幕間 会長の考え
「会長か? 俺だ、ジダンだ。こちらマルクト支部、生存者は俺とランスと千春の3人。カナリス・ルートの手のものが爆撃して、マルクト支部は壊滅した」
神妙な口調で話すジダン。
相手はシオン。マルクト区の現状を伝える中で、ジダンの手は震えていた。
『返す言葉が見つからない。配信者アリリオの情報は本当だったんだな』
と、電話口のシオンは返した。
「ああ……それで、俺も千春もランスも身軽になった。もう帰るところをなくしたからな。だから、好きに使ってくれ。会長」
乾いた笑いを浮かべながらジダンは言った。
彼の言う通り、もはやマルクト支部は鮮血の夜明団の支部として成り立つことはできない。すべて壊されたし、見えない部分を担当していた者たちも殺された。守るべきマルクト区の者たちもほとんど殺された。頭の回るジダンだからそのことには気づいてしまった。
『今はそうさせてもらう。だが、いずれマルクト支部は再興する。一先ずはクロックワイズの町に向かってくれ。ディサイドの制圧を頼みたい』
と、シオン。
「わかったよ。2人にも伝えておく……」
ジダンはそう言って電話を切った。
普段は明るく、ぶっ飛んだジダンだが、この時は涙を流していた。
時を同じくして、鮮血の夜明団本部。
シオンは携帯端末を置いてため息をつく。彼の隣にいた初音が心配そうに視線を向ける。
「クソ……なかなか思うようにいかんな。俺がカナリス・ルートへの敵対を決めたところでマルクトの住人が犠牲になった。俺も責任を取らなくてはな」
と、シオン。
「あー、だからですねえ。寝ずに各地の情報に目を通しているのは。それで助かってる人もいるかもしれませんがねえ……やつれてますよお」
初音はシオンの顔を見て言った。
事実、シオンは昨日から寝ていない。その前の日も、さらにその前も睡眠時間はいつもの半分以下。おかげでシオンの目の下には隈ができていた。
「マルクト区のような犠牲者をもう出してはならない。今やらなくてどうする?」
シオンは言った。
「はいはい。で、まさか会長がディサイドの廃墟に向かうんじゃないでしょうねえ?」
「違う。本当は俺が直々に行きたいが、そういうわけにもいかない。だから、信頼できる人を向かわせるつもりだ」
「その判断ができてなによりです」




