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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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2 垣間見る裏の世界

 時はオリヴィアが目覚める2日前にさかのぼる。

 鮮血の夜明団テンプルズ支部に来客がひとり。来客は20歳前後の金髪の、キャスケットを被った女。彼女は受付の者にはダフネと名乗った。


「オリヴィア・ストラウスはいる?」


 名乗ったダフネはそうして要件を伝える。

 彼女はテンプルズ支部ではなく、ここにいるとされるオリヴィアに用事があったのだ。


「いますが今会話できる状態ではありませんよ」


 受付の者はそうとだけ伝えるとダフネは一瞬だけ困った表情を見せた。

 だが、彼女もすぐに切り替える。


「では、オリヴィアにこう伝えて。『もし自分の出自を知りたければディサイドに来るといい』って。別に、これは強制じゃない。断られても別に構わない」


 ダフネは言った。

 彼女の言うことを、受付の者はメモに書き残す。


「じゃ、要件はそれだけ。オリヴィア・ストラウスが会話できるようになったら伝えておいて。私、忙しいからこれ以上アモン支部にはいられない」


 と、ダフネは言って外に出る。


「あ、あの……ここはアモン支部ではなくテンプルズ支部――」


 受付の者の声はダフネには届いていない。届いていたとして、ダフネにとってここが何支部なのかはどうでもよかった。

 彼女にはそれ以上に大切なことがあったのだ。


 ダフネは携帯端末を取り、ある人に電話をかける。


「すぐにとはいかないかも。長丁場になりそうだから、そのつもりで」


 と、ダフネ。

 さらに彼女は意味深な会話を交わしながら、テンプルズの雑踏の中に消えた。




 時を同じくして、鮮血の夜明団本部。

 地下の個室にいたのはエレナとランス。2人は会長シオンからディサイドの町にかかわる重大な任務をうけていた。


「ストラウス家なあ?」


 エレナは言った。

 鮮血の夜明団の『暗部』である彼女はストラウス家の事情を聞いたことがある。

 ストラウス家は人間の味方として、レムリア大陸の北側で暗躍しているという。さらに、鮮血の夜明団にもストラウス家の者がおり、対吸血鬼で大きな功績を上げている。


「人間の味方だな。特にディサイドでの事業。ディサイドがああなっても見捨てずに支援している。素晴らしい一族だ」


 と、ランス。


「はは、間違いないぜ」


 エレナも肯定する。


 だが、ランスもエレナも皮肉を吐いていた。

 2人は鮮血の夜明団でも5本指に入るほど頭が回る。さらに、この2人は理由は違えど人の悪意に敏感だ。ディサイドの町に出向く前の段階でストラウス家に対して違和感を抱いていた。


「で、コイツがストラウス家の家系図だぜ。なんでも、鮮血の夜明団には600年前……設立当初からかかわっているんだと。14年前のと最新のがあるぜ」


 と言って、エレナは青色のファイルを開いた。

 ファイルに閉じられていたのは2つの家系図。ひとつは黒塗りがなく、世代が1つ少ないもの。もうひとつは、ある人の名前が黒塗りにされ、世代が増えている。黒塗りの方が最新のものらしかった。


「あからさまだな。よくこんなものが残っていたな? ストラウス家に鮮血の夜明団の出資者がいただろう?」


 と、ランスは言った。


「あー、その出資者だけどさ。殺されたぜ。初音……監査官が取引の日に出席した出資者を皆殺しにしたんだよ。腐敗の元をなくすって名目でさ」


「そういうことだったか」


 ランスはエレナの言う事に納得した。

 どうにも1支部の支部長でしかないランスには、裏の情報は入ってきにくい。特に、鮮血の夜明団の中枢の機密情報――この場合は初音による出資者の皆殺し関連の情報――となればなおさらだ。逆にエレナは暗部ということもあって機密情報は容易に手に入る。

 だからランスと情報を共有する場が与えられた。


「ま、出資者皆殺しともなれば情報を公開する相手も限られてくる。会長も相当考えたんだろう」


 と、エレナ。


「考えたうえで、か。なら、出資者が欠けた分どこから補うのかは決まっているのか」


「お金のことだろ? 決まってるぜ。鮮血の夜明団のフロント企業に、春月支部が作った『鶴田建設』それから、これも春月支部が買収した東レムリアの重工業会社。決定打が揃ったからシオン会長は初音に好きにやれと言った。これが私の知る情報だぜ」


 とエレナは語る。

 さらに彼女はスカートの中に手を入れ、血のついた手袋を取り出した。


「この血は私を狙う暗殺者の血だぜ。出資者の家族から私と初音が恨まれちまってよお、刺客を送られては逆に殺してる。あんまりやりたくはないけどな」


 エレナは言った。


「そうか。なら、俺も暗殺者には気を付けた方がいいな。俺はどうやら、1支部長にしては知りすぎたようだ」


 と、ランス。


「あっはっは、理解が早くて助かるぜ。これから私らは命を危険に晒す。ストラウス家が頑なに支援という名の管理を続けるディサイドを調査する。鮮血の夜明団が知ることのできなかった、14年前のあの日の真相を知る。任務はこれだ」


「ああ。必ず成功させる」


 エレナが言えば、ランスは答える。


 14年前のあの日。

 ディサイドの町にとある豪邸が降ってきた日、ディサイドが吸血鬼アンジェラの力で崩壊した日、オリヴィアがはじめてこの世界にやって来た日。

 あの日については混乱やストラウス家と政府の介入、復興の主導権争いで真相の半分以上がわかっていない。だから調べる。


「さて、任務開始だ」



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