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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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4 アーネストの策略

 オリヴィアは一目見ただけでアーネストが危険だと見抜くことはできなかった。

 これまでオリヴィアは周りの危険人物をある程度は見抜いてきた。その危険人物のほとんどがイデア使い。手口は様々だが、イデア使いの気配を察知することでオリヴィアはある程度は警戒できていた。


 だが、アーネストは違う。アーネストはイデア使いではない。特有の気配が全くないのだから、間違いないだろう。

 オリヴィアはアーネストに気づかれないと踏んで自身とアーネスト以外の4人が見えるように文字を形作った。


 ――アーネスト市長は危険。


 一歩間違えばばれかねない。これはある意味で賭けだった。


「――というわけだ。ま、ストラウス家の介入がなければ今頃は少し前のマルクト区のようなアウトローが跋扈する土地になっていただろう。その点ではストラウス家の決断も間違いではないと思う」


 と、アーネスト。


「一理あるねえ。復興を遅らせてでもそういった危険な勢力の侵入を防ぎたい。間違った感覚じゃないさ。危険な勢力に侵入をされては相当困る理由があるんだろうねえ」


 そう言って鎌をかけたのはエミーリア。

 そのときだ。エミーリアの首筋に刃が突き付けられる。正面にいた晃真はその者の姿を直視することになるのだが。


 エミーリアの首筋に刃を突き付けた者はソノラだった。

 ソノラはオリヴィア一行の他の4人に冷徹な視線を向けると口を開いた。


「どうか動かないでください。動けば死にます。イデアを使っても死にます。声を使っても死にます。さて、市長。ストラウス当主にご連絡を。彼女たちのような実力者を長時間足止めすることはできません」


 先手を打たれた。

 これも仕方ないことだろう。歓迎こそされていたが、アーネストからの招待は罠だった。


「わかっている。じきにここも包囲されるはずだ。それまでにやってしまおう」


 と言って、アーネストは携帯端末を取り出して電話をかける。その相手はストラウス家の者だった。


 この様子を見たオリヴィアは、自分がストラウス家から歓迎されていないことを悟る。どころか、ストラウス家にとっては邪魔者、消すべき存在なのだろう。


 オリヴィアは市長に手を出す覚悟を決めた。

 次の瞬間、部屋の中が凄まじいイデアに包まれた。超高密度のイデアが展開されたことで、防ぐすべを持たないアーネストとソノラは威圧される。


「2人を制圧する! キルスティならそうするはず!」


 と、オリヴィア。

 彼女の案に最初に乗ったのはエミーリア。すぐさまソノラの腕を振りほどき、反対に地面に押し倒して馬のりになり、両手を床に抑えつけた。


 オリヴィアもアーネストに向かって影の手を伸ばし、拘束。さらに彼の両脚の骨を脆くつくりかえて立てなくした。


 制圧完了、ではない。

 濃密なイデアの中で感覚が鈍る中、ヒルダはイデア使い数名の気配を察知。すぐさま部屋の入口に銃口を向けてトリガーを引く。

 ばらまかれる弾丸。これが加勢に来たイデア使いの有効打になったかどうかはわからないが、少なくとも威嚇射撃にはなった。


「来る!」


 と、ヒルダ。

 すると、パスカルは入り口に障壁を貼った。加勢に来た者たちは全員、壁に阻まれてはいってくることはできない。

 こうしてオリヴィア一行はアーネストの邸宅の一室に立てこもることとなる――


「状況を整理するかねえ。私らは市長との会談中に毒を盛られて殺されかけた。が、なんとか返り討ちにして、加勢に来た連中はここに入ってこられない」


 エミーリアは言った。


「間違いないな……ということは、俺達は意図せず立てこもり事件を起こしてしまったということになるのか……」


 晃真は自分たちのしていることに気づく。

 手を出してきたのはアーネストたちだが、オリヴィアたちがしていることはほとんど犯罪。


「状況を説明したところで私たちの言い分は通らないはずね。ダンピールがどう扱われているかを知っていれば考えなくてもわかる。ねえ、市長様?」


 と、パスカルは言った。


「その通りだ。私はディサイドの市長……事実はどうとでも変えられる。僕のバックには九頭竜もついている。私がこういう状況でも、身の安全を心配するのは君たちの方だよ」


 オリヴィアに拘束されたままのアーネストは言う。

 だが、相手が悪かった。拘束しているのはオリヴィア。彼女は慈悲を覚えたとはいえ、人を殺せる人間だ。オリヴィアは無言、無表情のまま影でアーネストを背中から刺した。


「お、オリヴィア!? 貴女なんてことを!」


「死んではないよ。少し失血で倒れてもらうだけ。ヒルダは外の様子を見て」


 パスカルが声をかければ、オリヴィアは答える。

 さらにヒルダは外の様子を見た。


 アーネストの邸宅の外には武装した兵士たちがいる。服装から民間の軍事会社の兵士だろう。さらに空には飛行艇も見える。

 アーネストの言っていたとおり、この邸宅は包囲されていた。外に出るには包囲網を突破する必要がある。


「どうしよう……オリヴィアでもこれだけ囲まれてて突破できるのかなあ」


 ヒルダは言った。


「わからない。でも、突破しないことには始まらないと思う」


 と、オリヴィア。

 包囲した兵士の数はシンラクロスで戦った時以上。加えて空にも気を配らなければならない。恐らく簡単にことは進まないだろう。



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