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2 君を迎えに来た

「……よくわからないけれど、殺した相手がまずかった?」


 オリヴィアは呟いた。

 今の彼女は至極冷静だった。彼女を取り囲むように群がるギャングを目の前にして、イデアを展開する。考えたことはただ一つ、全員殺すこと。


「俺の組のモンに何をしてくれた」


 ギャングの男の声が聞こえる。


「手を出したのはそちらからでは。もう、聞いてられない」


 オリヴィアはそう言って、イデアの展開範囲を広げた。彼女を中心にして広がる黒い影と、そこから伸びる手。真っ黒な手は群がる男たちをとらえては彼らを死体に変えてゆく。自分だけは死なない、と思いあがった者から殺されてゆく。

 だが、その者たちの中には黒い手に捕まらない者だっていた。


 乱入してきた男はオリヴィアの操る手をすべて見切っているようだった。それらをすべて、レイピアでいなしている。彼はオリヴィアの相手をすると同時にギャングの男に深手を負わせていたのだ。彼女から見ても、只者ではない。


 ――何、この人は。ギャングでもないようだけど、どうしてここに!? まあ、そんなことをしていたら死ぬけどね。


「うおっ、あぶねえ! 捕まるところだったぜ!」


 男はレイピアを黒い手に突き刺し、その場から数歩後ろに下がる。彼がいたところを掠めるオリヴィアの手。オリヴィアは不愉快そうな顔をして、その八つ当たりをするかのように黒い手――それも人間くらいは簡単に押しつぶしてしまえるような手を作り出す。そして、その手で数名のギャングの男たちを押しつぶす。


「うわぁ……容赦ねえな……」


 乱入してきた灰色の髪の男は呟いた。


「そうやって喋っている余裕があるのも今のうち。今度はあなたがターゲットだから」


 この言葉はオリヴィアにとって死刑宣告のようなものだった。

 これまで、彼女に殺せない者はいなかった。彼女の能力そのものも強力だったが、なにより殺してきた相手が「イデア使いではない」ことが大きい。


「待て待て、俺はお前の命を狙いに来たんじゃない! お前を迎えに――」


「そうやって言い訳ばかりするんだぁ。迎えに来る人なんていないって、ロム姉が言ってた」


 オリヴィアがそう言った瞬間、彼女のイデアは乱入した男に狙いを定めた。


「ああ……過去に何があったか知らねえが、俺の言うことは本当だ。信じてくれよォ」


 そう言いながら、男はレイピアで迫りくる手を薙ぎ払う。細身の剣であるはずなのに、彼が扱えば相当な重量物を振り回しているようになる。オリヴィアは一瞬、困惑した。

 そんなとき。


「代わるよ、ランス。ここは私に任せて」


 オリヴィアと乱入した男――ランスの耳に入る女の声。ランスはオリヴィアのリーチの外に出て。


「了解だ。お前ならその子と向き合えるだろうからよ」


「全く……ランス、しっかりしなさい。確かに私ならやれるけれど」


 赤髪の女だった。

 だが、彼女はオリヴィアの前には現れない。じれったくなったオリヴィアは再びランスに向けて黒い手を伸ばす。昼間こそリーチが限られるが、夜になれば、条件付きでその10倍以上のリーチを得ることができる。

 そうやってランスを殺そうと試みたが――黒い手ははじかれる。まるで見えない壁に遮られたようだった。


「ねえ、オリヴィア。騒ぎは見ていたけれど、あなたの言うロムって人が気になってね」


 赤髪の女がいたのは上。空中の、本来ならば人が立てるはずもない場所に立っていた。


「私の恩人だけど、ロム姉がどうしたの? そもそもあなたみたいな人は知らない」


 オリヴィアは言った。

 彼女の周りに展開されたイデアは、今度は赤髪の女を狙う。


「でしょうね。私だってあなたのことをロムに教えてもらった。今のあなたについては、とある悪徳占い師から。私はパスカル・ディドロ。ダンピールを保護している」


 パスカルはそう名乗り、オリヴィアの伸ばした黒い手を見えない壁ではじいた。


「それと、もう一つ。あなたがやりたいことを聞いておきたかった。そのことによっては手を貸せるかもしれない」


 微笑むパスカル。できるだけ、オリヴィアの殺意と敵対心を和らげようとしている。


「それは……ロム姉を探すこと。もし協力できないなら、今度こそあなたも水色の男も殺すから」


 と、オリヴィアは言った。

 パスカルから見てみれば、先ほどよりは落ち着いたようにも見えた。が、オリヴィアは相変わらず人を殺す人間の顔をしている。


「わかった、あなたに手を貸す。まだ警戒しているようだけど、大丈夫。悪いようにはしないから」


 と、パスカルは言った。

 すると、オリヴィアは渋々イデアの展開を解いた。それでもオリヴィアが警戒心をなくしたようには見えなかったが。


「さて、ランス。仮拠点に行こうか。ヒルダを待たせてる」


「あー、はいはい。俺が運転するんだからな」


 ランスは言う。

 3人は辺りを警戒しながら一つ先の通りへと歩いて行った。町のギャングたちは先ほどのオリヴィアたちの立ち回りに恐れをなしたのか、近寄ってくる気配がない。


「……弱そうな相手ばかりを狙って話しかけたりするんだよね。そうした人は殺しちゃったけど」


 オリヴィアはぼそりと言った。



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