13 祖父殺し
ランスがドアを蹴破り、3人はストラウス邸になだれ込む。当然、中では警備員が待ち構えており、銃口を向けた。が、銃よりイデアは速い。銃弾が放たれるよりも前に、床から影の刃が警備員を串刺しにした。
「くそ! お前たちは――」
と言って、銃弾を放つ者もいた。だが、そうなればランスが能力を使い。銃弾を曲げた。からの、オリヴィアの影の刃。
ストラウス邸の廊下は血の海となった。そんな地獄絵図を見てもオリヴィアとアナベルは動じない。
「先に進もう。わたしは大丈夫だから」
オリヴィアは振り返りつつ言った。警備員たちの返り血を浴びたオリヴィアからはどこか危うさも感じる。彼女を見ながら、ランスは妹の精神的な変化を肌で感じていた。一方で、アナベルという女からは危険な雰囲気を感じ取っていた。なぜオリヴィアはアナベルとかかわっているのか、それもわからなかった。
ストラウス邸の内部はよくある豪邸のようだった。いくつも部屋があり、ところどころに書斎やウォークインクローゼットのようなものがあった。もしオリヴィアがストラウス家に認められた人物であればこのような形でなくとも訪れることはあっただろう。だが、人生にIfは存在しない。
一行は人の気配を探りつつ、ストラウス家の者が現れれば容赦なく殺し。やがて一行は当主ラインハルト・ストラウスの待つ執務室に到着する。
オリヴィアはドアを開けた。
「あなたがラインハルト・ストラウスとかいういけすかない男?」
オリヴィアは実の祖父に対し、敵意をちらつかせながら尋ねた。イデアを展開し、当主ラインハルトを威嚇していたが、当のラインハルトは一切気づいていない。
「何の真似だ……私に金髪の娘も孫もおらん」
「気づいているんでしょ。否定しているはずの金髪の娘があなたの孫を名乗って殺しに来るんだからね」
と、オリヴィアは言った。
彼女の言う通り、ラインハルトはオリヴィアの正体に気づいていた。吸血鬼と化して切り捨て、感動した娘の産んだ娘。吸血鬼の血を引いた、ストラウス家にとっては忌むべき娘。それがオリヴィア。
そんな孫の存在を知っていながら、ダンピールということでずっと認知していなかったラインハルト。18年も経った頃に認知することを拒んだ孫が殺しに来た。
「そうか、イザークもカテリーナもお前を消せなかったか」
金髪の孫の姿を見てラインハルトは言って、銀のボルトを装填したクロスボウをオリヴィアに向けた。
「あなたがわたしを殺そうとしていたのね。襲撃者がいたけど、あなたが。やっぱりあなたは殺しておくべき」
クロスボウを向けられてもオリヴィアは言う。彼女はもはや、ラインハルトを格下の相手としか見ていない。だが、ラインハルトはクロスボウのボルトを放つ。
オリヴィアの腹にボルトが突き刺さるが、それと同時にラインハルトの首が切断された。首が胴体から離れるその瞬間、ラインハルトは理解できていないような表情を見せ。オリヴィアには祖父の絶命する瞬間が滑稽に映った。
ラインハルトの首は部屋に敷かれたカーペットにごとりと転がった。
切断された首と胴体を見て、ランスは息をのむ。一方のアナベルは笑みを浮かべて言う。
「いやあ、さすがオリヴィア。肉親でも容赦なく殺せるなんてね」
「ここに来るまで知らなかったけどね。私の肉親って、ランス以外はろくでもない人ばかりなんだね」
と、オリヴィアは言った。
「俺がまともな側でよかった。さて、ストラウス邸で知るべきことはオリヴィアについて、それから……なぜディサイドの町の復興が遅れているか、だ」
「うん」
「書斎と執務室で手分けしよう。全員、警備員程度には勝てるはずだ」
ランスはそう提案し、一行はストラウス邸の書斎や執務室、その他の隠し倉庫から情報を得ることにした。
オリヴィアは執務室に残り、アナベルとランスはそれ以外の場所を探る。
執務室でまず目立ったのは、ラインハルトが使っていた机の上に置かれた文書。オリヴィアは手に取って目を通す。
それはごく普通の契約書のようなものでもあったが、どこか違和感があった。取引の商品がすべてディサイドで生産されていたかのように書かれている。ディサイドの町に工場や農場の類はほとんどなく、もはやスラムである。その町の状況を踏まえ、オリヴィアはとんでもない答えを想像する。
ストラウス家は人身売買をしていたのではないか。
オリヴィアは机の横のキャビネットの引き出しを、手あたり次第漁り始めた。恐らくここにあるのはストラウス家に残された情報の中でも新しい部類の情報だろう。
キャビネットから見つかったのは直近4か月の取引記録、報酬受け取り記録、吸血鬼討伐記録など。その中にはカナリス・ルートや九頭竜の企業など、オリヴィアにも見慣れた名前があった。もちろん鮮血の夜明団の書類だってあった。会長シオンからの手紙もあった。手紙の内容は、出資金に関してのもの。鮮血の夜明団との関係が良かったとはいいがたい。
「新しいだけあって、わかるにはわかるけど……」
オリヴィアは呟いた。彼女は直接かかわった件こそ理解したが、そうでないことはわからなかった。
この場にキルスティがいればどれだけわかっただろうか。




