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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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5 ストラウスの最高傑作

 辺りは包囲されている。オリヴィアたちのいる部屋は押さえてあるが、外にはまだ加勢できる者たちがいる。

 ふと、オリヴィアが目をやってみればアーネストの携帯端末が転がっていた。画面は通話中であることを示すような状態。オリヴィアはアーネストの携帯端末をを拾い上げ、電話が切れていないことを確認する。


「お電話代わりました。市長代理です」


 と、オリヴィアはアーネストの代理を騙って相手の動向を探る。


『違うな。お前は誰だ。市長の身に何があった』


 電話口の相手はすぐにオリヴィアを疑った。無理はない。オリヴィアが勝手にアーネストの端末を奪い取って電話を代わったのだ。


「そんなことよりも……当主を出して。ストラウス家なんでしょ?」


 オリヴィアはアーネストの言葉からほぼ確信していた。

 言葉を聞くまでもなかったかもしれない。市長とはいえ、ディサイドの町にかかわる以上ストラウス家とのつながりは避けては通れない。


『出せるものか。うちの最高傑作がお前を消しに向かった。要求したければそいつに勝ってからすることだな。あいつは完璧だ』


 と言って、アーネストの電話の相手は電話を切った。

 オリヴィアには意図が読めなかった。敵対している相手であればわざわざ情報を渡す必要もない。

 オリヴィアは嫌な予感がした。


「オリヴィア。今どうなっているの?」


 パスカルは尋ねる。


「真偽はわからないけど、ストラウス家の誰かが来るみたい。どこから来るかはわからないけど……多分、わたしを消しに来る。たぶんわたしはストラウス家にとって不都合な人間なんだと思うから」


 オリヴィアは答えた。


「だから、バリアを一旦とって。ここにいる敵を始末するから。わたしにはこうするしかできない……」


 と、オリヴィアは続ける。

 どれだけ穏便に済ませようとしても、相手方に敵意や殺意があるのなら意味はない。オリヴィアもパスカルもエミーリアもわかっていた。

 だからパスカルは唇を強く噛み、障壁の展開をやめる。


 なだれ込んでくるイデア使いたち。

 オリヴィアはすぐさま影を展開し、イデア使いたちを攻撃。加減しながら的確に相手を無力化していく。これはオリヴィア一行の現状を打破する一歩になりそうだったが――


「上から……!? まさか空挺兵!?」


 空から降下する物体。ヒルダは物体の中からイデア使いの気配を感じていた。

 直後、物体から人が現れたと思えば窓ガラスを割って部屋に入って来た。


 その人物は黒紫色の髪に淡い青の瞳が特徴的な、長剣を持った青年。その肉体は鍛え抜かれ、身長は晃真やエミーリアをゆうに上回る185センチ前後だろうか。威圧感こそ与えるが、青年はどこかオリヴィアに似ていた。


「見つけたぞ、オリヴィア・カナリス。お前だけはどうしても消さなくてはならない」


 青年――イザーク・ストラウスは言った。


「早かったのね。前のわたしなら消されてあげたけど、今は消されたりしない」


 と言ってオリヴィアはイデアを展開。イザークに対して先手を取ろうとした。

 イザークもオリヴィアに好きにさせるつもりはなかった。服の中から炸裂弾を取り出して、空中に放る。光ですべてのイデアがかき消される。

 その直後だ。イザークはオリヴィアとの距離を詰めて長剣を振るう。が、その一閃は阻まれることとなる。


 長剣の一撃を阻んだのはパスカルの障壁ではない。

 だが、パスカルはオリヴィアの前にいる。彼女は斧で長剣の斬撃を受け止め、叫ぶ。


「逃げなさい! この人の狙いは貴女! 倒すことばかりを考えないで!」


 オリヴィアははっとする。

 オリヴィアは強い力を得たばかりに戦うことばかりを考えていた。が、何も倒すことが戦いを終わらせることではない。そして、オリヴィアも仲間が4人いる室内で戦うことが難しいと感じていた。


 光が晴れる前にオリヴィアは走り出す。

 地下に入ろう。邸宅全体にイデアを展開していたときにその造りも、地下への入り口があることも確認済み。オリヴィアは地下の入口へと急いだ。


 地下への入り口はあっさりと見つかった。

 オリヴィアは階段を駆け下り、さらにその先へ。ある人からの情報が正しければアーネストの邸宅の地下室は地下道につながっている。


 地下室の最奥部には施錠された扉があった。鍵の在処などオリヴィアにはわかるはずもないが、オリヴィアは影のイデアを展開。扉に影で触れると、扉は脆い材質へと変わる。すかさず影の刃で切り裂いて先へ進む。




「そこをどくんだ。ターゲット以外を無暗に殺したくない」


 と、イザークは言った。

 アーネストの部屋にてパスカルはイザークの前に立ちはだかる。イザークもまたイデアを展開し、その見た目は太陽の光を弱くしたもの。ストラウス家の最高傑作を表しているかのよう。


「どうしてそんな事を言えるの。あの飛行艇から降下しておいて」


 と、パスカル。


「さあな。市長たちの思惑なんて俺には知ったことじゃない。包囲している勢力が一枚岩だとは思わないことだ」


「そういうこと……でも通すわけには――」


 と、パスカルが言ったとき、イザークは剣でパスカルを押しのけて強引に押し通る。そのまま部屋を出てオリヴィアを追いかけた。



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