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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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9 狂気の地

 この太刀筋、エミーリアはどこかで見たことがあった。

 それはオリヴィアに同行した中で見たものではなく、記憶の片隅に押しやってしまった過去のもの。エミーリアもずっと忘れていることがあったが――


 ミリアム・クロル。

 ミラン・クロル。

 どちらの名前であってもエミーリアの古い友人だった。一度会ったことがあるというのにエミーリアは今の今まで思い出すことができなかった。


「ミリアム……」


「人を殺しすぎるのは辛いだろう。わかるぞ。こちらの心を閉ざさなければやっていけない。正義感なんていうイカれた感情で正当化するかしないとな」


 ミリアムは剣についた血を振り払ってそう言った。

 そんな2人の空間にも邪魔者は入り込んでくる。ここは戦場だ。兵士の数を減らしているとはいえまだ100をこえる兵士たちがここにいる。大惨事になることは間違いない。


 ミリアムは剣を持ち直し、もういちど兵士に斬りかかる。1人、首珠の入ったヘルメットがごとりと地面に落ちる。2人、ミリアムの突きが兵士の心臓を突き破る。3人、兵士の胴体が両断される――

 彼女もまた虐殺をせざるをえなかった。


「あんたも辛かろう。ミランなんて人格を作って。それは殺しが由来か、知ったことじゃないがね」


 エミーリアも虐殺に加わった。

 1人から2人になり、屍の山が築かれる速度は2倍になった。


 同じ頃の室内、晃真もまた兵士を相手にしていた。

 彼の近くには兵士の焼死体がいくつも転がっていた。

 熱の剣を手にして、突入してくる兵士を斬り殺す。あるいは焼き殺す。それでも晃真は弾丸を何発か受けていた。痛みはある。が、それ以上にこの場所を守らなくてはならない。突破されれば晃真もパスカルもエミーリアもヒルダも包囲されて殺される。


「きりがない!」


 発砲する兵士。熱の壁で弾丸を融かす晃真。と、そのときだ。晃真の太腿を1発の流れ弾が貫いた。

 方向は後ろ――パスカルの側からだった。


 痛みと血の流れる感覚。晃真は熱の塊を傷口に展開し、強引に焼いて傷口を塞ぐ。そのときの痛みで表情が歪み、隙ができ。また一発。


「晃真ぁー!!!」


 ヒルダの悲鳴。

 連射される弾丸に貫かれる晃真。晃真はそのまま仰向けに倒れ、晃真の守っていた場所は突破された。かに見えた。


「あと少し早ければ!」

「おい! こっちにはファビオがいんだぞ! 勝手に晃真を死んだことにすんなよ!」

「まあまあ、落ち着いてくれ。確かにまずい状況だが」


 兵士たちの後ろ側に現れる増援3人。リンジーにオルドリシュカ、ファビオの3人だった。うち、リンジーとオルドリシュカは返り血を浴びており、オルドリシュカの持つ剣には血がついている。


「じゃ、頼んだよ。ファビオ。あんたがいなきゃ、晃真が死んでしまうから」


 と言って、リンジーは荊のイデアを展開。辺りの兵士たちをまとめて拘束。広範囲にいた兵士を無力化した。その直後、ファビオが晃真に駆け寄り。


「まだ生きている! 回復させるから兵士が近づかないようにしてくれ!」


 と言うと、ファビオはイデアを展開。宗教で言われるような神々しい異形のビジョンが現れた。これは御使い、あるいは奇跡の化身。ひさびさに使う力で、晃真の傷を治していく。

 出血が収まった。

 傷が塞がった。

 火傷が治った。

 晃真の体内の血液が致死的でないほどまで回復した。


「……ひとまずはこれでいい。あとはこの部屋を守り抜くだけだ。ストラウス家のことは、きっとゼクスとシーラと陽乃がやってくれるはずだ」


 と、ファビオは言う。


「了解。あんたも頼もしいね。あたしはこうして全方向の敵を拘束してじわじわ消していくんだけど……」

「リンジー! 上から!」


 その声はヒルダ。彼女は上からの敵にむけて発砲。イデアの弾丸はリンジーたちを避けて上空から降下する敵へと吸い寄せられる。


「効かないねェ! そんな豆鉄砲でこのあたしをどうするってかァ!?」


 降下してきたのはチェーンソーを持った女。そんな彼女はすでにイデアを展開していた。彼女のイデアはそのチェーンソー。凄まじい圧を放っており、一目で強者とわかるほどだった。

 彼女はカテリーナ・ストラウス。ストラウス家長女にして、兄弟姉妹の中で最も吸血鬼を殺した女。


「ふん、ストラウスの長女だか知らないけどね。あーしを殺せると思うなよ。この戦いは生きてた方が勝ちだからな」


 オルドリシュカは言った。


「吸血鬼理論で行くとお前の全身は刻み放題ってわけだなァ!? 最高の相手だ!」


 カテリーナは着地したかと思えばすぐにパラシュートをチェーンソーで切り刻み、オルドリシュカへと斬りかかる。オルドリシュカは躱した。チェーンソーを剣で受けるのは悪手。そう判断したのだが――カテリーナはオルドリシュカの想像よりも速い。次の斬撃に移り。


「ああっ!?」


 オルドリシュカの腕が飛んだ。

 予想外の速度で斬り込んだカテリーナは剣を握っていた右腕を狙った。結果、剣と腕はオルドリシュカの身体を離れて宙を舞った。さらにカテリーナはオルドリシュカに斬り込み、彼女を縦に真っ二つにした。


「オルドリシュカ!!!」


 叫ぶリンジー。

 カテリーナの口角が上がる。さらに彼女は次の狙いをリンジーに定め。


「いい光景だろう? 斬られた四肢に兵士たちの屍。そこにお前らの屍も加わるわけだ」


 と、カテリーナ。

 その表情は絶望感を煽るものだった。が、リンジーが兵士を制圧した今、カテリーナに太刀打ちできる者3人の手が空いた。



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