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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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8 死の時間

「パスカルか? 私だ。たった今ストラウスの最高傑作とかいうやつを捕獲した。どうすりゃいい?」


 地下の空洞でエレナはパスカルに電話をかけていた。その傍らにはワイヤーで拘束されたイザークがおり、抵抗をしようにもできない状況。


『そうね。こちらに連れて来られると万一のことがあったら困るから……その場で待機してもらえると助かる。こっちも突破されそう――』


 ぷつりと電話が切れる。

 恐らく地上では何かが起きる。パスカルはこれから戦いに巻き込まれるだろう。エレナはここでイザークを拘束できたものの、いつイザークの援護に誰か来るのかもわからない。

 この不透明な状況はエレナを苛立たせた。


「おい、イザーク・ストラウス。お前らは7人兄弟だろ?」


 エレナは八つ当たりするように、だが八つ当たりにしては紳士的にイザークに問いかけた。


「……どうやって調べたのかは知らないが、昔はそうだった。今は違う。お前は、裏切り者アンジェラ・ストラウスを我らと同等とするのか?」


「知らねえよ、アンジェラとかいう吸血鬼なんざ。私は新時代側の人間だぜ。旧時代の話をしてんじゃねえ」


 吐き捨てるように言うエレナ。

 彼女はアンジェラを知らないと言ったが、それは正確には本当ではない。アンジェラはオリヴィアの母。生前の話は調べて出てきた程度でも、オリヴィアを通じてわかるものがある。そう簡単に言葉にできるようなものではないが。


「そうか。あくまでも無関係を装う。これは憶測だが、お前はオリヴィアの……オリヴィアのナニだ?」


 と、イザーク。


「親友だ。一緒に紅茶を飲んで可愛い服で着飾って、命を救いに来ようと思えるくらいの仲だ」




 イデア使いの兵士が次々と飛行艇から降下する。彼らの狙いはパスカルたち。降下して準備を整えると玄関から、そして窓から市長の邸宅へと突入する。


「数的不利ね……幸いなのは侵入ルートが限られていること! エミーリアは玄関を、晃真は反対側のドアをお願い! ヒルダは私と一緒に!」


 パスカルは叫ぶ。

 彼女の言った通りに他3人は動き、それぞれの侵入方向へ。


 間もなく兵士は市長の邸宅に突入。まず最初に突入したのは、パスカルの正面。すかさずパスカルは斧を振るい、兵士を攻撃。防刃ジャケットをも突き破り、斧の刃は兵士の心臓を止めた。

 だが、他の兵士がパスカルに向かって発砲。するとパスカルはイデアの壁を展開した。銃弾はすべて防がれ。パスカルは隙を伺って兵士に肉薄し――斧で薙ぎ払う。兵士の頭がヘルメットごと胴体から取れた。

 その後にまた銃撃。パスカルは障壁を再展開。


「こうなりたくなかったら攻撃をやめて。命がもったいないじゃない」


 パスカルは壁越しに言った。

 彼女は相手が人間であることを忘れていないからこそその言葉が言えた。


 だが、動揺しつつも兵士たちは叫びながらパスカルに突撃してくる。まるで自分が死ぬことが前提、刺し違えるために攻撃を仕掛けているよう。

 応戦するしかない。

 パスカルは近付く兵士たちを斧で薙ぎ払い、首を落とし、心臓を止めていった。傍らのヒルダもそのイデアの凶弾で何人もの命を奪った。


 一方の玄関付近。

 エミーリアはすでに10人は撲殺していた。玄関を蹴破って来た者を手始めに殴り殺し、遺体を外に投げ捨てた。一方で撃ち込まれる弾丸は――エミーリアには全くと言っていいほど効いていなかった。彼女は鉄でできた風船のようだった。


「ったく、わざわざ死にに来るのもどうかと思うんだがねえ」


 エミーリアは11人目を撲殺するとそう言った。

 彼女は返り血を浴び、周囲に遺体が増えるほど強くなる。それが、彼女が自身の能力を嫌っていた理由だ。


「あ……悪魔か。素手でここまで」


「素手ならいい! 俺に任せろ!」


 やや後方にいた兵士がイデアを展開。東洋龍のビジョンが現れてエミーリアに襲い掛かるが、エミーリアは東洋龍を払いのけ。その隙を突いてきた者全員を殴り殺した。


「素手なら、なんだって? あんたらの突撃が無謀だったこと、わかっただろうに。そうやって命を無駄遣いするような真似はやめな。投降してくれるなら――」


 エミーリアは兵士の1人と目が合った。

 その兵士は目が血走っていた。興奮した様子はこの戦場ではありえないことではないが、エミーリアはそこから異質さを感じ取った。いや、この異質さはイデア覚醒薬『Gift』の中毒者に似ている。


「ああ、そういうことかい。あんたら、全員薬中だろ。しかも、よりによって『Gift』なんていう破滅への片道切符。不憫なこった」


 半ば同情しながらエミーリアは兵士たちを迎え撃った。迎え撃つごとに強くなるエミーリアに、恐怖の感情を薬物で飛ばした兵士たち。エミーリアと兵士たちの間には埋められない力の差があった。


「……これじゃあ虐殺だ。助けてくれ。殺されなくとも心が死にそうだ」


 と呟き、またひとり殺す。

 そんなときだ。一閃が兵士たちを薙いだのは。直後、彼らのいた場所が血に染まり、5名ほどの兵士が絶命する。


「助けに来た。とんでもない包囲網だな」



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