そのイデアのビジョンは矢印の形をとり、ランスを叩き落としたそのときにも矢印は展開されていた。


「今の戦況を見てそう言えるか?」


 と、アポロ。さらにアポロは畳み掛けるようにバールを振り下ろす。


「ぐぅっ……!」


 声を漏らすランス。それもそのはず、アポロの一撃はベクトル操作により大幅に強化されている。胸部に強烈な一撃をくらったランスは昏倒する。


「所詮はこの程度だ。まだ俺たちは追い詰められていない」


 ランスを昏倒させたアポロは影の刃をいなす。使い手のオリヴィアがその場にいないのだから、精度も威力も落ちている。

 アポロは影の刃をいなしながら眉根を寄せた。




 アポロのいる方へ影を伸ばしていたオリヴィアは廊下を走る。影を通じてアポロの能力、強さはそれとなくわかる。


「……ランスが戦っていたのはかなりの強敵だと思う」


 オリヴィアは走りながら言った。


「アポロだろう? 知っているよ……抑えられないよ、この情欲。対面したことはあるけど、そのときにも(たかぶ)った……ぜひ殺し合いたいねぇ……」


「アナベル……?」


 オリヴィアは聞き返す。


「カナリス・ルートを誰一人この手で殺れないのは萎えるからね……せめてアポロは」


 と、アナベルは言った。

 オリヴィアはアナベルの言葉に彼女の本性を垣間見た。アナベル・パロミノの本性は快楽殺人者。オリヴィアに興味を示し、手助けもしたが、その目的はカナリス・ルートという標的を殺すため。さらにアナベルはその構成員も吟味していた。


 殺す候補は何人かいた。

 クロル家当主のモーゼス。

 守護者の異名を持つ昴。

 薬物工場を一任された女帝ロム。

 運び屋のアポロ。


 その4人のうち、他の3人は因縁ある相手がいた。だからアナベルはアポロを選んだ。


「アナベル……? あなたは……」


「さて、殺し合いの始まりだよ♡」


 と言ってアナベルは一足先に、アポロとランスのいる部屋に突入。からの、一瞬にしてアポロに糸を絡ませ。


「捕まえた♡ さあ、ヤろうか。私と君がどちらも昂る(たかぶ)戦いをさぁ……」


 アナベルは言った。


「何のつもりだ、アナベル。取引を持ち掛けてきたと思えば次に会った時は殺し合いだと?」


 アポロは縛られたまま言う。


「私の取引内容からここまで一貫性はあったつもりだけどねえ。気づかないのなら仕方がない」


 と、アナベル。狂人である彼女の狙いなど、アポロには理解できるはずもなかった。だからアポロは言う。


「知らん。ろくでもないことは確かだろう?」


 直後、アナベルの糸は切られ、アポロは脱出する。ここでオリヴィアが影を伸ばして援護に入るが。


「手助けは要らないよ。オリヴィアはランスを救出してここを離れるといい」


 と、アナベル。そう言いながらも彼女は宙吊りにも近い状態でアポロを翻弄していた。


「でも……」


「君がやるべきなのは、仲間を助けること。それに、私の戦いは君にとって少々刺激が強い♡」


 アナベルはそう言って情欲と狂気と殺意を湛えた目を向けた。なぜなのかはオリヴィアにもわからなかったが、本能的にこの場を離れなくてはならないことを察する。

 オリヴィアは倒れたランスを引きずって部屋から出して、彼を抱きかかえる。そうして、離れる。




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