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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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35 不可解な力

 少し前にリンジーの荊が展開されたと思えば、今度は荊が崩壊する。


「何が起きているんだ!」


 クリシュナは言った。

 ここはヴァルトたちと戦った会議室。パスカルやクリシュナの他、ヴァルトの能力で瓶詰めにされていた者たちの一部が残っている。


「恐らくロムの能力ね。さっきの引き寄せられる感覚は間違いない」


 と、パスカルは答える。

 さらにパスカルはクリシュナたちの方を向いて言う。


「ロムの能力はね、座標を操る能力。説明するのは難しいんだけど、さっきやられたのはある一点にすべての人を引き寄せるもの。あとは、ロムを攻撃するのはかなり難しいと思うの。ロムはかなり強力な防御方法を持っているから……私よりも格段に強力なものをね」


「なるほどな」

「そういうことですね」


 簡単に理解するクリシュナとマリカ。


「待て、どういうことだ?」


 クリシュナの副官のレアンシュが聞き返す。


「攻略が難しい能力ということだ。それが解かれば十分。錬金術師でもない限りは触れないだろう」


 と、クリシュナは答えた。


「あー……ええと、要するにある点の位置を数値として表すようなもんですよ」


「それだ! 冴えているじゃないか、マリカ!」


 マリカが補足するとクリシュナは言う。するとマリカは自信ありげに言うのだが。


「ま、まあ否定はしませんよお! で、私ちょっと限界みたいです」


 マリカはロムの『収束』に引き寄せられるようにして、壁の中に入り込んだ。そこにマリカの意思は全く無い。イデアを持たぬ彼女は抵抗できなかったのだ。


「マリカ!」


 クリシュナが手を伸ばすが、もう遅い。加えてクリシュナも引き寄せられる感覚を覚えていた。彼はまだ絶えられているが。

 周りに目を向けてみれば、イデアを持たない者たちは次々と引き寄せられて壁の中に消えていく。


「さっきと同じ。少しずつ強くなってるみたいね……オリヴィアくらいの実力があればどうにかできそうだけど……」


 と、パスカル。

 今ここにオリヴィアと同等か、それに近いイデア能力を持つ者はいない。


「となると、杏奈やヨーラン辺りか。厳しい……」


 クリシュナはそう言いながら視界の端で引きずられるレアンシュを見た。レアンシュはそれなりのイデア使いだが、引きずられている。『収束』はより出力を増しているらしい。


「聞いてくれ。今から、君たちを一時的にオリヴィアと同程度のイデア使いにする。脳の手術と薬の投与を同時にやる。が、安心してくれ。生きてさえいれば、元通りにすることは保障する」


 と、クリシュナ。


「ざけんなや! 変態マッドサイエンティスト野郎が! ここでも趣味のためか!?」


 無事な者たちの中から怒声が上がる。


「黙れ。生殺与奪の権くらいすぐ握れることを忘れるな」


 ばっさりとクリシュナは言い捨てる。怒声の主は反論できないようで黙り込んだ。


「大丈夫だ。すぐに終わる」


 と言って、クリシュナはイデアを展開した。そのビジョンを見たことがある者もいたが、やはり異様。見た目は脳とそこから伸びる神経なのだ。


「では、手術といこう」


 クリシュナが言うと、シュルシュルと神経が伸びる。それはまるで触手のようだった。




 イデア能力はより強い――密度や展開範囲で勝るイデアでかき消せる。リンジーがバランスを崩し、『収束』の中心点に引き寄せられるとき。オリヴィアはより濃密なイデアを展開した。それと同時にリンジーの髪と四肢の先端が漆黒に染まる。


 ロムがオリヴィアに迫ろうとしたときだ。

 オリヴィアは近くの影すべてを解き放った。

 辺りが禍々しい影に包まれ、ロムに至っては押し潰されるようだった。が、ロムはほんの少しのけぞるだけでほぼ無傷。影が体内に入り込むこともなかった。


「……この姿は知っているわ。覚醒したのよね」


 と、ロムは呟いた。


「でも覚醒……あんた達風に言えば到達したのは私も同じ。iの座標、展開」


 一瞬だけ『収束』が止まったと思えば、今度は全く違う座標空間が展開された。ついさっきまで黒を基調とした空間だったのが、白を基調とした空間へ。荊も壁も消え――残ったのは真っ白な空間と地面に敷かれた座標軸。さらにリンジーが感じていたイデア使いの気配も消えた。


 空間の異変に気付いたオリヴィアとリンジー。うろたえるリンジーとは対照的にオリヴィアは至って冷静。


「知ってるよ。iは虚数。キルスティが言ってた。あなたのことだから、動きを制限する代物でしょ?」


 オリヴィアは言った。


「オリヴィア……それって……」

「リンジーは荊で空間に干渉してみて。何かわかるまでわたしが持ちこたえるから」


 リンジーが何か言おうとすればオリヴィアは先回りするかのように指示。その言葉にはどこか説得力があった。


「何か知らないけどわかった」


 と言って、リンジーは周囲に荊を展開。オリヴィアは黒い姿のままロムに突撃。


「来なさい。この不幸な世界から解放してあげる」


 ロムは表情ひとつ変えずに言った。




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