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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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14 墜落の後

 飛行艇が墜落した。幸い市長の邸宅に直撃こそしなかったが、付近のバラックなどは炎上している。火の手は積みあがる遺体にも引火し、さらに大きなものとなるだろう。

 窓からその様子を見ていたパスカルは絶句した。


「陽葵とレフとの連絡は?」


 パスカルの後ろではミリアムがファビオとリンジーに声をかけていた。


「まだ。生きているといいんだけど……」


 と、リンジーは答えた。


「そうか……陽葵はともかく、レフは……」


 ミリアムはこれ以上言うことをやめた。

 仲間たちの無事を確認する必要もあったが、今はパスカルたちも安全を確保する必要があった。墜落が原因となる火災は市長の邸宅にも無関係ではないのだ。

 パスカルは辺りを確認するついでに上空も見た。先ほどまで空を飛んでいた飛行艇はすべて墜落したのか1機たりとも空を飛んでいない。邸宅を抜け出すならば、今がチャンスだろう。


「無事が確認できないからって、ずっとここに居続けるのは危険ね。ここを放棄したほうがいいかもしれない」


 と、パスカルは言った。

 今、ファビオの治療を受けた晃真はどうにか意識を取り戻して動けるようにはなっていた。オルドリシュカも肉体を再生し、事実上の無傷。他に意識のない、あるいは四肢を失った仲間はいない。

 そのことを考え、ファビオも言った。


「ここを出るなら、今だよ」


 普段は温厚かつ控えめなファビオが提言することは珍しい。が、裏を返せばそれほどの事態だ。だからミリアムは決断する。


「ここを出る。ここを出て、私たちの装甲車までたどり着く。そこで陽乃とゼクスと合流しよう」


 と、ミリアムは言った。


「逃げる当てはあるのね」


 確認するようにパスカルは尋ね、ミリアムは頷いた。


「だったら、途中でオリヴィアを拾っていきたいの。あの子、捨てられることを何よりも恐れているから。克服できても、同じ状況になれば……」


「ああ……」


 ミリアムもオリヴィアのことをある程度はわかっていた。アニムスの町でミリアムがオリヴィアと会ったとき、オリヴィアはパスカルに見捨てられたのではと言っていた。アナベルからもオリヴィアが恐れることについて聞いた。

 オリヴィアのことをわかっていたのはリンジーも同じ。彼女もまた、オリヴィアを迎えに行ってから脱出すると決めており、この瞬間にイデアを町中に展開した。


「オリヴィアはストラウス邸にいる。目的はわからないけど。とにかく、ストラウス邸から離れないように伝えておくから」


 と、リンジーも言う。


 そうして、一行は火の手が回っていない方向から邸宅を脱出する。先頭は不死身のオルドリシュカ。しんがりは戦闘力に自信があり、今は精神的にも余裕のあるミリアム。疲弊したエミーリアや修羅場に慣れていないヒルダは前後から守られるような位置にいた。


 邸宅の裏口から、旧市街地の中心部へ。瓦礫の多い場所には火の手が上がっていないが、数名の兵士やならず者が待ち構えていることが少なくなかった。

 その兵士やならず者たちは、パスカルとオルドリシュカが切り捨てた。

 降りかかる火の粉を払いながら一行は進んだ。見つからないように会話をすることもなく。普段は和気あいあいとしたチームでも、この時ばかりはピリピリとした空気を漂わせていた。


 どれだけ歩いた頃だろうか。ヒルダは強烈なイデア使いの気配を感じ取る。

 それは上にいた。上から、眼鏡をかけた長髪の男が降ってくるではないか。


「来る!!!」


 ヒルダは叫んだ。

 叫べば敵を呼びよせるだろうが、こうする他はなかった。

 ヒルダの声に反応し、いち早く動いたのはパスカル。彼女はダンピールの身体能力を生かして跳びあがり、降ってくる男を斧で弾き飛ばす。


 それと同時に――地面からパスカル以外の仲間に謎のベクトルの力がかけられ。一行は飛ばされて散り散りになった。


 一方の降ってきた男、ヴァレリアン・ドラガノフはがれきに身体をぶつけて地面に叩きつけられる。が、すぐに立ち上がって口の周りについた泥を拭う。


「よくやりましたよ、アポロ。相変わらずフォローが上手い」


 ヴァレリアンは言った。


 一方のパスカルはといえば、すぐにはヴァレリアンに斬りかからなかった。彼が敵か味方かわからなかったからだ。斧を片手に、パスカルはヴァレリアンの出方をうかがっていた。


「あなたは何者なの。ずいぶんとピリピリとしたイデア使いの気配ね」


 と、パスカルは言った。


「申し遅れました。僕は鮮血の夜明団パロ支部の支部長、ヴァレリアン・ドラガノフです。少々この町に用事がありましてね?」


 ヴァレリアンは紳士的に、かつ極力敵意を鞘に納めて名乗る。彼自身は紳士的だが、慇懃無礼な態度に胡散臭さを感じる者も多く、彼への評価は二分する。そんな彼に対し、パスカルはまず胡散臭いという印象を抱いた。


「この町、14年間も復興の兆しが無いでしょう? 私も不思議に思っていたわけです。なぜこの町が不幸しないのか、と。それを調べたいのですよ」


「嘘ね」


 ヴァレリアンのさらなる言葉を受け、パスカルは嘘だと切り捨てた。


「鮮血の夜明団なら復興の支援くらいできるでしょう」


「貴女はそうお考えになるのですね」


 ヴァレリアンは薄ら笑いをうかべ、そう言った。

 と同時に、パスカルの背後から発砲。パスカルは破裂音に反応し、すぐさま背後に障壁を展開して銃弾を防いだ。


「今の銃撃との関係は?」


 パスカルは表情をより険しくし、尋ねる。


「ああ、勘がいいな。貴女に嘘をつくことは諦めた方がいいということか」


 と言うと、ヴァレリアンは雪の結晶の形状をしたイデアを展開した。



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