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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第13章 因縁の町【アポロ&ヴァレリアン編】
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1 快復、そして決断

 オリヴィアはベッドで眠っている。その表情は穏やかで、錯乱していたのが嘘のよう。これもマリカが鎮静剤を打ち、クリシュナが処置をしたおかげだ。


「さて、問題はいつオリヴィアが目覚めるかだ」


 と、クリシュナは言った。


 オリヴィアは脳を自ら改造し、廃人にもなりかねない方法でロムを撃破した。その代償は大きく、3日後の今も目覚めていない。


「そうか……とにかくオリヴィアが生きていてよかった」


 晃真はそう言うが、表情は明るくない。


「そうだね。生きてこそ、だ。幸い俺たちの周りで死んだやつはいない」


 クリシュナは言う。




 その翌日、オリヴィアは目を覚ました。

 起きた直後だけ取り乱していたが、オリヴィアはすぐに我に返る。


「ここは……晃真もパスカルもいる……」


 オリヴィアは呟いた。


「テンプルズ支部の医務室。彼……クリシュナが貴女を治療してくれたの」


 そう言ったのはパスカル。


「そうなんだ。わたし、本当に死ぬかと思ったし、ロムを殺せたのなら死んでもよかった。でも、助けてくれたんだね」


「当たり前よ」

「当たり前だ」


 オリヴィアが言えば、パスカルと晃真が同時に言う。2人とリンジーは誰よりもオリヴィアの生存を願っていたのだ。オリヴィアはここにいるパスカルと晃真の思いに触れて、目に涙を滲ませた。


 だが、オリヴィアはそんな余裕なんてないと涙を拭う。彼女は真剣な表情を見せて口を開いた。


「それと……パスカル。ストラウスって苗字の人をわたし以外に知ってる?」


 ここにいるクリシュナを含めた3人はオリヴィアの苗字がストラウスだとは知っていた。さらにパスカルとクリシュナはストラウスという苗字に聞き覚えがあった。


「吸血鬼アンジェラ・ストラウス……それから、彼女の親族のストラウス家ね。確かディサイド近郊住みで、今やスラムと化したディサイドの町を支援している」


 と、パスカル。

 彼女の言う事は間違ってはいなかった。事実、ストラウス家は人間の味方として吸血鬼と戦い、吸血鬼の被害が及んだ場所に対しては支援を惜しまない一族だ。ディサイドの町吸血鬼の被害に遭ったわけで、ストラウス家の支援の対象にはなっていた。


「そうだね。ただ、ストラウス家はアンジェラをもともといなかったことにした。俺はそう聞いている。今度は俺から聞かせてほしい。君の母親は誰なんだい?」


 今度はクリシュナが尋ねた。


「吸血鬼アンジェラ・ストラウス。ディサイドを荒廃させた張本人」


 と、オリヴィアは答える。


 吸血鬼アンジェラ・ストラウスの娘、ダンピール、それから2日前の出来事。クリシュナの中でオリヴィアの周辺のことがきれいにつながった。

 クリシュナは真剣な顔で再び言う。


「ダフネという人から君に伝言を預かっている。もし君が母親やストラウス家について知りたければディサイドの町に来いってね」


「ディサイドでわかるのね」


 オリヴィアは呟いた。

 オリヴィアが全く知りたくないと言われればそうではない。が、アンジェラをいなかったことにしたという点ではオリヴィアへの対応も想像がつく。

 オリヴィアは決断できないでいた。


「待ってクリシュナ。私にも気になるところが一つある。ストラウス家ではよくダンピールが嫁入りすると聞いているの。確かにオリヴィアの母親はああだけど、ダンピールなら少しは対応が変わるんじゃないの?」


 そんなところでパスカルが口を挟んだ。が、クリシュナは反論する。


「そうだね……望んで吸血鬼になったアンジェラに罪があって、生まれてきた子に罪はないって考え方かい。一理あるが、果たしてその考え方ができるかどうか。種族とか人種とかで差別するってよくある話だよ」


 パスカルはその視点を忘れていた。

 レムリア大陸の人間はよく人間ではない種族を差別する。ダンピールに至っては「呪われた存在」「罪の証」「いずれ吸血鬼になる存在」といった根も葉もないうわさで差別されている。人間だったとしても、少し肌の色が違えば差別する。

 パスカルはそのことを忘れるくらいには恵まれた環境にいたのだ。


 パスカルとクリシュナからの情報を踏まえてオリヴィアは決断を迫られていた。

 ディサイドに行くか、行かないか。


「行くよ、ディサイドには。アンジェラのこと、わたしはほとんど知らないから」


 それにオリヴィアは強いから。


 オリヴィアは答えた。

 そこには相当な覚悟があった。

 自身の知らない過去について知ること。ストラウス家について知ること。場合によってはストラウス家と決別すること。どれもオリヴィアの心に衝撃を与えることだろう。


「行くのね。だったら、私も晃真も、エミーリアもヒルダもついていく。貴女はひとりじゃないからね」


 と、パスカルは言った。


「ああ。俺が……じゃなかった、俺たちがついている」


 晃真も言う。


「ありがとう……わたし、良い仲間を持ったなあ。そうと決まればディサイドに向かう準備をしないと」


 そう言うオリヴィアの表情からは不安や迷いが消えていた。

 彼女とは対称的にクリシュナは不安をぬぐえないでいた。オリヴィアがイデア界に到達した使い手であっても、罠だったら無事では済まない可能性がある。


 翌日、クリシュナは強い日差しの中でオリヴィアたちを見送った。

 彼女たちの決断である以上、止めることはできなかった。




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