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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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3 アーネスト市長

 ディサイドの町。

 ここは14年前から荒廃している。瓦礫は未だ片付かず、瓦礫の間に貧しい人々が暮らしている。かつてレムリアの経済の中心だった面影はない。


 そんな瓦礫まみれのディサイドの町にオリヴィア一行はたどり着く。交通網からも切り離された町にたどり着く頃には4日経っていた。


 まずオリヴィアが見たのはあの日から少しだけ変わったディサイドの南東。瓦礫の隣には簡素な家が建てられている。


「ここが大都市だったなんて信じられない」


 今のディサイドの町を見てオリヴィアは呟いた。


「そうね。でも昔は本当に凄い町だったの」


 と、パスカル。


「信じられない……」


 と、オリヴィア。

 晃真もかつてのディサイドの姿を知らない。西レムリアのことを考えるようになったのは、ディサイドの町が崩壊した後だったのだ。


 一行はそんな崩壊した町の一角、市長の住む邸宅へと向かった。ディサイドの町に来る道中、クロックワイズの町で市長の邸宅へ招待するメッセージと手紙を受け取ったのだ。


 崩壊したディサイドの町を歩く中、オリヴィアの頬を秋の風が撫でた。


「そういえばもう9月も終わりの方だもんね」


 オリヴィアは呟いた。

 少し前まで常夏のテンプルズの町にいたから気づかなかった。


「確かにねえ。ま、そんなことはさておき、行こうか」


 と、エミーリアは言う。

 一行は目的地まで再び歩き始める。

 歓迎されるか、罠か、あるいは――

 これからのことなど、一行にはわからない。できることは備えることだけ。幸い、今の一行は以前より強くなっていた。




 歩いていると目的地にたどり着いた。

 瓦礫だらけの町ではあったが、この近く――ディサイドの町の中央付近に限っては瓦礫が撤去されて整備が行き届いている。さらに、町によくいた物乞いもいない。ディサイドの町では珍しい場所。

 市長の邸宅は煉瓦造りの小ぎれいな建物だった。近くには花も植えられ、少し遠くを見れば目に入る瓦礫に目をつぶれば他の町にあるものと変わりない。が、この見た目に嫌悪感を覚えた者がひとり。


「市長の邸宅は10年前からあるそう。10年でこの瓦礫や住民の生活をどうにかできないのって思うの」


 パスカルは言った。


「言うと思ったよ。ここに出た瞬間から思うところありって顔だったからねえ」


 そう言ったのはエミーリア。


「それじゃあ、この小ぎれいな家に住んでいる市長サマに会ってみようか。パスカルの嫌悪感の確認だ」


 エミーリアは皮肉ともとれる言い方をした。

 そうして一行はインターホンを押して市長の邸宅へと上がる。


「よく来てくれたな、ダンピールの御一行。歓迎しよう」


 と、市長は快く一行を出迎えた。

 表情は優し気で、すぐに危害を加えてくる様子はない。


「こちらこそ、招待してくださってありがとうございます」


 と、オリヴィアは言う。


「いいんだ。さて、ソノラ。客人にお茶と菓子を持って来てくれ」


「はい、直ちに」


 ソノラと呼ばれた、スーツ姿の女はこの部屋を出てキッチンへと向かう。

 その様子を見送った後、市長はオリヴィアたちへと視線を戻す。


「さて、君たちばかり立たせておくのも忍びない。どうか座ってくれ」


 市長はテーブルへと一行を案内し、一行はテーブルに座る。最後にヒルダが座ったのを見て、市長は話を始めた。


「まず、私はディサイドの市長アーネスト・ディッキンソン。町の復興に力を入れているが、この通り。どの企業も触れたくない案件のようでね、市民だけでやろうとはしている。ただ、その市民も荒廃した現状を受け入れてしまったようだ」


 市長のアーネストは語る。

 彼の言葉でそれとなくディサイドの町の事情がわかる。が、わかったからこそパスカルは違和感を覚えた。


「不自然ね。鮮血の夜明団は介入するんじゃないの? 少なくとも今のシオン・ランバート会長と監査官がいる限りは」


 パスカルは尋ねた。

 するとアーネストはほんの少し眉根を寄せたが、すぐに取り繕う。気づいたのはパスカルだけだ。


「ストラウス家。鮮血の夜明団の出資者の一角だ。しかも発言権は強い。ストラウス家は、吸血鬼を出してしまったことを後悔したのか14年間ずっとディサイドの復興の権限を握っている。鮮血の夜明団には口を出すなと来たものだ。私もストラウス家とは連携しているが、あちらはどうにも頑固なようだ。思うように復興が進まないのはそれが理由だ」


 と、アーネスト。


「失礼します。お茶をお持ちいたしました」


 ここでソノラが紅茶と焼き菓子を持って戻ってきた。


「ご苦労。ここに置いてくれ」


 アーネストはそう言い、ソノラは6人が囲むテーブルの上に紅茶と焼き菓子を置いて部屋を出た。


「話を続けよう。その復興について私は協力させる見返りにオリヴィアを連れてこいと言われた。まぎれもなく君のことだよ。オリヴィア・ストラウス」


 恐らくこれが本題だ。

 オリヴィアはアーネストを注視する。彼がイデア使いならばその本性がわかるのだ。


「わたしが、ストラウス家に行けばいいの?」


 と、オリヴィア。


「違う。ストラウス家の方がこちらに来てくださるそうだ。うち1人が君の出生の秘密を知っている」


 アーネストはオリヴィアが欲していた情報を提示してきた。

 しかもストラウス家の者が来るのだから、もう逃げられない。オリヴィアは腹をくくった。


「続けてください」


 オリヴィアは言った。


 アーネストはまた、つらつらと話を続ける。その途中で「お茶とお菓子は自由に手をつけてくれて構わない、私も頂こう」と言ったが、肝心のアーネストは手をつけない。

 オリヴィアは不審に思い、焼き菓子の1つをつまむ。

 口にした瞬間、オリヴィアの舌には甘さと同時にぴりぴりとした感覚が走る。が、オリヴィアはその焼き菓子を完食。オリヴィアに毒は効かないから。


 そして、オリヴィアは見えないようにイデア能力でこう伝える。


「アーネスト市長は危険」



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