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ダンピールは血の味の記憶を持つか ~悪の吸血鬼の娘は自分探しの旅に出る~  作者: 墨崎游弥
第12章 見えざる城【ロム&クラウディオ編】
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29 恨むべき相手とは

 彼は思いがけない助っ人。実力はパスカルにはわからないが、支部長だから強いのは確か。


「クリシュナ……!」


 パスカルは声を漏らす。

 やって来たのはクリシュナだ。輝くような銀色の髪を靡かせ、クリシュナはつかつかと会議室の中へ。

 彼の後ろには戸惑うマリカもいる。


「少し確かめたいことがあってね。存外早く見つかったな、プロスペロ。てっきりもっと奥で怯えているかと思ったよ」


 クリシュナは言った。


「どこから嗅ぎ付けてきたか知らんが、ここまで来られては生かして返す訳にはいかんな。ヴァルト」


「そうだね。さてはプロスペロのことが好きだろ、君」


 と、ヴァルト。


「そいつの言葉に――」

「馬鹿な――」

「な訳ないでしょうが! クリシュナさん、私にかなり愚痴ってましたからね!?」


 パスカルとクリシュナの言葉を遮るマリカ。と、同時にヴァルトが一瞬だけ焦りを見せた。ターゲットが逸れたのだ。

 ヴァルトの瓶はマリカを引き摺り込み、マリカは瓶詰めにされる。このとき、クリシュナは既にイデアを展開していた。クリシュナが展開したのは、脳とそこから伸びる神経のビジョン。ヴァルトとプロスペロは「気持ち悪い」と感じた。


 2人が一瞬怯んだのをクリシュナは見逃さず、脳から伸びる神経をプロスペロに伸ばし。


「何だったか忘れたが、錬金術学会とアカデミーで相当やらかしてくれたな。同じ錬金術師として恥ずかしい」


 クリシュナは言った。


「認識から違うな。私は学会とアカデミーを壊すために潜入したに過ぎん」


 と言うと、赤いアメーバが10体ほどクリシュナに襲い掛かる。クリシュナはごく冷静に神経のビジョンをアメーバに突き刺し。


「そうかい。ところで、君のアメーバは死滅したよ。イデアだけで終わると思わないことだ」


 クリシュナは言う。

 事実、アメーバは青白く変色してドロドロに溶けて動かなくなった。


「やってくれる……! 私もイデアだけでは――」


 プロスペロがそう言ったときだ。

 クリシュナはプロスペロの背後に回り込み、鋭いナイフでその首を搔き切った。

 噴き上がる鮮血、血で赤く染まるクリシュナの頬。

 プロスペロが見たのは視界の端でとらえた刃だけだった。


「そっちは、加勢した方がいいかな?」


 クリシュナは呟いてパスカルたちの方を見る。


 パスカルとヴァルトの戦いも終わりに近づいていた。主にパスカルの体力の意味で。今、パスカルは何箇所か撃たれた状態で戦っており、あえて血も止めていない。少しずつ、だが確実にパスカルの顔から血色が抜けていた。


「挑発に乗らないのは分かったよ。それにしても、ダンピールはどこまで耐えるんだ……!」


 と言って、ヴァルトは斧の一振りを躱す。

 大振りな一撃、外せば隙は大きくなるだろう。ヴァルトはそう考えていたが、パスカルは一撃の勢いを利用して回転、もう一撃加えた。


「……っ!」


 パスカルの攻撃が左肩に入り、ヴァルトはよろめいた。刃が通り抜けた瞬間からヴァルトは身体を再生しようとしたが――うまく再生できない。


「くそっ! 再生しろ! 僕は吸血鬼なのに!」


 ヴァルトは何度も試すが、身体は再生しない。どころか、力が抜けていく感覚を覚えた。

 はっとするヴァルト。


 ダンピールの血液は吸血鬼にとっては猛毒だ。少し体内に入るだけで命の危険が出てくる。


「うあああああァッ!」


 吠えながらパスカルに突っ込むヴァルト。パスカルはヴァルトの弱々しい拳を受け止めた。


「ごめんね。こうするしかできなくて」


 パスカルは言った。


「情けをかけるつもりかよ!? 殺せよ! ほら、僕は君たちダンピールの恨むべき敵だ! 吸血鬼がいなきゃ、生まれながらに地獄を味わうこともなかった!」


 と、ヴァルト。

 パスカルはつい彼の言葉を否定しそうになったが、展開された空の瓶のビジョンが目に入り、言葉を飲み込んだ。


「その通りね。だからロムも苦しくて、世界を恨んだんでしょうね」


 パスカルは言った。


「知ったような口を利くなよ……」


 と言うと、ヴァルトは咳き込んだ。同時に鮮血が飛び散る。もはやヴァルトは立っているのも限界のよう。


「幸せになる方法くらいいくらでもあるのに」

「なれないから世界の破滅を望むんだよ」


 ヴァルトは言う。

 次の瞬間、ヴァルトは血を吐いて倒れた。


「……分からない。救われなかった人を幸せにする方法が。ロム」


 と、呟くパスカル。

 そんな彼女に声をかける者がひとり。


「幸せって言っても色々ありますからね」


 声をかけたのは銀髪の少女、ちょうどオリヴィアと同年齢くらいの少女。シーラ・アッカーソンだった。


「貴女は……」


「シーラ・アッカーソン。お願い、手を貸して下さい。私、訳あって孤立してるんです」


 シーラは言った。

 面識のない人物だが、パスカルはその名前だけは覚えていた。タスファイの元にいた少女。戦いからは遠ざけられ、取引の情報も与えられずにただ「囲われていた」少女。


 パスカルは言葉に詰まる。

 自分が助けたオリヴィアが、シーラを囲っていたタスファイを殺したのだ。少なからず恨まれているのかもしれない、と覚悟する。


「貴女は、敵にも縋りたくなるほど追い込まれているの?」


 パスカルは尋ねた。


「凄く。というか、救われなかった人を幸せにしたいなら私を幸せにしてよ。そうしたいんでしょ……?」


 シーラは言った。その目力にはパスカルも圧され。


「ええ。怖いくらい幸せにする。それより、早くここを離れましょう。まずいイデアの気配が迫っているから……」


 パスカルは言う。

 彼女だけは気付いていた。ロムがある技を使ったのだと。





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