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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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15 恨みを買いすぎた女

 ヴァレリアンが何をしてくるかと、パスカルは身構える。だが、ヴァレリアンはイデアを展開しただけで、仕掛けてきたのは背後の兵士2人。彼らの放つ殺意に気づいたパスカルはすぐさま銃弾を躱し、一瞬にして兵士のもとへ。


「うわ……」

「吸血鬼か!?」


 兵士たちはほぼ同時に言った。その直後、2人は絶命する。パスカルが2人に当たるように斧で薙いだのだ。血濡れの斧を持ち直し、パスカルは視線をヴァレリアンに向けた。


「杏奈からヴァレリアン・ドラガノフのことは聞いていた。嘘をつくのが上手いのね。名乗っている間に撃たせようとしていたんでしょう」


 と、パスカルは言った。

 次に嵌めようとすれば、パスカルは実力行使も辞さない。それを物語るのは目線、血濡れの斧、返り血。優しきダンピールは今、牙を剥いた。


 潜んでいたのは兵士だけではなかった。なんとサーリーがナイフを片手に物陰から飛び出してきた。が、パスカルは冷静に対処する。


「俺だ、パスカル! 味方だ! なぜ俺を、味方を――」


 パスカルはサーリーの腹部に蹴りを入れる。いや、パスカルが蹴りを入れた男はサーリーなどではない。彼の姿を模倣しただけの不届き者にすぎなかった。

 蹴りを入れた後、パスカルは斧をヴァレリアンとサーリーを騙る男に向けて一言。


「ジョン・ドゥ……!」


 彼女の口にした名はヴァレリアンの表情を歪ませることとなった。

 変身する能力を持つ男、ジョン・ドゥ。その素顔も本名も誰も知らないが、パスカルは彼の暗躍を知っていたし聞かされていた。無論、彼が生きていたことも。


「行き場をなくした者を助けたんだ。としては良いことをしたと思うんだよ。そうだろう? 千春」


「ふふ、そうだね。まさか鮮血の夜明団から不要だと判断されてしまうなんて。マルクトは要所だというのに」


 ヴァレリアンが言えば、ジョン・ドゥは千春の姿を取った。彼がそうしたかと思えば、一瞬でパスカルの懐へと飛び込んでくるではないか。

 パスカルは咄嗟に障壁を展開しようとしたが、展開できない。


「言い忘れていたけど、イデアの使用を禁止しておいたよ」


 パスカルとジョン・ドゥの戦いを傍観しながらヴァレリアンは言った。


「そう。ならば私は……」


 ジョン・ドゥの攻撃を斧で受け止め、受け流し。パスカルは斧を捨てた。ヴァレリアンもジョン・ドゥもパスカルの正気を疑ったが、彼らはパスカルが本当に得意とする戦い方を知らなかった。

 パスカルは、仲間を守るため、障壁を扱うために斧を武器としてた。が、彼女が本当に得意とする戦法は素手での殴り合い。エミーリアにも匹敵するパワーファイターである彼女に素手を選ばせることは悪手でしかなかった。


 斧を捨てたパスカル。ジョン・ドゥは薄ら笑いを浮かべて斬りかかるが――パスカルはその斬撃を見切って刀身を蹴り上げる。ジョン・ドゥの手からは刀がするりと抜けて虚空を舞う。そうなればパスカルのもの。彼女はすぐにジョン・ドゥの懐に飛び込んだ。


 ジョン・ドゥは至近距離のパスカルを見て、彼女の戦い方の癖を悟る。


「クソ……どうするんだ、ヴァレリアン! こいつ――」


 ヴァレリアンはジョン・ドゥの声を聞き流すだけ。さらにパスカルはジョン・ドゥの胸部に拳を入れた。それにはとどまらずパスカルは蹴りや拳を叩き込み――ジョン・ドゥはその場に倒れ込んだ。


「どうする?」


 パスカルはヴァレリアンに冷たいまなざしをむける。ヴァレリアンはふっと笑い、イデアを再展開。雪の結晶のビジョンは曇り空から差し込む日差しを受けて美しく輝いていた。


「いやあ、困りました。そういえばダンピールはイデア能力を封じたところで、でしたね。忘れていました。これは……アポロが来るまで粘らなくては」


 と言うと、ヴァレリアンは服の中からナイフを取り出した。先端は鋭く尖り、よく砥がれたそのナイフは暗殺者が使っているようなもの。だが、パスカルはそれも気にせずにヴァレリアンとの距離を詰めた。そうなったと思えば、蹴り。ヴァレリアンは声にならない声を漏らして吹っ飛ぶが、その直後にパスカルの背後に現れた殺気。


「隠すのが下手ね」


 パスカルはそう呟くと視界の端で襲撃者を捉え、肘鉄をくらわせる。その程度では大した打撃にもならないが、パスカルはさらにその身を翻し。襲撃者の顎を粉砕した。

 襲撃者は顎の痛みと頭部への衝撃で昏倒。だが、パスカルに襲い掛かるのはその襲撃者だけにとどまらない。


「ああああああ! 死ね、パスカル! てめえの父親にオレの兄は!」


 と叫びながら襲い掛かる、黒髪の男。兵士ではなさそうな、ディサイドの住人とみられる彼。どうやら黒髪の男は薬物でも摂取しているようで、体の動きもこれまでの襲撃者と一線を画す。

 黒髪の男は鉄パイプを片手にパスカルになぐりかかるが、パスカルは鉄パイプを受け止めた。


「恨まれたものね。吸血鬼の恨みがダンピールに向かうことはよくあることだけど……」


 と言って、パスカルはまたも蹴りを入れる。その一撃は、腹部に入れても衝撃で背骨を粉砕するほど。黒髪の男は立つこともできなくなり、倒れた。


 と、このときにヴァレリアンは立ち上がり、パスカルに銃口を向けた。


「終わりだ、パスカル・ディドロ。君は恨みを買いすぎたんだよ」




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